準決勝&決勝編
ブラジルとドイツが残っている事は、彼等がワールドカップを知り尽くしているからだろう。
これは、 理解ができる。
しかし、韓国が
トルコがここにまだ残っていると言う事がすでに大変な事件な気もする。
が、冷静に何がそこであったのか?彼等が何を求め、どう行動したのかを考えてみれば
決して、不自然な番狂わせな結果ではないと思う。
特に韓国がここまで勝ち上がって来る過程で倒して来た相手は
ポルトガル、ポーランド、イタリア、スペイン。
いずれも歴史ある列強の国々である。
負けて行った国々の中には、未だに審判批判を繰り返す国もある。
僕はあえて言いたい。
彼等が、その批判を繰り返す間は、彼等はいつまでたっても敗者なのである。

準決勝第一試合
韓国VSドイツ
韓国0-1ドイツ
この試合に向かう前に、韓国の選手たちの肉体と精神の疲労度は、もうどうにもならない位のレベルになってしまっていたのではなかろうか?決勝トーナメントに入ってから、一試合目117分。二試合目はPK戦まで戦って来ているのである。つまり正味237分。ドイツは、キッチリ90分づつで勝って来ているので全部で180分である。しかも韓国はスケジュ−リングの関係から、ドイツに比べて、一戦目で二日間、二戦目で一日。休養が少ないのである。これは明らかに不公平である。不公平ではあるけれど、スケジュールだから仕方ない事なのだ。
もちろん、ドイツだって、あのカーンが、座り込んでしまうような試合をくぐり抜けて来た訳だから、疲れていない訳はないのである。でも出来る事なら、フルパワーの韓国がドイツに挑む姿を見たかったなあ。

アン・ジョンファンは先発をはずされていた。彼はこの大会で大きく台頭して来た選手であるが、正直言うと僕はあまり買っていない。ナカタのような大活躍をヨーロッパでする選手とは、僕は思えない。なぜなら、彼はナカタではないし、ロナウドでもないからである。
それよりももう一人この試合で先発から外されていた選手がいる。僕は彼の将来性を非常に高く買っている。と、同時にこの試合、彼がピッチにいたらその結果は逆になっていたのではないかとさえ思うのである。彼の名前は「金南一(キムナミル)」韓国国内では、彼は、マーキングと一対一には強いが、テクニックやボールコントロールには劣ると評価されていたようであるが、この大会での韓国の躍進は、彼がいなかったら成し得なかったと、僕は思う。彼は未だ未完成ではあるけれど、フランスリーグやオランダリーグなら大きく化ける可能性があると僕は確信する。ひょっとすると、ヒディングはPSVにキムテオンとキムナミル辺りを連れ帰るのではなかろうか?いや、分からんけれどね・・・・。
とにかく、読みが素晴らしい。それを行動に移す早さが抜群である。彼の活躍があったからこそ、中盤でボ−ルが奪え、結果としてゴ−ル前での危険な状況を格段に減らせたんだと僕は考えている。彼がこの試合に出なかった事で、韓国の中盤は、惰弱なモノになってしまったようにも思う。まあ、ヒディングさんの丹精で、そんなにボロが出るようなバランスではなかったけれど、やはり不安な中盤になっていたと思う。
また、この試合には、韓国の英雄、チャブンクンの息子、チャデュリも先発出場していた。彼も将来有望な選手だろう。この試合でも素晴らしいスピードから素晴らしいセンタリングを上げ、良いシュートに繋がったけれど、ドイツの壁、オリ・カーンのこれまた素晴らしいセービングに防がれてしまった。このシュートがゴールインしていたら、また、この試合の結果もおのずと違うものになっていたと思うのだが・・・。
