Takara's Diary…6月前半

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6月1日(日)
今井の泣き顔が忘れられない。
今井のお父さんに対して怒りがおさまらなくて、この気持ちをぶつけなくちゃやってられないって感じでたまらなくなってる。

……でも、たとえばそんなことをして、今井は喜ぶんだろうか?
むしろ怒ったり、悲しんだりしないだろうか。

今井の気持ちを考えると、自分がどんな行動をすればいいのかわからなくなってくる。
あ〜〜、俺どうしたらいいんだろう。





6月2日(月)
結局昨日は何もできないままだった。
今日は……今日は、朝登校途中に今井の携帯に電話をしてみた。


…………出てもらえなかった。


あいつ、学校ちゃんと行ったのかな。
俺ってなんでこんなに無力なんだろう。気の利いた言動が全然とれない自分にイラつく。






6月3日(火)
今日も今井に電話してみた。……昨日の夜も何度か電話とメールしたんだけど1回も出てもらえなくて、なんかすごく心配だ。
あいつ、またクスリ使ってるんだろうか。夜の街を出歩いてたりするんだろうか。
そんなことになってたら……俺、泣いちゃうかもしれない。

誰か、あいつの悩みを聞いてくれる奴っているんだろうか。
いないんだったら……俺だけでもあいつの話を聞いてやりたい。
……嫌がられるかもしれないけどさ。






6月5日(木)
こんな時期に限って部活や塾が大変で、あの日から今井に会っていない。会いに行きたいのに。

……いや。そんなのは言い訳に過ぎないだろう。
会いに行きたいって思うなら、どんなに遅くなっても……登校前とかにでも会いに行けばいいのに、そうする勇気が俺にはないんだ。

ボロボロになっているかもしれない今井を見るのが、俺は怖いのかもしれない。

やっぱり俺は臆病者なんだな。






6月7日(土)
臆病者の俺は、今日も今井の様子を今井と同じ高校に行ってる奴に聞くことしかできなかった。
そいつによると、今井は今までとどこも変わった様子がないらしい。

ちょっと、拍子抜けした。

今井はお父さんとのこと、ショックに思ってないんだろうか?






6月8日(日)
午後からの部活に行く前に今井に電話してみた。
そうしたら今日は出てくれて!
『もしもし?』
いつもと変わらない声に、俺の心臓はどっきーんとはね上がってしまった。

体調のこととかお父さんのことにはなるべく触れないように話をして、今度いつ遊ぶかって聞いた。今井は俺の話に普通に答えてくれて、あの日のショックは薄らいだのかなってちょっとほっとした。

部活がテスト休みに入る来週の日曜に会えることにはなったけど、最近の今井の様子がわからないだけに会うのもちょっと不安だ。






6月9日(月)
今井のお父さんが弁護士をしてるって、今日初めて知った。

中学の時に今井と1番仲のよかった朝倉に電話した。朝倉は今井の家のこと、俺よりずっと知ってるみたいだったし(ちょっと悔しいけど)。
その朝倉の話によると、今井のお母さんは今井を生んですぐに亡くなってしまったらしい。
お父さんも仕事の都合でほとんど家に帰ってこなくて、今井は子供の頃から1人で家にいることが多かったみたいだ。おじいちゃんの家に行くこともほとんどなかったとか。
弁護士は弁護士でも、今井のお父さんは偉い人(議員とか会社社長とか)の弁護を専門にしてるらしくて、そのせいもあってか普通の弁護士よりもずっと忙しいって。

だけど、1人で寂しいだろうに、今井は自分の家に人を上げることはあまりなかったらしい。
朝倉も、今井の家に物を借りに行ったことはあっても、家の中に入れてもらったことはないって言ってた。
……じゃあ、何度か今井の家に入ってる俺は、ちょっとは特別な存在とか……?
いやいや、夢を見るのはやめよう。


でも、自分の幼い子供が1人で家で待ってるってわかってるんだから、なんとかしようって考えてもよさそうなのに──今井のお父さんは何も考えなかったんだろうか。今井と一緒に過ごす時間をとるとか、できなかったんだろうか? なんて考える俺は甘いんだろうか。






6月10日(火)
今日は都大会最終日だった。
うちの学校はベスト8に残ることができたけど、準々決勝で優勝候補の私立T橋と当たってしまい、惜しくも2点差で負けてしまった(結局T橋が優勝した)。
(スタメンに入れてもらってた自分がもっと頑張ってれば……!)
って思ったらすごく悔しくなった。けど、先輩たちがすごく晴れ晴れとした顔で「最後まで楽しめた」って言ってくれたから、自分のできる最善を尽くせたんだって思うことにした。悔やんでばっかりじゃ、コートに立てなかった先輩たちに対しても失礼にあたると思うし。

