( ’02/8/12 & 18 追加 ) |
夏山シーズン前に、40年前の滝谷登攀の写真を整理してこのホームページにUPしたが、その作業中、久しぶりにあの岩壁を眺めてみたいとの思いにかられ、今年の夏山は南岳よりキレット越しに滝谷を眺める山旅を計画した。 第1日;早朝出発、上高地を経て槍沢ロッジまで。 第2日;槍沢より天狗平を経て南岳小屋まで。 第3日;南岳、中岳、大喰岳と 3000mの稜線を歩いて槍ヶ岳に登頂、西鎌尾根経由双六小屋まで。 第4日;鏡平経由新穂高温泉に下山、温泉で汗を流して帰京。 最大の誤算は、第2日朝槍沢ロッジを歩き出してすぐに、同行者の登山靴の爪先がパックリ口をあけて登山を断念、以後一人旅となったこと。 バテバテの山旅だったけど、ガスに包まれた南岳小屋で半日窓と睨めっこしていた甲斐があって、夕日の沈む直前に突然ガスが消え、眼の前に滝谷の岩壁が拡がって大感激だったし、快晴の槍ヶ岳山頂で 360°の眺望を楽しんだし、下山後、無料の村営浴場でゆっくり温泉に浸かったしで、途中で引き返す破目になった女房の恨み言が耳元で聞こえるものの、私には充分満足した山旅だった。 |
第1日 ( 7/28 ) いつものように、東村山;5.05 の始発電車、高尾発;6.15 の普通列車、松本経由、新島々で上高地行きのバスが動き出したのが10.50。1時間丁度で上高地に到着。 40年前、穂高に通っていた頃は、途中の沢渡で10〜15分のトイレ休憩があって、上高地まで2.5時間。道路状況が変わって半分以下の時間で到着するのは有難いが、上高地は観光バスがあふれていて、駐車場は満杯の上、帝国ホテルまで路上駐車が連なっていた。当然観光客も一杯。 薄日は射しているものの稜線はガスに隠されて、眺望はいまいちの河童橋のたもとで、昼食の握り飯を詰め込んで歩き出したのが12.20。 明神 徳沢と休憩を取りながら横尾まで2.45と快適なペース、徳沢〜横尾間は随分歩きやすくなっていた。 体調と時間によっては横尾泊まりも考えてきたが、余裕充分で槍沢ロッジに向けて歩をすすめた。 途中、くるまゆり くがいそう など道端の花にカメラを向けながら、狭く険しくなった登山道を1.5時間、そろそろ顎が出てきた頃、今日のお宿、槍沢ロッジに到着した。 上高地・河童橋(12.20)→明神(13.00)→徳沢園(13.50)→横尾(15.05〜15.20)→ 一の沢出合(16.05)→槍沢ロッジ(16.55) |
第2日 ( 7/29 ) 起床;4.20、インスタント味噌汁と餅の即席雑煮で朝食をすませ、他の宿泊者に先駆けて出発したまではよかったが、10分も歩かぬうちに女房の登山靴の爪先がパックリはがれてしまった。これでは到底この先は歩けないし、ここからなら一人で帰しても危険はない。荷物の振り分けをしなおし、靴先を紐でしばって下山させ、以後一人旅を続けることとなった。 出発して2.5時間、槍沢が大きく開け登山道の傾斜もだんだん急になって、道の脇に雪渓が現れる頃、指導標に導かれて槍ヶ岳への道と別れ、雪渓をトラバースして天狗平に向かう。 氷河公園・天狗平は、巨岩の積み重なったカールの底にある天狗池に、槍ヶ岳が影を映した写真でお馴染みだが、北アルプスのメインルートを外れているためか訪れる人も少なくて、静かな雰囲気の、槍ヶ岳のすばらしいビューポイントである。私にとっては39年前、仲間と二人で槍ヶ岳千丈沢にテントを張り、北鎌尾根の側稜、北鎌尾根、小槍などを登攀したあと、天幕、寝袋、食糧、炊事用具、登攀用具などの詰まった大キスリングをかついで、槍・南岳をへてこの池畔にテントを張り、一夜を過ごした思い出の場所でもある。今年は未だ大きな雪渓が残っていて、池面が現れていないのが一寸残念だったが、しばらく休んでいる間に前後して登ってきた十数人のパーティーが槍沢に引き返し、このすばらしい風景を完全に独り占めすることとなった。 絶景を充分堪能したあとも、前後を登る人はなく、たまに下山する人とすれ違うだけの一人旅。急傾斜の岩尾根を一歩一歩足元を確かめながらひたすら登る。休憩の間隔が40分が30分に、20分にとだんだん短くなる。ザックの重さが肩にくいこむ。何回かの休憩をくりかえし、鎖場のトラバースを終えると、稜線がすぐそこに現れた。 天狗平から2.5時間、時計は正午直前。ガスが湧いてきて、槍も北穂も時々姿を隠し始めたが、南岳小屋までは30分前後。ここまでくればもう安心、時間も早いしゆっくり休んで昼食をとることにしたが、疲労のためか胃が固形物を受け付けない。パウンドケーキを少しずつちぎっては、残り少ない水で流し込んで誤魔化した。 稜線に出てガスの濃くなった槍・穂高の縦走路をしばらく進むと、南岳山頂から5分ほどで、南岳小屋に到着。 今回の登山の第一目的は、若い頃登った滝谷の岩壁を眺めることだった。