Angel Clare  (1973)

邦題『天使の歌声』

日本盤:Sony Records MHCP199  2004年2月25日再発
(初のデジタル・リマスター化、解説も改稿)
US盤:Columbia Records
 

  1. Traveling Boy
  2. Down In The Willow Garden
  3. I Shall Sing
  4. Old Man
  5. Feuilles-Oh / Do Space Men Pass Dead Souls On Their Way To The Moon?
  6. All I Know
  7. Mary Was An Only Child
  8. Woyaya
  9. Barbara Allen
  10. Another Lullaby
  1. 青春の旅路
  2. 悲しみのウィロー・ガーデン
  3. 君に歌おう僕の歌
  4. 老人
  5. 木の葉は落ちて/魂は何処へ
  6. 友に捧げる讃歌
  7. ひとりぼっちのメリー
  8. 天国への道
  9. バーバラ・アレンの伝説
  10. もうひとつの子守歌

ささめごと

アルバムAngel Clare

Art Garfunkel ソロ・デビューアルバム。オーケストラを多用し、正統派、という印象。S&Gで出来なかったことをやった、と同時に、S&Gの延長線上という感じがします。日本盤のLPの帯によると、「アルバム製作に、2年余りの歳月をかけ、20万ドル以上の制作費を使い、32チャンネルという驚くべき録音方法を駆使している」そうです。

スタッフもプロデューサーとエンジニアにRoy Halee(ロイ・ハリー)、キーボードにLarry Knechtel (ラリー・ネクテル)("Bridge Over Troubled Water"のピアニスト)、7の"Mary Was An Only Child"のギターに Paul Simon (ポール・サイモン)と、おなじみの顔が揃っています。後に、Fate For Breakfast でプロデューサーをつとめる Louie Shelton (ルイ・シェルトン)も、ギターで参加しています。また、他にも、Shelter (シェルター)のJ.J. Cale(J・J・ケイル)、Grateful Dead (グレイトフル・デッド) のリーダー、Jerry Garcia (ジェリー・ガルシア)、S&G 後期のツアー・メンバーでもあった Fred Carter, Jr. (フレッド・カーター・ジュニア)らのギタリストを起用しています。

アメリカで5位、イギリスで14位までチャートを上昇し、10月24日にはゴールド・アルバムになりました。プロデューサーは前述のRoy と Art 自身です。

シングルカット
*All I Know/Mary Was An Only Child
*I Shall Sing/ Feuilles-Oh --Do Space Men Pass Dead Souls On Their Way To The Moon?
*Traveling Boy(アルバムとは別バージョンで、シングル用に再編集したもの)/Old Man
*Second Avenue(ベスト・アルバム Garfunkel に収録)/Woyaya (1974年)
の4枚です。
ジャケット
口をちょっと開いてこちらを見つめる Art。しかもよく見ると、ラグビージャージの右肩に穴が(^^)。

ちなみに、LP にはおまけとして、教会の中でレコーディングしている Art と Roy を写した白黒のポスターがついていました。

また、ジャケットをよーく読みますと、クレジットに、"Use of Grace Cathedral..."と記されています。ポスターの教会は、この大聖堂で、おそらくサンフランシスコにあ Grace Cathedral (グレース大聖堂)だと思われます。72年に始まった、レコーディングは最初サンフランシスコ、その後L.A.で行われたそうですので。Grace Cathedral のサイトで、バーチャル・ツアーが楽しめます。(高速回線でないと、かなりつらいですが・・・。)

タイトル
この Angel Clare というタイトルは、トマス・ハーディの小説「テス」(Tess of the D'Urbervilles)の登場人物の名前から取ったものです。ちなみに、この小説を、Artは1973年7月に読んでいます。(The Art Garfunkel Website Books Read ページ参照。)

どうして、これが邦題「天使の歌声」になるんでしょう。ウィーン少年合唱団じゃないんですから。
とかく、Art Garfunkel は「天使の声」と言われますが、わたしはあんまりこの表現好きではないです。

<おまけ…というかミクロなコネタ>
Stephen King (スティーヴン・キング) の小説「シャイニング」(1977年、The Shining )に、超能力者の男の子ダニーが、ママのLPが床に落ちて壊れている夢(幻想?)を見るシーンがあります。そのレコードは「ビートルズ、アート・ガーファンクル、バッハ、リスト」でした。この本をたまたま読んだとき、「どのアルバムだったんだろう?」と考えました(笑)。1977年と言うことは、Angel ClareBreakaway です。3日間考えた末、バッハとリストがあるので Angel Clare に違いない、という結論に達しました(^^;;)。

ちなみに、ArtはこのThe Shining を1977年9月に読み、「お気に入り」の内の1冊にあげています。

1. Traveling Boy (Paul Williams, Roger Nichols)
The Carpenters (カーペンターズ) の"We've Only Just Begun"(邦題「愛のプレリュード」)や"Rainy Days And Mondays"(邦題「雨の日と月曜日は」)など一連のヒット曲で知られる Paul Williams (ポール・ウィリアムス) の作詞で、 作曲は Roger Nichols (ロジャー・ニコルス)。Paul Williams のバージョンは、1972年のアルバム Life Goes On (ポリドール)と、ベストアルバム A&MG Hits (ポリドール)に収録されています。

