Takara's Diary…5月後半

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5月17日(土)
今井と同じ学校に通ってる奴に電話して、「最近、今井の様子どう?」って聞いたら、予想していたような返事が返ってきた。
「顔色も悪いし前より愛想がなくなったし……『クスリやってるんじゃないか』ってウワサになってる。俺もそう思ってたりするんだけどさ」
それを聞いて、失望したような気持ちになってしまった。
あいつ……やっぱりクスリから手が切れないでいるんだ。

なんであいつはクスリなんかやってるんだろう。
なんでクスリをやめようとしないんだろう。
これ以上悪いことになったら……俺じゃもう手助けできないかもしれない。

自分のこと、もっと大切にしてくれよ…………!!





5月18日(日)
今井に電話する。
……けど、1度も出てもらえなかった。


俺、さけられてるのかなぁ。






5月20日(火)
今井に会いたい。
何度電話しても出てもらえないのが辛い。

あんなこと言わなきゃよかったのかもしれない。
『クスリやめろよ』
なんて……。






5月22日(木)
部活が終わってから部室の外で今井に電話してたら、いつのまにかみんな帰っちゃってた(薄情な野郎どもだ)。
だけど1人だけ、前に俺が「男のことを好きになったら?」って聞いて「男でも女でも関係ない」って言ってくれた佐野先輩が残ってて、部屋に2人きりになった。
佐野先輩は穏やかな性格で、バスケ部の中ではあまり活発なほうじゃない。だけどシュート率なんかはすごく高くて、プレイヤーとしては他の学校の連中にもマークされてたりする有名人だ。
性格はおとなしい感じだけど人気はすごくて、いつも先輩たちに囲まれてるイメージがあるんだけど……そのときはなぜか1人でいたから不思議に思ってしまって、
「先輩どうかしたんですか?」
とおせっかいにもそう聞いていた。
先輩は俺を見て笑いながら、
「橋本も残ってたのか。結城がさ、あと少しだけシュート練してくっていうから待ってるんだ」
自分の鞄とは別の鞄を指差しながら言って、俺は「ああ」と頷いた。
結城先輩っていうのはうちのチームのキャプテンで、人一倍練習熱心な人なんだ。居残り練習も毎日のようにしていて、俺たちがそれに付き合おうとすると「オーバーワークだ」って言って一緒にやらせてくれない。自分だって充分オーバーワークだってのにさ。
佐野先輩は結城先輩と1番仲がいいから、いつもこうやって待ってたりするんだろう。今日初めて知ったけど。
「さて、そろそろ止めに行ってくるかな」
俺が着替え始めると、先輩はタオルを持って体育館に行こうとした。
けど、先輩は部室を出て行く直前に、とんでもないことを俺に言ってきたんだ!!
「橋本って、好きな男いるの?」
「──えっっ!?」
全然予想してなかった質問に俺は動揺してしまって、でも先輩はいつものように笑って、
「別に隠すことないよ。俺もそうだからさ」
ってさらりと言って、
だから俺、
「あ、そうなんすか」
って軽く返事しちゃったけど……先輩が部室から出てってちょっとして、ようやくその言葉の意味が飲み込めて。
1人になった部室で「えええ!?」って大声を上げたの、先輩に聞こえちゃったかなぁ。

佐野先輩も『そう』だったなんて…………だからあのときにあんなふうに答えてくれたんだ。
ていうか、俺、重大なヒミツ知っちゃったぞ!?






5月24日(土)
おとといの佐野先輩の言葉が気になって仕方なくて、なんか気がつくといつも先輩のことを見てる気がする。
そしてら今日部活中に結城先輩に注意されてしまった。
「プレー中によそ見ばっかしてんなよ」……って。
俺にそう言ってきた結城先輩の目が、なんか妙に怖かったんだけど……部活中に俺がバスケ以外のことを考えていたのに気づいて怒ってたんだろうか。
(尊敬する先輩に呆れられないようにしないと!)
って心に誓ってその後は練習に集中したけど……でも、佐野先輩を見る回数は多かったかもしれない
ああ、なんか気になる〜〜!