¥800/500ml のビールはすぐ空になってもガスの濃度は全く変化なし。窓と睨めっこしながら、そして夕食も終わって、5時間待っても変化なし。「もう駄目か」と諦めながら外に出た18.30、急に空が明るくなってガスの切れ目が見え始めた。急いで撮影ポイントに走ると、薄紙をはがすようにガスが去って、夕日を正面から受けた滝谷の岩壁が、目の前に拡がった。夕日が沈むまでの20分間、あの岩稜、あのフェース、あのクラック、あのチムニーと思い出を辿りながら夢中でシャッターを押し続けた。 起床(4.20)、出発(5.30)→大曲り(6.50)→天狗平分岐(7.55〜8.05)→天狗平(8.50〜9.30) 横尾尾根のコル(11.00)→縦走路直前(11.55〜12.35)→南岳(13.00)→南岳小屋(13.05) |
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槍沢ロッジ | 大曲り近く | にっこうきすげ | 槍沢の道 | 雪渓 | 槍ヶ岳・1 | 槍ヶ岳・2 |
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天狗平・1 | 天狗平・2 | 天狗平・3 | 天狗平・4 | 天狗平・5 | 穂高 | 横岳 |
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![]() (パノラマ) |
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![]() (パノラマ) |
![]() (パノラマ) |
雷鳥 | 稜線到着 | 辿った道 | 南岳小屋 | 花・2 | 滝谷夕景・1 | 滝谷夕景・2 |
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滝谷夕景・3 | キレット | 夕暮れ | 日没 | 雷雲 |
第3日 ( 7/30 ) 起床;4.00、小屋はすいていて布団が一人一枚ずつ使えたのに、一晩中殆ど眠れずに過ごした。4時になるのを待って真っ暗な小屋を抜け出し、ヘッドライトをつけて朝食準備。インスタントスープと餅の雑煮だが、なかなかのどを通らない。小さくちぎって、時間をかけて何とか胃袋に押し込んだ。 東の空が赤くなるのを待って、日の出の撮影ポイントにむかう。 天気は快晴。黒々と横たわる常念山脈のはるか彼方、下界を覆う雲海の上に、浅間山 蓼科・八ヶ岳 富士山 南アルプス 中央アルプスなどの山並みが浮かんでいた。 4.43 大天井岳上方の雲の間から一条の光が射し始めると、見る見る槍ヶ岳・穂高岳など居並ぶ高峰の山頂が輝きだし、そして光の影は麓に向かって駆け下りていった。 撮影ポイントをかえて穂高をねらう。滝谷の岩壁には光がとどかず黒々と屹立しているが、キレット縦走路を境に横尾本谷カールの緑が鮮やかだ。 出発;5.30、南岳(3032.7m)、中岳(3087m)、大喰岳(3100m)のピークを登降しながら槍ヶ岳に向かう。中岳の雪渓下水場では、早朝でほんのチョロチョロの雪解け水を水筒に補給した。 槍ヶ岳山荘前のテラスから見た山頂は、丁度登頂のラッシュアワーが過ぎた時間帯らしく、ほんの数人の人影しかなく、途中の登山路にも2〜3人しかいない。今までに何回も登っているが、天気も上々だし時間の余裕もあるしで、ベンチの下にザックを押し込み、デジカメ一つぶら下げて山頂に向かった。途中岩壁の間から覗いた小槍の岩壁では、丁度クライマーが懸垂下降中で急いでデジカメのシャッターを押した。 頂上は後から登ってきた人も含めて10数人、余裕があったので祠の前で記念写真を撮ってもらったり、360°のパノラマ写真を撮影したり、昔登った北鎌尾根のルートもじっくりと眺めたりで山頂のひと時を過ごした。今日は空気も澄んでいて今までにない最高の眺望を楽しむことができた。 山荘前に戻ると先ほど小槍を登っていた2人のクライマーがザイルをしまっているところで、一人はかなり高齢のご婦人。話しかけてみたところ、なんと78歳とのことで吃驚仰天。岩登り暦は10年ほど、ということは70歳近くなってはじめたことになる。パートナーは若い山岳ガイドさん。40年程前に私も登ったと話したら、当時の登攀用具に興味を示して話がはずんだ。 槍ヶ岳山荘発;10.00、山荘脇から西鎌尾根に向かってガラ場の中のジグザグの急降下がはじまる。 はるか下で豆粒のように見えるグループ、途中のあちこちで立ち止まって休んでいる人、のろのろと一歩ずつひたすら登ってくる人たち、この長い急斜面を登ってくる人たちの苦労が思いやられる。39年前、大キスリングを担ぎ、千丈沢のカールの急登に続いてこの急斜面のガラ場を登ったのだが、あまりきつかったという記憶がない。