邦題「青春の旅路」とは…笑かせてくれますね(^^;)。日本で発売されたシングルLPは、小麦畑(田んぼ、ではないことを願います^^;)の絵を背景に Art が立っているというジャケットで、これも結構笑えます。また、シングル・バージョンは、イントロがない別バージョンで、シングル用にArtが再編集・トラックダウンしたものだそうです。

2. Down In The Willow Garden (Charlie Monroe)
"Barbara Allen"もそうですが、イギリスからアメリカに渡った古い「マーダー・バラッド」(殺人を扱ったバラッド)のひとつです。アメリカ南部のケンタッキー州発祥の音楽、ブルーグラスを創った Billy Monroe (ビリー・モンロー) の実兄の Charlie Monroe (チャーリー・モンロー)の1945年の作といわれています。
Art が参考にしたのは、The Everly Brothers (エヴァリー・ブラザーズ) の1958年のアルバム Songs Our Daddy Taught Us に収録されているバージョンだと思われます。このアルバムは、後述の"Barbara Allen"や Songs From A Parent To A Child 収録の"Who's Gonna Shoe Your Pretty Little Feet?"、S&G のボックス・セットOld Friends に入っている"That Silver Haired Daddy Of Mine"も入っています。1988年に Rhino Records から CD で出ています。
3. I Shall Sing (Van Morrison)
Van Morrison (ヴァン・モリソン) の1970年の作品。Van Morrison 自身によるレコーディングはないようです。Artのバージョンがトリビュート・アルバム Van Morrison Songbook にも収録されています。
4. Old Man (Randy Newman) 試訳
Randy Newman (ランディ・ニューマン) 本人のバージョンは1972年のアルバム Sail Away (ワーナー)に収録されています。アートは Randy Newman が結構お気に入りのようで、Still Water のPoem 11(分析試訳をご覧下さい)に彼の名前が出てきますし、コンサートやTVライブでも、"Real Emotional Girl" (1983年 Trouble In Paradise (ワーナー)に収録。)など彼の曲を好んで取り上げています。

Randy Newman に関しては、こちらのThe Randy Newman Homepageが詳しいです。

5. Feuilles-Oh / Do Space Men Pass Dead Souls On Their Way To The Moon? (Traditional/J. S. Bach- Linda Grossman)
"Feuilles-Oh"はハイチの民謡で、S&G の最後のスタジオ・アルバム、Bridge Over Troubled Water に、Art が入れたかった曲です。(S&G のデモ・バージョンはボックス・セットOld Friends に収録。) Paul Simon は"Cuba Si Nixon No"を入れようと主張、結局どちらも入れずに、Bridge は11曲で発売されました。

歌詞はフランス語もどきの、ニューオリンズ植民者達の言葉(いわゆる"Cajun"ってやつですね)だそうで、Art本人にも「歌詞は難しすぎてわからない」そうです(^^;;)。(ソース:ひろしさんのサイト Salmon & Garlic の"Traveling Boy in Japan '98"より)

【追記】
ニュースグループ alt.music.paul-simon で2000年5月に、この歌詞が話題に上りました。議論と調査の結果、この歌詞はハイチ・クレオール語であることが判明しました。人類学の教授に聞き落としてもらった結果、歌詞の内容は、
"Oh leaves, save my life, in my wet eyes oh. (wet=tear-filled) I am poor, my  daughter is sick.  We're going to the voodoo priest (a name is given), please save my daughter."
だということです。貧しいのに娘が病気になってしまい、ブードゥー教の呪い師のところに行く、という悲しい歌だったのですね・・・。

Artのバージョンは、"Do Space Men Pass Dead Souls On Their Way To The Moon?"の部分がついて、より洗練されています。ちなみにこの"Do Space..."の美しい歌詞は当時 Art の妻だった(75年に離婚)、Linda Grossman (リンダ・グロスマン) の作詞です。彼女は、プロの作詞家ではなく、グラフィック・デザイナーでした。この部分の曲はバッハのカンタータです。"Do Space..."は高橋洋子さんというシンガーのアルバム『リビング・ウィズ・ジョイ』(キティMME、1996)というアルバムでカバーされています。

1978年の Rolling Stone のインタビューによると、この曲には、汽船の汽笛の音が入っているそうです。Art は Linda と一緒にサンフランシスコ湾にポータブル・レコーダーを持って、タグボートで大型汽船の近くまで行き、ステレオ録音したとのことです。

6. All I Know (Jimmy Webb)
Jimmy Webb (ジミー・ウェッブ) の書き下ろしです。Jimmy のセルフ・カバーは、彼の1996年のアルバム Ten Easy Pieces (EMD/CAPITOL) に収録されています。