とにかくこの試合のキーは、中盤にあった。世界有数の組織とスピ−ドを持ったドイツの中盤と、疲労と怪我でメンバーの揃わなかった韓国の中盤では、正直言えば勝負にならなかった。それでも韓国の将来を担うであろうイ・チョンスやソン・ジョング、パク・チソン、ソル・ギヒョンなど懸命な攻撃を繰り返してはいたけれど、残念ながらカーンに届く頃には、コロコロと転がる ボールになってしまっていた。これではカーンは破れない。
ドイツの得点は小さなベッケンバウア−と呼ばれるバラックが後ろから走り込んで来て、シュ−トを打ち、イ・ウンジュがはじいた所を流し込まれた物だったけれど、これだって、キムナミルが健在だったら、あれだけ中をフリーにはしていなかっただろう。惜しい事ではあるが、「たられば」は、勝負事には禁物だから仕方がない事ではある。韓国はその後、イタリア戦同様、アンジョンファンも投入し、最後はホンミョンボも外して超攻撃的な布陣にしたけれど、いかんせん、疲労した体力と精神力では、再度の奇蹟を起こす事は出来なかった。
それでも、イ・チョンスの高速ドリブルをバラックが後ろから倒し、イエローを出させて、決勝戦に出れなくするなど、随所に頑張ってはいたのだけれど・・・。
僕的には、もう少し韓国は右サイドを使う攻撃をすべきではなかったか?と思っている。チャデュリは、それだけの可能性を秘めていたし、事実彼が前線に出て行った時には、その後のドイツの逆襲は、ドイツから見た左サイドは、一歩も二歩も出遅れていたのだから・・・・。
しかし、この試合を見ても、韓国がここまで上がって来たのは、単なるフロックではなかった事が良く分かるだろう。これは素晴らしい事である。同じアジアの人間として・・・なんてちっぽけな枠組みでなく、サッカーと言う共通語を話す総ての人間にとって、新しい流れである。たしかに判定でラッキーな事もあったけれど、だからといって、彼らだけが審判の未熟さに助けられた訳じゃない。審判の判定は、このサッカーという言語の国では最終決定事項なのである。
特にイタリアのビエリ君。もう審判批判はやめなさい。「僕らはルールを尊重し、フェアプレーの精神にに乗っとって、真摯に戦った」と言うけれど、韓国のキムテオンの鼻を折った時の君の行為は明らかに意図的な反則だし、とてもフェアなプレーでもなく、褒められたもんじゃないよ。一発レッドでもおかしくないプレーだった。反省すべきである。出直すべきである。謝罪するべきである。しないだろうなあ・・・・。

準決勝第二試合
ブラジルVSトルコ
ブラジル1-0トルコ
トルコは強かったよね。ホント強かった。個人の能力でも戦術でもブラジルにひけをとっていなかったと思う。組織力ならむしろブラジルより上回っていたんじゃないだろうか?
それでも負けないブラジルと言う国は、やっぱりスゴイ。試合を決めたロナウドのゴールにしても、四人に囲まれて、舞っているようにさえ見えてしまった。さらにシュートはインソールキック(足の裏で転がすけり方)である。彼等はサッカーをプレーしているのではない。サッカーをエンジョイしちゃっているのである。楽しんでやられたら、ブラジルにはかなわないね。正味の話。ブラジルがそれでも一点しか取れなかったのは、トルコの善戦と言って良いのではないだろうか?しかも試合終了間際には、ハカンシュキルが芸術的なボレーまで見せてくれた。いや魅せてくれた。あんなプレーは滅多に見れる物じゃない。スゴイゾ!ハカンシュキル!
