日本盤:生産中止 (Sony Records SRCS 6237 1992年9月1日再発 1748円)
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US盤:Columbia Records
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アルバムScissors Cut は雰囲気が統一されていて、コンセプト・アルバムと言ってもいい、と思います。しかし、US盤は日本盤(及びUK盤)と曲順も曲目も違うのです。タイトル曲"Scissors Cut"から始まり、このアルバムにぴったりの"The Romance"が入っているのが、わたしにとっては「完璧な」Scissors Cutなのですが…。ささめごと残念なことに、日本盤は、2001年に廃盤になってしまいました。また、いつか、この美しいアルバムが再発されることを祈っております。それまでは、ぜひ、UK盤か、日本盤の中古を探してみてください。
アルバムScissors CutアルバムScissors Cut
チャート
Is This Love
ジャケット
ため息のでるような、美しく、せつないアルバムです。Artのアルバムの中で、最も内面を語るもの、と思います。わたしも、このアルバムが、多分、一番好きです。チャートこのアルバムは、1975年に出会い、そして1979年6月に自殺という最も辛い別れを選んだ恋人、Laiurie Bird に捧げられています。and dedicated to you.
Bird"She was everything I was looking for in a woman."わたしの中では、このアルバムと、Still Water と、映画「ジェラシー」は一本の糸でつながっています。Still Waterを訳していると、何度もこのアルバムが頭の中で流れ始めます。アートは、このアルバムが発売された81年から散文詩を書き始めました。プロデューサーは、Angel Clare 以来ひさびさの登用となったRoy Halee(ロイ・ハリー)と、Art自身です。
「彼女は、僕が女性に求めるもの全てを持っていた。」
( "SIMON & GARFUNKEL: THE DEFINITIVE BIOGRAPHY" by Victoria Kingstonより)"Laurie was the greatest thing I ever knew in my life, now I've lost it."
「ローリーに出会ったことは、僕の人生で起こった、一番すばらしい出来事だった。そして、僕は彼女を失ったんだ。」−79年
アルバム自体は、アメリカ113位、イギリス51位。シングル"A Heart In New York"(B面"Is This Love")は、アメリカで61位までのぼりました。Is This Love (邦題「イズ・ディス・ラヴ 」) (Jeffery Staton)
ちなみに、日本では、"Hang On In"がなぜか、「北風のラストレター」という謎の邦題でシングル・カットされ、かなりのヒットになりました。B面は"Is This Love"で、このシングルは、かなりキャッチーですね…。
"Is This Love"は珍しくアップ・テンポの曲で、Artのソロの内で、シングルでのみ発売されどのアルバム(ベスト盤にも)にも含まれていない唯一の曲です。現在入手方法は、中古のシングルLPやEPを探す、しかないでしょうが、聞いてみる価値のある1曲だと思います。しかし、この曲はこのアルバムに入っていてはいけない曲だとは思います。「この気持ちはなんなんだろう?これが恋っていうもの?」というキュートでポップな曲なんですが、Scissors Cutの雰囲気や声質とは明らかに違います。歌詞は、The Art Garfunkel WebsiteのLyrics of Songsにあります。ジャケット
("Is This Love"については、Chokuくん、ロルさんに教えていただきました。ありがとうございました。^^)
こちらをじっとみつめる、タキシード姿のArtのモノクロ写真。よーく見ると、首筋に小さなバンドエイド。きっと深読みしすぎなんでしょうが、このバンドエイドは、彼のこの時の喪失感を表すものだと思います。おそらく、このバンドエイドの下には、何の傷もなかったのでしょう。しかし、心の傷は、3年がたっても癒されてはいなかったのです。彼は、ローリーを失って、後を追うことはしませんでした。でも、本当は、そうしたかった。その気持ちを、このバンドエイドに託したのではないか。そんな気がします。
【追記】
前作Fate For Breakfastの日本盤LPのライナー・ノートにもこの写真が使われていて、そこにはバンドエイドは写っていない、ということを教えていただきました。やはり、このバンドエイドはなんらかのメッセージが込められているのでしょう。(Hiroさん、ありがとうございました。)さて、裏ジャケットは、女性の写真ですが、顔は写っていません。これは、ローリー・バードの写真です。注目は、彼女がつけている犬のピンバッチです。このピンバッチは、1981年9月のセントラル・パークS&G再結成コンサートの時に、Artがつけていたことが、カッチイさんによって指摘されました。(さすがです、師匠…)
