フロント・スフェアーの交換と
サス・シリンダーの清掃 |
サスペンションの日常メンテナンス
ハイドロ・ニューマチックのサスペンションは基本的には下図の様になっており、シリンダーの中のピストンがLHMオイルを介してスフェアー内の窒素ガスの圧力で車体を支えています。
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- ピストン(黄色)は車輪の上下動に追従してシリンダー(紫色)内でスライドし、LHM(黄緑色)をスフェアーに送りこみます。
- シリンダーとピストンはLHMが漏れてシリンダー内の圧が逃げない様に精密に組み合わされ、シリンダー先端内壁のテフロンリング(赤矢)でシールされています。
- シリンダーとピストンとの潤滑はシリンダー内壁に付着したLHM皮膜でおこなわれます。この皮膜はごく薄いため、LHMが劣化したり異物が混入すると粘度が上昇して、動きが堅くなります。
- ピストン表面に付着したLHM皮膜はピストンの伸び毎にシリンダー先端内壁のゴム製Oリング(青矢)で掻き落とされリターンパイプ(緑)に戻りますが、その量はごくわずかです。量が多いときはシリンダーのチェックが必要です。
- シリンダー内のLHMはリターンパイプを通していつも循環している様に誤解しがちですが、実際はほとんど滞留状態になっています。
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上記したシリンダー内の滞留LHMを強制的に循環させることにより,シリンダー内のスラッジも洗い流され、乗り心地が改善されます。
定期的にメンテナンスをしましょう。
メンテナンス法:
以下の作業を 数ヶ月毎に行う。
- エンジンをかけたまま車高をMIN.にし、プレッシャー・レギュレーターのブリード・スクリューを 1回転ほど緩めて、サス・シリンダー及びスフェアー内のLHMを高圧ラインに戻す。
- ブリード・スクリューを締め、MIN.からMAX.までの車高の上げ下げを何回も繰り返す。
- 1.の作業を最後に繰り返した後、ブリード・スクリューを締めてノーマル位置に戻す。
スフェアーの交換
交換時期: 約2年が目途ですが、走行距離が伸びて足回りが固くなったり、エンジン停止後 車体の落ちが早くなったら交換したほうが良いでしょう。
交換は全部のスフェアーとアキュムレーターを一度に交換したほうが乗り味が顕著に改善されますが、交換し難いリヤ・スフェアーやブレーキ・アキュムのへたりは遅いので4年毎程度でも支障は出ません。
但し、フロント・スフェアーとメイン・アキュムレーターとは同時に交換したほうが良い結果が出ます。
フロント・スフェアー及びメイン・アキュムレーター自体の交換は非常に簡単です。
* メイン・アキュムレーターの交換も同じ手順です。
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- 車高をMIN.位置に落とします。
- メイン・アキュムレーターのついたプレッシャー・レギュレーターのブリードスクリューを1回転程ゆるめると、ピーという音と共にLHM回路の圧が抜けます。
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- フロント・スフェアーを手で持って揺するとガタガタ動くので、LHM回路の圧が完全に抜けた事が解ります。
- 圧が抜けたら、フィルター・レンチを使ってスフェアーを回して緩めます。
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- 堅く締まっている場合は、チェーン式のフィルター・レンチが有効です。それでも回らない時は、メガネレンチを柄にかけます。
- 写真はメイン・アキュムを緩めているところです。
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- スフェアーが外れたら、LHMの汚れ具合をチェックします。
- LHMが変色して黒いスラッジが多く貯まっていたらサス・シリンダーの分解清掃が必要です。
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- ボロ布でLHMを吸取り、内部を綺麗にした後、新しいLHMを補給してシールリングも新品に換えます。
- シールリングにLHMを塗り新しいスフェアーをねじ込んで手だけでいっぱいに締め付けます。増し締めは不要です。
- プレッシャー・レギュレーターのブリード・スクリューを軽く締めて、車高を戻して終了です。
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メイン・アキュムレーターの交換も同じ手順です。
ポイント: メイン・アキュム部のLHMは循環しているので汚れません。もしアキュムを外した時にLHMが汚れていたらLHM自体も交換して下さい。
サス・シリンダーの清掃
サス・シリンダーもハイドロの命です。定期的に汚れを洗いましょう。
- 前車輪のサスペンションシリンダーを外すには、車載ジャッキを使い片側ずつの作業でも可能ですがシリンダーが外しにくく、車体前部をジャッキアップしてウマをかませた方が作業性が格段に向上します。
