http://site.add/ 薄明ブレス




■ 2012カカ誕(4) ■


注意

LOVEL●SSの設定を借りています。

『耳と尻尾が付いている=未経験』で『そういう行為をすると耳と尻尾が落ちる』という設定です。

苦手な方はご注意ください。













清廉な空気を招き入れようと大きく開け放たれた窓。
まばらな人影は全て若いアカデミー教師だ。
慣習として教師たちは若い順に登校してくるからだ。
アカデミー職員室にその日の朝、激震が走った。
およそこの場所には関係ないと思われる男が、朝の早い時間に職員室のドアからではなく、窓から侵入してきたからだ。
顔の半分を隠した覆面、片目を覆った額当て、派手な銀髪にひょろりとした長身が台無しになる猫背の男。
名前なんて誰でも知っているけれど、大きな声でその名を呼ぶ事が憚られる有名人、はたけカカシだ。
登校していた中では一番年嵩の女性教師が、お前が行けよ、いや、お前こそ行ってくれ、なんていつまでもぐだぐだ遣り合っている全く役に立たない男性教師に焦れて、一歩前に出て声を掛けた。
声は震えていなかったが、その指先は緊張でがちがちに強張っていた。

「あの、はたけ上忍、アカデミーに何か御用が……?」
「んー。欠席の連絡?……それと、提出今日だからって、コレ、預かって来たんだけど」
手甲に包まれたしっかりとした大きな手の平、そして長い指先が摘んでいるのは分厚い紙の束だった。
素人が見れば何が何だか分からない書類だが、アカデミー教師達はそれが何であるのかピンと来た。
今日が締め切りの二ヶ月後に行われる野外演習の計画表は、全ての教師が提出しなければならない重要な書類だったからだ。
何故彼がその書類を持って来るのだと、疑問符で脳内が埋め尽くされ、言葉を忘れる教師達。
一人平然とカカシは、勇気有る年嵩の女性教師にその書類を差し出した。
「はい」
「あ、ありがとう、ございます」
「それじゃ、後は宜しくね」
そのまま、また窓から出て行こうとするカカシを、寸前の所で呼び止めたのは、別の教師だ。
こちらは若く、性別は男だった。
何時もなら来ている筈の隣の席の男が来ていない事を、不思議に思っていた彼は、銀髪の上忍と隣の席の同僚を何とか結び付けられた一人だった。
だから、半信半疑ながらその疑問を口にする事が出来たのだ。
「はたけ上忍っ!その書類って!」
「ん?なぁに?」
「その書類、イルカ、のです、よね?」
片足を窓枠に掛けたまま、振り向いた上忍は、嫌味な位引き締まった腰から尻のラインと長い脚を見せ付けるポーズのまま笑った。
覆面で隠されていても分かる位の満面の笑顔だ。
「そうそう、あの人の。全然腰立たなくて、歩く事はおろか立つ事もままならないのにアカデミーに行くって煩いからね。代わりに届けてあげたの」
「……え゙?」
「立てない?」
「代わりって……」
ざわざわざわっと職員室内がどよめく。
直接的な表現も使われたカカシの言葉から、推察出来る事実はたった一つだ。
彼らの同僚であるうみのイルカと木の葉の里の稼ぎ頭であるはたけカカシの接点は、うずまきナルトの存在だけで、腰がイカれるだの代わりに大事な書類を提出するだのの関係性までは構築されていないというのが、一般的な常識だったのだ。
それがここにきて大進展を見せている、とごくりと生唾を飲み込んだ。
男同士だとか、そんな馬鹿げた偏見はアカデミー教師陣に限っては無い。
ただ、漠然とイルカは女性が好きで、平凡だけど可愛らしく幸せな、そんな家庭を築くと思われていたのだ。
皆の中にあったほぼ確立されたイルカの未来像が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。

「イ、イルカは……大丈夫、なんで、すか?」
生唾を飲んだのに喉が干乾びて上手く声が出ないイルカの席の隣の男が、何とか声を押し出した。
間の抜けた事を聞いてしまったと知るのは、カカシの返答を耳にしたからだ。
「『大丈夫か』って、ま、一日もベッドでごろごろしてれば大丈夫じゃないの?耳と尻尾取れた時って、大体そんなもんでしょ?」
「ゔぉっ?!」
「なんと!」
「うっわ、っあぁぁぁぁ……」
決定打が打ち込まれて、職員室は微妙な熱を孕んだ空気に支配された。
とうとう、来るべき時が来たのだ。
永遠に取れる事がないんじゃないかと仲間達の心配の種だったうみのイルカの落耳落尾記念日。
相手は、木の葉の里の超有名人、写輪眼持ちの上忍だとは。
カカシはひょいと窓を潜って飛び降りた。
置き台詞は、居た堪れないモノだった。



「明日、耳の無いイルカ先生を、からかわないでね。子供達にもちゃんと言い聞かせておいて。あの人、羞恥で倒れちゃうから」












end