これで、三位決定戦は、韓国VSトルコ そして決勝はドイツVSブラジルである。このドイツVSブラジル戦は、歴史あるワールドカップ史上初の対決である。ブラジルは優勝四回。かたやドイツは三回。好勝負が期待出来そうである。また三位決定戦も僕には大変興味深い。日本がトルコに負けたからじゃない。今大会を象徴する二チームが、初めての三位を目指して戦うのである。通常、今までのワールドカップ三位決定戦では、それ迄出ていなかった選手に機会を与えると言うのが通例だったのだけれど、今回は両チームとも考えられるベストの布陣で来るだろう。そして、スタジアムは、韓国全土は再び赤く染まるのである。どちらが勝っても不思議ではないし、どちらが勝っても賞賛を送りたい気持ちである。

三位決定戦
韓国VSトルコ
韓国2-3トルコ
この試合の数時間前、黄海で北朝鮮の警備艇と韓国の沿岸警備軍の間で抗戦があり、韓国軍には4名の死亡者と一名の行方不明者、19名の負傷者が出た。北朝鮮側の詳細は不明である。事件そのものの詳細は未だに不明だけれど、何もこの日に・・・。いや、この日だからこその事件なのだろうか?今の韓国の国民の感情や政治的な背景も考え合わせると、ちょっとコワイ感じもする。でも、これ以上に触れる事はよそう。僕の想像が馬鹿な思いつきに終わる事を祈って止まない。

さて、試合開始前、この事件で犠牲になった人達に黙とうが捧げられた。で、この黙とう後、一度キックオフされたのだけれど。やり直しになった。このやり直しがワールドカップ史上最短のゴールを生むのである。やり直しになった一度目のキックオフの時は、チョン蹴りの後、イ・チョンスに戻した。勢い良くプレスに行くトルコ。それを踏まえた二度目のキックオフだった。最終ライン右まで戻す。そして、センターバックのホン・ミョンボへ。そこへハカン・シュキルとイルハンがプレスをかけに行く。たぶん、ミョンボは、ほんの少しだけあわてたんだと思う。決して気持ちが切れていた訳ではないんだろうけれど、この日の韓国のはバックラインには、キムテオンもいなかったし、彼自身、ワールドカップでの代表としての実質、最後の試合であろうから、感慨もひとしおだったのだろう。そういう所を見のがさないのが、さすがにトルコなのである。ほんのちょっとした、ボールコントロールミスをかっさらって、確実にインサイドキックで流し込む。試合開始からわずか11秒。記録上は開始1分になるのだけれど、とにかくノー・ホイッスルゴールである。とんでもない始まりになってしまった。
しかし、ここで韓国は落ち着いてしまえば、何て事ない失点で終わったと思うのだけれど、守備の要のミョンボのミスだっただけに、チーム全体が動揺してしまった。それでも攻撃に関しては、イ・チョンスが水を得た魚のように活躍した。右サイドからもソン・ジョングの鋭い突破が何度も見られた。そして前半10分。ゴール右側からイ・ウリョンが素晴らしいFKを決めて同点にした。ここで韓国は再び落ち着くべきタイミングを得たのだけれど、残念ながら、今度はトルコの術中にはまる羽目になってしまったのだ。トルコは全体的に引き気味にして、カウンターを狙う作戦に出た。これは日本戦で彼等が先取点を取った後、実践済みの作戦である。しかし、真っ赤なサポーターを背負った韓国は、もう、行け行けになってしまっていた。攻め上がるがその分デフェンスは薄くなる。そこへカウンタ−攻撃。ハカンシュキルがそのまま打てるボールを中へ戻し、イルハンが決める。韓国が同点に追いついてから僅か3分の出来事である。これで、実質この試合は決ってしまったように思えた。それでも韓国は攻める。攻める。攻める。が、しかし、32分トルコGKリテュシュからのロングボールをハカンシュキルがヘッドでイルハンに流し、イルハンが決めて1-3。
さて、このまま前半を終了するんだけれど、この試合でもトルコは、非常にジェントリーだった。激しいプレーはいくつかあったが、きたないプレーは見当たらなかった。トルコは朝鮮戦争にも連合軍として参戦しており、両国の関係は日本同様、良好である。そのせいもあるのだろうが、特に大きなブーイングもなかった。日本戦の時の観戦記にも書いたけれど、あれだけ圧倒的なアウェイ状況の中で、トルコは上手な戦い方をしていたのだと思う。考えてみれば、トルコは本国で試合をする以外、ヨーロッパでもほとんどアウェイな戦い方を強いられて来ている。だからと言う訳でもないのだけれど、その辺の巧さも感じてしまった。