最高全米8位にチャートインし、ソロとして初ヒットになりました。現在でもコンサートでは必ず歌う定番曲です。1978年にホストを務めた、TV番組 Saturday Night Live でも、チェロとピアノを伴奏に Angel Clare バージョンぽく歌っています。
Up 'til NowAcross America にそれぞれ、異なるライブ・バージョンが入っています。
最近のライブ・バージョンは、ピアノだけでしっとりと聞かせていますが、この Angel Clare バージョンは、オーケストラを使っています。1998年のThe Art Garfunkel Website 1周年記念特別インタビューで、「もし、もう一度レコーディングし直せるなら、直したいものはありますか?」という問いに、真っ先に"All I know"のクライマックスをもうちょっと荘厳 (grandiose) じゃなくしたい、と答えています。同様に、1997年12月に WNEW-FM の"Idiot's Delight" という番組にゲスト出演した際、"All I Know"が流れた後に、"too grandiose...?"とコメントしています。以下はその後のやりとりの訳です。(全文は The Art Garfunkel Web SiteWNEW-FM Radio Interviewに収録)

Vin Scelsa (DJ)(以下VS):仰々し過ぎると思うのかい?

Art Garfunkel(以下AG):なんていうか、盛沢山だろう。

VS:うーん、まあねぇ…。

AG:ちょっとくどすぎるかもね。

VS:アルバム Angel Clare から、ジミー・ウェッブ作曲の"All I Know"でした。じゃ、もし、これをレコーディングする、再レコーディングか、今日もう一回新しくレコーディングするとしたら、君はもっと…

AG:そうだね、ここ2・3年エリック【訳注:エリック・ワイズバーグ:90年代の、Artお気に入りのギタリスト。近年のコンサートには必ず同行している】と、よくツアーしてるんだけど、僕達はこれをコンサートの中ごろでやるんだ。ピアノを中心に戻してね。でも、こう、ブルーで、哀しくて、でも荘厳じゃないんだ。切ないんだよ。"all of my plans have fallen through"・・・「僕の計画は全部失敗してしまった」なぜって全部君次第だったから。この悲しみを、誘う曲なんだ。もったいぶらずにね。

VS:でも、このレコードも、まさに本物のレコードだよ。当時の君の生活、音楽、仕事、他の全てがはいっているじゃないか。

AG:そうだね。ロイ・ハリーがいい仕事してるよ。

さらに、"All I Know"の謎、というのがありまして(笑)、ライブではこの曲の最後のバース(5番の歌詞)は、なぜか歌われないのです。1978年の Saturday Night Live でさえ歌っていません。おそらく、このバースを歌ったとしたら、1973年8月にサンフランシスコのCBSのコンベンションでのショーで、Angel Clare のプロモーションのために、4曲歌った時だけではないのでしょうか。このショーの後、Art は3作目Watermark までコンサートは行っていません。
7. Mary Was An Only Child (Albert Hammond, Mike Hazlewood, Jorge Milchberg)
S&Gの"El Condor Pasa (If I Could)"を作曲した、ロス・インカスの Jorge Milchberg (ホルへ・ミルシェバーグ) と、"It Never Rains in Southern California"(邦題 「カルフォルニアの青い空」)(1972年全米チャート5位)などのヒット曲を持ち、Julio Iglesias (フリオ・イグレシアス)らのプロデューサーも務めた Albert Hammond (アルバート・ハモンド)、Albert の共作者 Mike Hazelewood (マイク・ヘイズルウッド)の3人による共同作品です。この曲でチャランゴー(アルマジロで作られた楽器)を演奏しているのは、Jorge Milchbergです。また、Albert Hammond は Art のソロ2作目 Breakaway に収録の"99 Miles from L.A."の作曲者でもあります。
ここからは、わたしの憶測なのですが、曲がJorge で歌詞が Albert と Mike なのではないでしょうか。
8. Woyaya (Sol Amarfio and Osibisa)
70年代初期に活躍していた、Osibisa (オシビサ) というアフロ・ロック・グループのナンバーです。オリジナル・バージョンは、アルバム Woyaya (1972年)に入っています。(CD化されています)
9. Barbara Allen (Traditional)
The Everly Brothers のアルバム Songs Our Daddy Taught Us に収録されているバージョンは、かなりArtのものとは異なり、なかなか興味深いです。

これは、スコットランドの17世紀ごろの伝承歌で、アメリカの言語学者でイギリスの伝承歌の権威である Francis J. Child (フランシス・J・チャイルド) の採譜整理リストでチャイルド・バラッド84番として記録されているものを Art がアレンジしたもののようです。

10. Another Lullaby (Jimmy Webb)
"All I Know"と同じく、Jimmy Webb の書き下ろしです。Jimmy や、他のミュージシャンのバージョンはないようです。

*Hiroさん、Chokuくん、King of Tongaさん、ようこさん、千原さん、ひろみつさんにご協力いただきました。ありがとうございました(^^)。
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