- 車体前部をジャッキアップしたら、前車輪を外します。
- 車高をMIN.にし、プレッシャー・レギュレーターのブリードスクリューを1回転程緩めます。(前述)
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- フロント・サスペンションのアッパーアームにサス・シリンダー先端を固定する割ピン部(青矢)をラジオペンチで真直ぐに戻し、割ピンの頭(赤矢)を引張って割りピンを抜く。
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- アッパーアームの受座からシリンダーのプッシュロッド先端を外し(赤矢)、メガネレンチ等を使ってプッシュロッド先端を押し上げてシリンダーを縮めて、シリンダー内のLHMを戻しておきます。
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- スフェアーの交換に準じて、フロント・スフェアーを外します。
- スフェアーを外したら、シリンダー上部に残ったLHMをボロ布で吸取っておきます。
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- シリンダーを車体に固定するクリップ(赤矢)を引張り上げて外す。
- LHM高圧配管を止めるユニオンナット(黄矢)を緩め、配管を外す。
- シリンダー固定ピン(青矢)を車体のU字溝から外し、シリンダーをサブフレームから落とす。
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- サブフレームのシリンダー座からシリンダーを赤矢方向(下方)に引抜く。
- この時、アッパーアームが下がっていないと、引抜きストロークが不足する。(アンチロール・バー・リンクも外さねばならず、厄介)⇒前両輪ジャキアップならOK。
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- 左写真は外したサス・シリンダー・ユニット。
- ベローズ固定クリップを緩め、ベローズとプッシュロッドを外す。
- 全体を清掃する。
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- 左写真はベローズを外したシリンダー先端。 LHMリターン穴及び溝(黄矢)に真っ黒いスラッジが溜まり、LHMの循環が無いことが解る。
- 赤矢はピストン。青矢はLHMを含浸させてピストンを潤滑するフェルトだが、乾燥していた。
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- 左写真はシリンダー根元の穴から棒を突込み、ピストンを抜いたところ。
- シリンダー内壁に真っ黒いスラッジが付着している。ピストン表面も同じ状態であった。
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- ピストン及びシリンダー内をCRC等で洗う。
- 左写真は清掃後のシリンダー内部。 異常摩耗や傷(赤矢)が確認できる。
- 黄矢はテフロンリング、青矢はLHMリターン穴と溝、緑矢はLHM漏止め用のゴムO-リング。
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- 左写真は異常摩耗と傷部の拡大写真。傷みが酷い場合はシリンダーの交換が必要。
- 傷部では鉄切子がアルミ製のシリンダ-壁に食い込んでいる。
- 光沢部はノーマル位置でピストン先端が片当りして出来た異常摩耗。
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- シリンダーの清掃が終わったら、 逆の手順で再組立てを行う。
- O―リングは傷み具合で交換する。今回はO-リング部にシリコングリースを塗ってそのままピストンを組込んだ。
- シリンダーにプッシュロッドとベローズを組み付け、クリップで固定する。この時、ベローズ内にはLHM 7ccを注入しておく。
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- シリンダー・ユニットが組みあがったら、ユニットを車体サブフレームのシリンダー座に押し込む。
- シリンダー固定ピン(黄矢)をサブフレームのU字溝にかけ、落ちない様にレンチ等を差込んでおく。
- LHM高圧配管を新しいシール・パイプを使って組込む。組込む時の注意は リヤスフェアー交換 を参照。
- シリンダーを固定クリップで留める。
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- シリンダーユニットのプッシュロッド先端にモリブデングリースを塗り、アッパーアームの受座に新しい割ピンで固定する。
- シリンダーにスフェアーを前述した スフェアーの交換 の手順で組込む。
- 車輪を組み付け、プレッシャーーレギュレーターのブリードスクリューを軽く締める。エンジンを始動し、車高を戻す。
- ジャッキを外して、作業終了。
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