韓国、日本の両ホームチームとこの大会で戦ったのはトルコだけである。しかも2試合とも勝っている。これがトルコの実力である。ボールコントロールや戦術だけでなく、与えられた状況をも上手にコントロールするのは、そんなに安易な事ではないと思う。
さて、後半開始である。韓国はホンミョンボに代えて、仮面の忍者「赤影」こと、キム・テオンを投入した。ここから攻めダルマ、ヒディングの本領発揮かと思われたけれど、やはり、韓国選手一人一人に今までの試合のような体の切れは見られなかった。それでも攻めた。さらにチャ・デュリも投入。この二代目の若者は、往年の父の姿に走る姿まで似てるのねえ。でも七光じゃない。彼は彼で素晴らしいプレーヤーだと思うよ。彼は今までほとんど途中交替でしか出場していないし、何しろ若いから、この日もチャンスをたくさん作ったし、自ら良いタイミングのシュートも打った。間違いなく次代の韓国を背負う選手になるだろう。ハッキリ言ってアンジョンファンより彼の方が、ずっと大物だと思うよ。大化けしちゃう選手だと思います。韓国はとにかくゴール前に迫りたかったけれど、トルコも堅実に守るので、ミドルからどんどんシュートを打って行った。しかし、そのほとんどは、トルコGKリティシュの守備範囲の中での事で、なかなかゴールを割れない。それでも打って行った。残り15分で韓国が放ったシュートは、実に9本。ブラジルでもこんなに打たないよ、実際。そして最後の最後、後半ロスタイムにソン・ジョングの放ったシュートは、トルコデフェンダーに当たり、リティシュも及ばずゴール。ようやく3-2。でも、そこまでだった。試合終了。
終了後、トルコのハカン・シュキルがピッチにいた両チームの選手たち全員で肩を組み、スタンドの観客に答えた。スタンドからも大いに歓声が飛んだ。その後も韓国選手はセンターサークルに丸くなって、韓国の儒教的な挨拶で観客へアピールした。その輪の中には、当初、チームの中から儒教的な物を一切排除したヒディング監督も入っていた。
こんなことがトルシェにできるか?トルシェの事が嫌いな訳ではないんだよ。本当に。むしろ考え方には大いに共感しているんだ。けれど、彼は日本にサッカーを教えに来た教師でしかなかった。本当の監督と言うのは、チームメイトでもなければならないと僕は思っている。そのために彼は、日本の文化も勉強するべきであった。彼のサッカーは押すか引くだけのモノだったように思う。日本には押すと引くの他にスライドさせるフスマやショージの文化がある事を彼は認めなかった。それだけの違いだと僕は思う。
ここにジャパンがいなかった事に関して、不思議なくらい口惜しさはない。むしろ、韓国とトルコという今まで、誰にも見向きもされなかった二つの国が、これだけ素晴らしい試合を魅せててくれた事に感謝をしたい。サッカーをまったく知らない人でもこの手を使えない不自由なスポーツから発射される、人を感動させるエネルギーには、気づいてもらえたのではないかと思う。言語も文化も思想も違う人たちが、このサッカーと言う言葉なら分かりあえる事も理解してくれたのではあるまいか?ちょっと間違って理解しちゃった人達もいない訳ではなかったように思うけれどね。
さて、残るのは決勝戦のみ。後はブータンで行われる202位対203位の公式戦も今日行われるらしい。
知ってました?世界最高を決める試合も世界最低を決める試合も同じルールで行われるんだよ。そして、その試合に出る選手たちのモチュベーションもきっと同じくらい高いモノだと僕は信じて疑わないね。それが「サッカー」なんだよ。

決勝戦
ブラジルVSドイツ
ブラジル2-0ドイツ
結果は皆さん御存じの事なので、今回はバックを勝者ブラジルに敬意を評して、こんな風にしてみました。
僕はこう思う。ブラジルがこの大会の予選リーグでドイツと戦っていたら、まず、10中8,9、ドイツが勝っていたのではないか?つまり、ブラジルはこの大会中に強くなったのである。事実、イングランド戦の前半までのブラジルは、守備体系も確立しておらず、攻める方は、楽しそうに、数々のオプションを使い、変幻自在に出来ていたけれど、守備に回った時には、非常に不安なチームだったのである。その主な理由は、今大会終了後、多くの解説者が発言している事ではあるが、とにかく欧州のリーグにたくさんの選手を出しているブラジルは、メンバ−全員を集めて、チ−ム練習など、ろくに出来なかったからなのである。