インナー・ジャケット写真に移りましょう。左側、スーツ姿で黒板の前に立つこの写真は、ArtがS&G最後のスタジオ・アルバムBridge Over Troubled Waterの発売後、一時期、コネティカット州の私立中学校で数学の教師をしていた時に撮られたものです。
右側、軍服姿の一枚は、Artが出演したことが、S&G解散のきっかけになったとも言われている、Mike Nichols監督の映画"Catch-22"の1シーンからのものです。首にナプキンをつけているのは、オープンカフェで、パスタを食べている場面だったからです(笑)。ジャケットのレタリングは、Still Waterと同じく、Artによるものです。(Still WaterのPoem 12の解説と試訳を参照)
tap crude rhythms for bears to dance to when all the while we long to make music that will move the stars to pity." -GUSTAV FLAUBERT |
あって、我々がそれを叩いて空の星を感動させようとした ところで、しょせん熊を踊らせるメロディーを叩きだすくらい のものなのだから。」 −グスタフ・フロベール |
日本語訳:世界文学全集17『フロベール』菅野昭正訳(集英社、1976年) pp153-154より引用
フランスの作家、グスタフ・フロベールの小説『ボヴァリー夫人』からの一節が引用されています。(探し出してくださったようこさんに感謝と尊敬の念を表させていただきます^^。)1. Scissors Cut(Jimmy Webb)この一節は、夫との情熱が感じられない結婚生活を物足らなく思い、「恋に恋している」ボヴァリー夫人・エンマが、不倫相手のロドルフに熱く想いをぶつけるシーンの後に出てきます。
あなたなしではいられないほど愛している、と言うエンマに、遊び人のロドルフは、そんな台詞は情婦たちから何度も聞かされている、と思い、エンマの言葉を信じようとしません。「それはありきたりの気持ちをごまかす大仰な口説だと割引して聞かなければならない、と彼は考えた。ちょうど魂に豊かにみなぎる思いが、ときには、この上なく空虚な比喩としてすら溢れださないのと同じことだ。それというのも、誰にしたところで、決して自分の欲求、思念、苦痛の正確な寸法を示すことなどできないのだ」<前掲書、p153>この後に続いて、「人間のことばというのは・・・」という一節が続きます。そして、駆落ちをせまるエンマに(言葉だけは誠実にみせた)置手紙を残し、ロドルフは裏切って逃げ出し、エンマはショックで病気になります。この引用に関して、ようこさんの意見をご紹介します。
「こういう話の内容をふまえてみると,あの引用のことを(私は)いままで『自分が楽器として用いている人間の声や歌は弱いもので,ただ自分はとにかく天の高みを目指して歌っている』ということかと思っていたんだけど,違いますね.Laurieは自殺する前、Artと結婚したい、とよく言っていたそうですが、最初の結婚で傷ついたArtは結婚に踏み切ろうとはしませんでした。この引用は、ようこさんのおっしゃるように、Laurieの言葉に耳を傾けなかった自分への非難だったのかもしれません。
『彼女の言っている真意をくみとらず,自殺へと追い込んだ自分』に対する痛烈な非難なのではないでしょうか.特に引用の前の部分を見ると..ロドルフと自分を同一視しているのでは..(ただしロドルフは反省もせずに彼女を棄てていきます.それほどの最低な男との同一視(?)...つらいです)」<私信より引用>また、Laurieに捧げたこのScissors Cut- 失恋の曲がアルバムの大部分を占める-をもってしても、自分の「苦痛の正確な寸法を示すことなどできない」ということかもしれません。
Still WaterのPoem 17(試訳参照)の「僕は、この街が大好きだ。でも 彼女 ほど愛したものはなかった・・・
だからショーは続かなくてはならないとか悲しみが役に合ってるかどうかなんて、誰が気にするんだろう? 」
という一節や、Earth Sectionのインタビューの「ある日、僕は決して(Laurieを失ったことから)立ち直れない、と気づいた。なぜなら、『立ち直る』ということは思い出をカーペットの下に押し込んで生きていく、ということだから。(後略)」という言葉、その後の「でも、そんなことでは人生が前に進まないとは思わなかったんですか?」という質問に対する「みんなにそう言われたけど、『じゃ、人生って何のためにあるんだい?どうしてそうしちゃいけないんだい?彼女の日誌や本に没頭するのをやめて、ダン・ラザーの6時のニュースを見たほうがいいのかい?そうしろって言うの?みんなと同じ世界に生きろと?』って言ったよ。」という答えを思い起こしてしまいます。部屋に残っていた彼女の遺品を捨てることができたのは、自殺の10年後、Kimとの結婚後の1989年でした。どちらにしろ、Artにとって、このアルバムは血を流すような思いで作り上げたのではないか、と思わされます。
Special Thanks to Mary Ellen Kirby and Gayle Simon
に挙げられている、Gayle Simonは、Still Waterの献辞および Poem25 にも出てきます。It was mixed using by the MITSUBISHI DIGITAL AUDIO SYSTEMS