3年生たちは今日限りで引退ってことになった。
……もう、先輩たちと一緒にプレイすることができなくなるんだ。
そう考えたら、……なんかすごく寂しくなって思わず泣いてしまった(皆も泣いてたけど)。

先輩たちの残していったものを受け継いで、これから頑張ろうと思う。
俺はキャプテンなんて器じゃないから、その話は断ろうと思うけど(顧問にそんな話を持ち出されて、「無理です」って即答しておいたけどさ)。

ていうか、試合が終わってからコートの中で結城先輩と佐野先輩が抱き合ってたのが、2人の事情を知ってる俺には目の毒って感じだったんだけど……ある意味名シーンのそれは俺の脳裏にだけ焼きつけておくことにしよう。






6月13日(金)
先輩たちが引退してからなんだかんだと忙しくなってしまった。

結局俺はチームのキャプテンに任命されてしまった。
確かに、2年でスタメンだったのは俺だけだったけど……すげープレッシャーを感じる。ストレスで胃とか痛くなったりしたらどうしよう。
だけど、「どうしても部長は両立できません」って無理を言って(キャプテンは代々部長も兼任させられるんだ)、それじゃ仕方ないからと足立が部長をやることになったからちょっとは気が楽になった。足立はかなり怒ってたけど(笑)。

これからは俺たちがチームの要になるんだ。……頑張らないとな。






6月15日(日)
今井と久しぶりに会うことができた。

午後から会うことになってたんだけど、なんか緊張していてもたってもいられなくなって10時には家を出てしまった。時間つぶしするのが大変かと思ったけど、緊張してるあいだにどんどん時間が過ぎて、あっというまに今井との待ち合わせ時間になっちゃって。
「お待たせ」
って澄んだ声が背後から聞こえたときは、妙な汗をかいていた。……ただの怪しい奴じゃん、俺。
今井の顔色はけっこうよくてなんかほっとした。あれからお父さんと話し合ったりしたんだろうか。……してなさそうだけど。
また映画に行こうかと思ったんだけど、「最近買い物に行ってない」って今井が言ったからいろいろな店に寄って服とか靴とかを買った。
その間、普通に話をして笑い合ったり、買うか買わないかで悩んだりして、なんかちょっとデートっぽいかなーなんて夢を見てしまった。──俺って変態!?

夕飯を食べて、名残惜しかったけどそろそろ帰るかって話になったとき。
「──あれ、橋本?」
今井と歩いていると後ろから声をかけられて、聞き覚えのある声にどきっとして振り返ると。
そこにいたのは、なんと結城先輩と佐野先輩の2ショットだったんだ!
2人が一緒にいるところを見て動揺しちゃった俺は、「せ、先輩!?」って変な声で言ってしまい、そのまま慌てて2人に近づいた。今井のことを一瞬忘れて(ごめん!)。
結城先輩はいつもと同じ無表情な感じだったけど、佐野先輩は焦って2人に近づいた俺を見て意味ありげに笑って。
「誰、あの子。うちの学校じゃないよね?」
離れたところにいた今井を見てそんなことを言ってきたんだ。
「あ、あいつは中学のときの友達です」
佐野先輩の目がなんか怖くて、思わずどもっちゃった俺。そんな俺に、先輩はさらに追い討ちをかけるようなことを言って!!
「ふーん。……可愛い子だね」
その言い方がさらに意味ありげな感じで、俺ははっと気づいた。
(もしかして佐野先輩、なんか勘違いしてる!?)
今井のことを俺の恋人かなにかだと思ったんじゃないかって焦った俺は、
「そ、そんなんじゃないですよ、佐野先輩! 今井はただの友達で──っ」
なんてよけいなことを言っちまって。
「え? 俺何も言ってないよ?」
笑いながらそう言われて、自分が墓穴を掘ったって自覚した。ああ……俺ってバカ!!!
だけど佐野先輩はそれ以上何も言わずに、
「バスケ部頼んだぞ〜」
って言い残して結城先輩とまた歩いていってしまって。
その場に残された俺は、楽しかった1日をずっと先輩たちに監視されてたような気がして、家に帰るまでずっとドキドキしてたんだった。
別れるとき、ちょっと上の空っぽくなってたよな、俺。今井に悪いことしたな……。





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