その頃の自分が信じられない気持ちだ。 千丈沢乗越から先は小さな起伏を越したり捲いたりの長い西鎌尾根が続く。崩壊地につけられた鎖場をいくつか越し、縦走路脇に咲く高山植物にレンズをむけながらのマイペース。時々すれ違う人はいても前後を歩いている人は全くいない。時々振り返って見る槍の穂先に11時頃からガスがかかりはじめた。 昨夜の睡眠不足がたたって次第に足取りが重くなり、水分補給の回数が多くなる。食欲はないが、昨日と同じにパウンドケーキを水と一緒に流し込む。残り少なくなった水筒に途中の雪渓の雪を詰め込んで飲料水を確保した。 硫黄乗越を過ぎると双六小屋までは樅沢岳をもう一山越えなければならない。その少し前からはるか前方にちらちら見えていた4人連れの若い女性グループに追いつき、彼女たちの後について何とか高度差150mを登りきった。後は双六小屋まで下り一方で30分。鏡平小屋まで足を延ばすという彼女たちと別れ、小屋に入った。 起床(4.00)、出発(5.30)→南岳山頂(5.40)→中岳(7.00〜7.10)→大喰岳(8.05〜8.10)→ 飛騨乗越(8.25)→槍ヶ岳山荘(8.40〜8.50)→槍ヶ岳山頂(9.10〜9.30)→山荘(9.45〜10.00) →千丈沢乗越(10.50〜11.05)→雪渓脇で大休止(11.50〜12.15)→硫黄乗越(13.40)→ 樅沢岳(14.40)→双六小屋(15.10) |
(パノラマ)
(パノラマ)日の出 日に出直後・1 日の出直後・2 早朝の穂高 出発 中岳の登り
(パノラマ)
(パノラマ)中岳山頂より・1 中岳山頂より・2 中岳山頂より・3 大喰岳山頂より 飛騨乗越 槍ヶ岳山荘 花・3 山頂への道 小槍 小槍登攀 北鎌尾根 槍ヶ岳山頂より・1 360°パノラマ
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(パノラマ)
(パノラマ)槍ヶ岳山頂より・2 槍ヶ岳山頂より・3 槍ヶ岳山頂より・4 西鎌尾根の降り 西鎌尾根より 双六への道
(パノラマ)硫黄乗越 花・4 花・5 花・6 双六小屋へ 小屋前より
第4日 ( 7/31 ) 起床;3.50、昨夜も布団が一人一枚でゆったりなのに、雑音が耳に入って殆ど眠れず。4時まで待てずに部屋を出た。槍沢ロッジも南岳小屋も屋内での炊事禁止なのに、ここは炊事室があって有難い。インスタント梅粥とインスタント味噌汁を何とかながしこむ。お湯を一杯沸かせばたちまち出来てしまったのに、胃袋をだましだましで食べるのに時間がかかった。 外は一面のガス、ライトなしで何とか歩けるようになるのを待って出発。 太陽が昇り始めた頃から次第にガスが薄くなり、時々笠・抜戸の稜線が顔をだしはじめた。そんな景色に気をとられているうちに鏡平への分岐点を通り越して気がついたら弓折岳の頂上。振り返ると槍は完全な逆光の中、右へ続く南岳・キレット・穂高連峰のシルエット、それが途切れたはるか彼方に木曾御岳がかすんで見えた。そして進行方向は、笠・抜戸とそれに続く稜線の緑が鮮やかだった。パノラマ写真用に何枚かのシャッターを押して引き返す。この間の時間ロス20分弱。眼の下に小さく見える鏡平へ向けて潅木の中を下降すると、やがて小池を前にした鏡平小屋の前に飛び出し、更に数分で鏡池に到着する。 ここは槍から穂高に続く峰々と池面に映す影を配した観光ポスターなどでおなじみの撮影ポイントだ。しかし今朝は槍のすぐ上に太陽があって撮影不能。南岳・キレット・穂高のシルエットで我慢した。 これからは下り一方、無風の潅木帯の中をむんむんと蒸され、大汗を流しながらひたすらくだる。途中秩父沢の水場で顔を洗い、気合を入れなおして更に1時間で登山道から林道に出たが、お粥腹のエネルギーが切れかかってふらふら。わさび平小屋でオレンジジュースをのんで即効性エネルギーを補給し、一息入れて更に1時間、新穂高温泉に無事到着した。 バスの発車までは2時間近くもある。もう一度ジュースでエネルギー補給をしてから、バス停前の村営無料浴場の温泉に浸かって汗をながし、ビールを飲んでやっと人心地がついた。 直通バスで安房トンネルを抜けて松本にでて、JRで帰京した。 起床(3.50)、出発(4.25)→弓折岳(5.40〜45)→鏡平分岐に戻る(5.55)→鏡池(6.35〜45)→ 大のま乗越への分岐(7.25)→秩父沢(8.10〜20)→林道(9.15)→わさび平小屋(9.30〜45)→ 笠ヶ岳登山道入口(9.55)→新穂高温泉(10.45〜12.30)ー(バス)→松本(14.40)ー(あずさ66号) ー帰宅(18.20) |
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