三菱のデジタル・オーディオ・システムに関しては、さとうさんの音楽館〜サイモンとガーファンクルに詳しいです^^。
Jimmy Webb(ジミー・ウェッブ)作曲で、セルフ・カバーは1982年のアルバムAngel Heartに入っています。この曲は、ソロの中で、アートが最もお気に入りの4曲の内のひとつに挙げています。(The Art Garfunkel Websiteの99年5月のWeb Interview参照)2. A Heart In New York(Barnard Gallagher, Graham Lyle)この曲のプロモーションビデオが存在します。ハサミや薔薇の絵が出てくるもので、ちょっといまいちの出来ですが^^;。
1981年のS&G再結成コンサートでも、「僕の新しいアルバムから1曲。唯一ポールぬきの曲です。」と言って歌われました。Across America にもライブ・バージョンが収録されています。"Break Away"の作者である、Gallagher&Lyle(ギャラガー&ライル:1964-79にデュオとして活動)の81年の作品で、セルフ・カバーは91年リリースのVery Best Of Gallagher&Lyle(A&M)に収録されているようです。このベスト盤には、Breakawayも入っています。3. Up In The World (Clifford T. Ward)Victoria Kingston著の Simon&Garfunkel: The Definitive Biography (1996年)によると、曲のエンディングの前に聞こえる歓声は、野球場の観衆が勝っているチームに向かってあげているもので、男性の声は、"The last ball's in the air."(「最後のボールが高く上がった!」)といっているらしいです。これがフライのことなのか、ホームランなのかが一部ファンの間で懸念となっていました。
しかし、後日の調査によりますと、"The last ball to Mayer!" ではないか、という説が浮上してきました。これだと、「メイヤー(選手の名前でしょうか)への最後のボール」となり、歓声との前後関係も自然です。更なる調査が必要ですね(え?もういい?)。(King of Tonga さんとちぇしゃさんに感謝いたします。)
曲の全般に渡って、街や飛行場、野球場などの雑踏がさりげなく組み込まれています。
また、この曲にもプロモーション・ビデオが作られました。Artが下着とTシャツ姿でベットから起きあがるところから始まるもので、これはなかなか見ごたえ(こらっ^^;)があります。
イギリス人のシンガー・ソングライターのClifford T. Ward(クリフォード・T・ウォード)の75年の作品。Cliffordのオリジナル・バージョンは、75年のアルバムNo More Rock 'n' Roll に収録。このCDは現在市販されていませんが、Cliffordの公認ファン・サイトで購入できます。この曲には、思い入れが(^^;)。「出世した人を皮肉った曲」という認識しかなかったのですが、ある時、これはアートが自分を痛烈に皮肉っているんじゃないか、と思い当たったのです。
名声は手に入れた。お金も。映画で主演も演じた。でも、彼女は失った…。
アートは自分では曲は書きません。でも、やっぱり"Tonight I sing his songs again, ...but all his words come back to me."なのだと思います。4. Hang On In (Norman Sallitt)【追記】
と、思っておりましたら、前述の"Simon&Garfunkel: The Definitive Biography"によるとこの曲は、仕事に夢中になって自分をかえりみなくなったかつてのガールフレンドへの歌、と解釈されているということを教えていただきました。確かに、言われてみればそんな気も…^^;。
しかし、注目すべきは、作者のClifford T. Wordのオリジナルバージョンは3番まであるということです。(歌詞はCliffordのファンサイトのこちらのページで。)
3番の歌詞は、
「僕は落ちぶれちゃったよ 君のおかげでさ 君は僕の人生を意味あるものにしてくれたけど、それを投げ捨ててしまった 本やおしゃれな会話 新しく見つけた友達、人間観―そして社交と引き換えに」
というような意味のもので、ここまで歌うとはっきりと女性への歌だと分かります。しかし、あえてArtは3番を歌っていない、ということはやはり、Artの意図するところは、「仕事にかまけて恋人を失った男性(=Art自身)への批判」だった、とわたしは取りたいです。
シンガー・ソングライターのNorman Sallitt(ノーマン・サリット)81年の新曲。Tycoonというグループが、81年のアルバムTurn Out The Lightsで取り上げています(RenaissanceからCDで再発)。未確認ですが、ノーマン・サリット自身のバージョンも、アルバムHere I Amに収録されているようです(LPのみ、廃盤)。5. So Easy To Begin (Jules Shear)