リバウドはバルサに、ロベカルはレアルに、ロナウドはインテルミラノに、ロナウジーニョはパリSGに、むろん他の主要な選手も同様である。彼等の中には、この大会が始まる二週間前まで欧州チャンピオンズリーグを戦っていた選手もいるのである。わずか二週間で休養と新たなチーム戦術など身に付く物ではないだろう。
これは何もブラジルだけの話ではない。予選リーグで去って行った、フランス、ポルトガル、アルゼンチンなども同様である。彼等はつまり、この大会の始まる前にキャンプ地に集まり、そこからがチームとしてのスタートだったのである。そして、その中から、ブラジルが幸運にも決勝トーナメントへ進出出来たのは、まずはタレントの豊富さにある。DFエメルソンが肩を脱きゅうしても、彼の代わりなる選手はブラジルには、ゴロゴロといる。
もう一つ、ブラジルと言う国のサッカーに対する考え方が上げられると思う。彼等は小さな頃からサッカーに親しむ。それは他の国々では考えられない程生活の中に密着している。しかし、その子供達がすべて、日本の子供のようにちゃんとしたボ−ルで遊んでいる訳ではない。あのロナウドだって、母親の使い古しの靴下を丸めて作ったボ−ルで練習していたし、リバウドだって同様である。リバウドは、彼が16の時に父親がバスに引かれて亡くなると言う悲劇に見舞われている。兄妹の中でも年上だった彼は、生活のために働かなければならなかったし、サッカーをするにあたっても、生活を支えるために努力したのである。ロベカルにいたっては、5、6才の頃から工場で下働きをしていたそうである。
彼等の多くはペレやジ−コといった、FWもしくは攻撃陣に憧れる。なぜならサッカーと言うゲ−ムの中で得点を決めると言う事が、もっともスカウトに目をつけてもらえる有効な手段だからである。だからと言ってはなんだけれど、 ブラジルでは、優秀なGKがなかなか育たなかったりする。前ブラジル監督また清水エスパルス監督だったエメルソン・レオンなどは、かなり珍しい存在なのである。
そして、今大会の序盤、ブラジルはこの攻撃陣に憧れて、そのポジションを勝ち取った恐ろしく技術の高い、個人能力の選手の集合体で勝ち上がって来た。決して組織としては完成度の高いチームではなかったように思う。
彼等の攻撃している時の姿と言う物はスポ−ツをしているとは思えない程の美しさと華麗さと楽しさがある。何か踊っているようにさえ見えてしまう。 実際の話、ブラジルでは、ただ単にゴールを決めてもそれは、ほとんど評価されない。そこに至るまでにどれだけ華麗なテクニックを魅せてくれるかが大きな問題なのである。かつての名優ペレがわざと相手にボールをぶつけて跳ね返って来たボールをコントロールして抜いて行くワザや、ジジトリック、ガリンチャの独特のフェイントとドリブル、ロナウドのロナウドターンなどは、記憶にも新しい。変な話だけれど、これは何だか上手な落語にも似ているような気がしてしまう。汗をかいて、高座を努めるのでなく、そばの食べ方や、「間」みたいなモノが非常に大切なのである。(そう言えば、僕が小さい頃着ていた浴衣は小さん一門のたぬき柄の浴衣ばかりであった)

さて、この個人能力の優れた個人個人たちが、一同に会して練習を始めても、そんなに簡単には、チ−ム戦術は身に付かない。 と、僕は書いた。それはなぜかと言うと、個々の選手が戦術を理解しても、それがチーム全体として連動して行くためには、心の連動も必要だからである。この心の連動は、何か同じ目的を目指したりする状況がないと、なかなか繋がらない物である。・・・・と、思っていたら、イングランド戦で「その目的」を引き出させる事件が起きたのである。
