部活が終わってから部室の外で今井に電話してたら、いつのまにかみんな帰っちゃってた(薄情な野郎どもだ)。
だけど1人だけ、前に俺が「男のことを好きになったら?」って聞いて「男でも女でも関係ない」って言ってくれた佐野先輩が残ってて、部屋に2人きりになった。
佐野先輩は穏やかな性格で、バスケ部の中ではあまり活発なほうじゃない。だけどシュート率なんかはすごく高くて、プレイヤーとしては他の学校の連中にもマークされてたりする有名人だ。
性格はおとなしい感じだけど人気はすごくて、いつも先輩たちに囲まれてるイメージがあるんだけど……そのときはなぜか1人でいたから不思議に思ってしまって、
「先輩どうかしたんですか?」
とおせっかいにもそう聞いていた。
先輩は俺を見て笑いながら、
「橋本も残ってたのか。結城がさ、あと少しだけシュート練してくっていうから待ってるんだ」
自分の鞄とは別の鞄を指差しながら言って、俺は「ああ」と頷いた。
結城先輩っていうのはうちのチームのキャプテンで、人一倍練習熱心な人なんだ。居残り練習も毎日のようにしていて、俺たちがそれに付き合おうとすると「オーバーワークだ」って言って一緒にやらせてくれない。自分だって充分オーバーワークだってのにさ。
佐野先輩は結城先輩と1番仲がいいから、いつもこうやって待ってたりするんだろう。今日初めて知ったけど。
「さて、そろそろ止めに行ってくるかな」
俺が着替え始めると、先輩はタオルを持って体育館に行こうとした。
けど、先輩は部室を出て行く直前に、とんでもないことを俺に言ってきたんだ!!
「橋本って、好きな男いるの?」
「──えっっ!?」
全然予想してなかった質問に俺は動揺してしまって、でも先輩はいつものように笑って、
「別に隠すことないよ。俺もそうだからさ」
ってさらりと言って、
だから俺、
「あ、そうなんすか」
って軽く返事しちゃったけど……先輩が部室から出てってちょっとして、ようやくその言葉の意味が飲み込めて。
1人になった部室で「えええ!?」って大声を上げたの、先輩に聞こえちゃったかなぁ。
佐野先輩も『そう』だったなんて…………だからあのときにあんなふうに答えてくれたんだ。
ていうか、俺、重大なヒミツ知っちゃったぞ!? |