Cyndi Lauper(シンディ・ローパー)の"All Through the Night"やThe Bangles(ザ・バングルズ)の"If She Knew She What She Wants"などのヒット曲で知られる、Jules Shear(ジュールス・シアー)76年の作品。6. Can't Turn My Heart Away (John Jarvis/Eric Kaz)
この曲は、Olivia Newton-John(オリヴィア・ニュートン・ジョン)も77年のアルバムMaking Good Things Better(UNI/MCA)で取り上げています。
ピアノ、キーボード、ボーカルでアートのアルバムの内4枚に参加し、Watermarkツアーにも同行したJohn Jarvis(ジョン・ジャービス)と、シンガー・ソングライター、Eric Kaz(エリック・カズ)の77年の共同作品。この曲にも、John Jarvisはピアノで参加しています。7. French Waltz(Adam Mitchell)
John Jarvisのセルフカバーは、85年のSo Far So Good (MCA、廃盤)に入っています。
Adam Mitchell(アダム・ミッチェル)72年の作品で、オリジナル・バージョンはアルバムRed Head in Trouble!(79年、Warner Brothers、廃盤)に収録されています。この曲は、他にもAnne Murray, Nicolette Larson, Jane Oliverら多数のアーティストが取り上げています。8. The Romance(Eric Kaz)
Eric Kaz(エリック・カズ)の77年の作品。前述のように、USリリースには含まれていませんでしたが、このアルバムにはぴったりの曲です。9. In Cars (Jimmy Webb)
Jimmy Webbの作品で、81年のGlen Campbell(グレン・キャンベル)のアルバムIt's The World Gone Crazy、またJimmyのセルフカバーは82年のAngel Heartに収録されています。10. That's All I've Got To Say(Jimmy Webb)
注目は、終わりの方で"Scarborough Fair"の一節"Remember me to one who lives there, she once was a true love of mine."が歌われていることで、これはLaurieのことを示唆していると言われています。また、Paul Simonがバック・ボーカルで参加しています。
Jimmy Webbが81年に、アニメ映画"The Last Unicorn"(1982年放映、アメリカ・イギリス・日本共同作品)のために書いた曲で、映画ではPrince Lir役のJeff Bridgesが歌っています。Hiroさんが、「Scissors Cutを包む空気は『過去』である」という非常に的確な表現をしてくださいました。
「例えば、"The French Waltz"を Adam Mitchell の歌で聴くと、確かに幸せなパリのカップルが浮かんでくるのですが、Artie の歌で聴くと、なんだかもう手の届かない過去の物語のような気がしてくるのです。"In Cars" にしてもそうで、人が思い出を歌っているのではなく、霧の中で思い出そのものが歌っているような、どこか気遠い、遥かな感じがします。このアルバムを最初に聴いた高校生の頃も、ノスタルジアの先取りという感じで不思議な感動の仕方だったのを覚えています。まだ経験しない恋を懐かしむような感じというか。」(私信より引用)
わたしが、「過去」を一番強く感じたのが、"That's All I've Got To Say"のサントラのバージョンとArtのバージョンを聞き比べた時でした。サントラのバージョンは3番まであり(歌詞は、The Songs of The Last Unicornというサイトのこちらのページにあります。)、かなりカジュアルな感じです。
内容もArtのバージョンは「君について本が1冊かけるほど一緒にいたけど でも1節も形にできない 上手く言葉にできないんだ とにかく愛してる 言わなきゃいけないのはそれだけ」で終わりですが、サントラのバージョンでは、ふたりの愛についてスピーチを作ろうとはするけど、くちごもって彼女に笑われそうと思ったり、シンフォニーをかこうとしてはメロディーが分からなくなったりしています。更に、後半から女性(Unicorn/Amalthea役のMia Farrow)のデュエットが入ります。つまり、サントラでは「愛を上手く伝えられない不器用な彼を、彼女が笑って見ている」という構図が浮かんできますが、Artのバージョンでは、"Anyway, I love you"という言葉を受け止めてくれる人は、もういないのです…。
"I took her death terribly and remained moody over it through much of the 80's."
「彼女の死は辛かった。僕は80年代の大半はずっと落ち込んでいた…」1988, Art Garfunkel
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*"Hang On In"(北風のラストレター)が、日本のチャートで何位まで行ったのか。
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