ロナウジーニョの退場である。その時点で試合は2-1で勝っていたけれど、残り時間はまだかなりあった。そして、一人足りない状況が、ブラジルのここで今大会初めてと言って良い程、組織的な守備を見せるきっかけになった。中盤でのプレスやゴ−ル前でのカバーリングも素晴らしかった。ここでブラジルは攻守両面において初めてチ−ム一体となった気がした。トルコ戦でもたしかにいくつか危ない場面はあったけれど、それまでの試合にくらべれば、ブラジルの守備体系は格段に完成度を増していたと思う。このドイツ戦でも特にボランチのジウベルト・シルバ、クリベルソンに代表されるような危険の芽を早めに摘むためのプレスや囲い込みがとても目だった。ロベカルも前半は、攻め上がりを放棄してまで守りに徹していたように見えた。スゴイね。セレソン。
当初、試合はドイツの攻勢で始まった。意外な事ではない。ドイツは元々攻撃的なチームなのである。また、この日は、試合前に雨が降った事もあり、高い湿度の気候で、たぶん体力的な事も考えて、できる限り早い仕掛けをかけて行かなければならなかったのだと思う。しかし、守備の連携が取れているブラジルはドイツの選手にとっては意外だっただろう。もちろん得点になってもおかしくないシュートは数々あった。対するブラジルの攻撃は、言わば、「得意分野」なだけに3Rがマークされていてもそれ以外のメンバーで充分、イマジネ−ションに溢れた攻撃を魅せてくれていた。しかし、ドイツの守護神は、カーンである。これも簡単に破れるような薄い壁でない事は、みんなが周知している事実であったし、彼はその期待を裏切る事はなかった。まあ、客観的に見ても、少なくともドイツの方が攻勢をかけていたのが目だった。
ブラジルが引いて、ドイツに攻撃させているのとは、ちょっと違うと思った。まあ、局面、局面では、ああそうしているのかなあ?と思わせる動きはあったけれどね。また、この試合、デフェンスラインの統制が取れていたせいもあるけれど、ブラジルGKマルコスの出来も素晴らしい物があった。前述のようにブラジルでは、なかなか良いGKが育たないというのが通例なのに、このGKは、本当に良く頑張った。試合後、あのペレが「まさか、ブラジルの試合でGKを賞賛しようとは思わなかったよ!」と苦笑い混じりに話していた。(ところで、プロに入る前の一時期のことであるが、ロナウドはGKだったんだよ。知っていた??)さて、前半終了間際には、ロベルトカルロスからセンタリングというには、あまりに強烈なボールがロナウドに渡り(よくあんなボール、コントロールできるよなあ?)ロナウドが振り向きざまにシュートを放った。しかし、本当に驚くべき事だけれど、カーンは、すでに前に出て来ていてコースを切っていた。(おい!おい!なんでそんなことが出来るのよ?たしかにDNAに野生の血が含まれているのかも知れないね。スゴイ!リスペクトです。ただし、ゴリラの血じゃないよ。ゴリラは心優しい動物です。ちなみに元々ゴリラと人間の間には、DNA全体を見ても1%弱の差しかないのです。言わば動物界の親戚みたいなモノですよ)
後半の開始である。予想通りと言えば予想通りなのだけれど・・・。ドイツの運動力が極端に落ちて来ていると見受けられた。この日、気温は大した事はなかったけれど、湿度は高かった。案外こういう条件の方が汗が乾燥出来ず、肌にまとわりついて、辛い物なのである。温度の低いサウナみたいな状況なのだ。それでも開始数分は、ドイツも頑張った。特にノイビルのFKは、僕としては「入ってしまえ!」と思ってしまった程素晴らしいモノであった。これに対して、ブラジルはその国土の中に乾燥している土地もあるが、全体としては高温多湿な国だから、まだ大丈夫そうである。そこで、ドイツの状況を推し量りながらではあったけれど、少しずつ攻勢に出て来た。3Rはもちろんのこと、このチームはどこからでも攻撃の起点が生まれる。だって、みんな攻撃する事が大好きなんだもん。みんな、実を言えば、スキあらば点を取りたいんだもん。でも結局、決める人は、最初からサッカーの神様が前々から決めていたようにも思う。それはロナウドだった。ロナウドがドリブルで持ち込む。が、奪われた。しかしロナウドがその瞬間からデフェンダーに変身。素早くボールを奪い取る。そしてリバウドにパス。そしてスタート・・・。リバウドは、この日、その得意の左足でシュートを打てるコースをことごとく潰されていたけれど、ロナウドがボールを奪った場所が、ドイツゴールに近かったせいもあり、ドイツDFの対応が遅れていた。一瞬の空白。それを見のがすリバウドではない。ボールの真芯を蹴ったボールは回転をせず低い弾道でゴールへ。カーンは、落ち着いてボールをキャッチしたかに見えたけれど、ボールが回転していない分、胸に治まらず、バタバタと暴れて転がる。そのボールに最初に追いついたのは、パスを出したロナウドであった。インサイドキックでゴールへ流し込む。カーンの厚い壁が打ち破られた瞬間であった。(後で分かった事だけれどこの一つ前のプレーで 、カーンは右手小指の靱帯を切っていたのだそうだ)
