ショートオクターヴの話


17世紀中頃以前に作られたチェンバロ、クラヴィコード、オルガンにごく普通にみられる最低音部の鍵盤配列法。 当時の音楽に不要だった最低オクターヴ域の半音鍵を省略してある。 もっとも代表的な例は「C/E (ツェーエー)のショートオクターヴ」と呼ばれ、下図のように調律される。
C/Eのショートオクターヴ

鍵盤そのものも節約されるが、最大のメリットはとくに最低音域では大型のパイプが必要となるパイプオルガン。節約されるパイプは本数にするとわずか4本で全体の10パーセントにも満たないが、体積や重量にすると計算では20〜30パーセントものダイエットになる。 コストの面はもちろんだが、パイプ配置の空間的なメリットも大きい。

ショートオクターヴはチェンバロやクラヴィコードでもごく普通にみられるが、この鍵盤でなければ運指上弾けない曲、弾きにくい曲もたくさん残っている。 とくにフィッツウィリアム・ヴァージナル曲集にあるペーター・フィリップス作曲の「パヴァーナ・ドロローサ」「ガリヤルダ・ドロローサ」の低音部で、8度、長10度が交互に続き、指はオクターヴの連続を弾くだけというところなど、おもわず感激してしまう。

しかし当然のことながら、省略された音を必要とする曲は弾けない。上述のヴァージナル曲集の中にも結構あり、とくにジョン・ブル、ウィリアム・バードに弾けない曲が多く困惑する。

リュッカースは「移調二段鍵盤の話」でも見たように、C/E〜c³の4オクターヴ45鍵の鍵盤に強く執着しています。 その理由はきわめて美しい対称性にあるのではないかと考えています。 これほど美しい配列を崩したくない気持ち、わかりますよね。(下図)

C/E〜c3の美しい鍵盤図


もう一つの重要なショートオクターヴは 17世紀のフランスの楽器などにしばしばみられる「G/H(ゲーハー)のショートオクターヴ」と呼ばれる例。 最低音のシの鍵を見て「どうしてもソに見える」ようでないと「チェンバロ奏者」とはいえないとか。
G/Hのショートオクターヴ

シャープ鍵を前後に2分割して、ショートオクターヴで省略された音を演奏できるようにした鍵盤もあります。 これならブルもバードもクリアー。

分割オクターヴ


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