カーンが弾く事など誰が予想出来ただろうか?恐らくドイツDFだって、予想しなかったに違いない。でも、このロナウドが万が一のカーンのミスを想定して走り込んでいたプレーは、FWとしては基本のキのプレーなのである。シュートを打つ。キーパーがポジショニングしていることを見ただけで天を仰いでいる選手も良く見かける。でも、何が起きるか分からない。何が起きても不思議な事じゃないのがサッカーなのである。僕は自分の本「原小キッズ・・・」の中で、この事を想定したシュート練習を提案している。サイドから流した一つ目のボールをシュートした後、ゴール前に走り込み、転がした二つ目のボールを確実にゴールの中へ流し込む練習である。ブラジルがこんな練習していたとは到底思えないが、こんな基本のプレーが、世界最高の舞台でこそ、大事なのではあるまいか?ゴールを決めたその後のロナウドは、四年前フランスWカップで、蒼ざめてうなだれていた彼とは、まったくの別人であった。点を取るとブラジルと言う国の選ばれし男たちは、もう勢いが止まらなくなる。そして12分後、再び彼がやってのけた。クレベルソンが右サイドを上がり、そのままセンタリング、ボールはリバウドの足元に、しかしリバウドは、まるで背中に目があるようにこのボールをスルー。そこにいたのは、ロナウドだった。リバウドがスルーした時点で、この得点は決ったような物だったけれど、そのボールをダイレクトでポストギリギリに流し込むロナウドって一体????スゴスギルゾ!!!髪型は変だけれど・・・
そして、試合はドイツの最後の猛攻にも、今まで酷評ばかりされてきたブラジル守備陣が踏ん張って、無得点に抑え、終了した。
試合後、カーンはロナウドがボールをギリギリに流し込んだそのポストに背を持たせかけ暫く立ち上がれなかった。フェラー監督が声をかけても、コリーニ主審が声をかけても彼は立ち上がらずに、歓喜するセレソンをみつめていた。

この試合、どうしたって世の中的にはマンオブザマッチはロナウドになってしまうのだろうが、僕はあえて、ジルベルト・シルバとクレベルソンを推したい。彼等はいわゆるボランチのポジションの選手だけれど、彼等の活躍があってこそのブラジルの優勝だと思う。特にこの試合では、3R(ロナウド、リバウド、ロナウジーニョ)は確実にマークされ、前半などは身動きも間々ならない状況だったのである。そこで彼等ボランチが大変活躍した。ミドルシュートはバーを叩き、守っては確実にドイツの攻撃の起点をつぶしていた。彼等が機能して、はじめてセレソンは一つにまとまっていたように思う。ブラジルがドイツから2点取った事は、決して不思議な事ではないだろう。が、しかし、ドイツを無得点に抑えた事は、驚きに値する。そして、その原動力になったのは、この二人のボランチだったと思う。

尚、コリーニ主審は、確かに賞賛に値する主審であったと思う。線審は、ロナウジーニョに騙されていたりしたけれど、コリーニさんは騙されなかった。しかもホイッスルの吹き方も適切だったし、試合のコントロールも上手だった。常にボ−ルの側にいた。ミスジャッジは、ほとんどなかったように思う。やはり今後、 主審のレベルも上げて行かなければならないだろうなあ。こんな所に引き合いに出しては、申し訳ないが、韓国のキムヨンジュさんは、最低だった。日本の上川さんは比較的堂々としていたけれど、ミスジャッジは多かった。また、笛の吹き方もいつも同じ長さで吹いていて、しかもナーバスに聞こえた。イタリアVS韓国戦のモレノさんは、確かにミスジャッジをしたかも知れないが、それは死ぬまで黙っていて欲しかった。そんな戦っている選手と同様の意気込みがコリーニさんには確かに見えた。武士(モノノフ)の心意気みたいなモノが・・・・。

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