5月25日(日)
今井に連絡がとれたら会いたかったんだけど、あいかわらず電話に出てもらえなくて今日も会うことができなかった。
こんな状態がいつまで続くんだろう。
もしかして……このまま今井と音信不通になっちゃわないよな!?

直接会いに行くほうがいいんだろうか。でも、顔を見た瞬間避けられたらショックだし……。

どうすりゃいいんだ!!






5月26日(月)
信じられないものを見てしまった。
まさか……そんなことになってるなんて!!

今日も部活が終わってから今井に電話してたら皆先に帰っちゃって、部室には佐野先輩と結城先輩の鞄だけが残っていた。
最近いろいろあってバスケの練習に集中できてなかった気がして、俺1人くらいなら先輩も許してくれるんじゃないかと思って体育館に戻ってみた。
だけど、館内からはボールの音とかが全然聞こえてこなくて。
(どうしたんだろう)と思いながらドアを小さく開けて、驚いた。

なんと! なんと!!!!
佐野先輩と結城先輩が、コートのすみでキスをしてたんだ!!!!
2人は肩が触れるくらいの距離に並んで座っていて、お互いの耳に囁くような感じで会話をしてた。
その間に、小さく笑いながら何度も何度も唇を合わせていた。
よく見ると佐野先輩の右手と結城先輩の左手はしっかり重なっていて、俺が覗いていた間その手は離れることがなかった。

ドアの隙間から覗いただけだからばっちり見えたわけじゃないけど、間違いない。
あの2人……恋人同士だったんだ!!

どうしよー! 俺、またマズいこと知っちゃったんじゃん!?!?






5月28日(水)
俺の視線は、佐野先輩だけじゃなくて結城先輩にも向かうようになってしまったみたいだ。
今日も気づいたら結城先輩のことを見てたらしく、
「どうした橋本。俺の顔に何かついてるか?」
なんて言われちまった。
そしたらそこに佐野先輩が来て、俺の耳元でこんなことを言った!
「橋本、結城のことは渡さないぞ」
……って!!!!

もしかしたら佐野先輩、俺が2人の関係を知っちゃったって知ってるのか!?
あ〜〜も〜〜どうすりゃいいんだ!!??






5月29日(木)
今井に毎日のように電話していたら、今日やっと出てもらえた。
今日電話して出てもらえなかったらもう電話するのをやめようと思ってたんだけど……嫌われたわけじゃなかったんだってちょっとほっとした。
でも、出てもらえたけど何を話していいのかわからなくて、とりあえず「また遊ばないか」って誘ってみた。
そしたら今井のほうから「土曜日はどう?」って言ってきてくれた!(かなり嬉しかった)
だけど土曜は部活と塾があったから、無理かなと思いつつ「できれば明日のほうがいいんだけど……」って言ったら、「じゃあ明日」ってOKしてくれて!!

久しぶりに今井に会えるなんて、すげー楽しみだ!
少しは顔色が戻ってるといいんだけど……そればっかりはわからないよな。






5月30日(金)
今井のあんな姿を見ることになるなんて。

塾が終わってから今井の家に行ったら、前よりずいぶんと顔色がよくなったあいつが待っていてくれた。……とはいっても完全にはクスリやめてないみたいだったけど。
でも部屋はきれいに片付いてたし、今井が開閉してた冷蔵庫の中も前ほど酒が入ってなかったみたいだし、ちょっと安心した。

だけど。
居間で2人で話をしていると、突然誰かが家に入ってきたんだ。
そのまま勝手に家の中に入ってきたから驚いて思わずその人を見ると、その人も意外そうな顔で俺を見て。
「なんだ、珍しいな。お前がこの家に誰かを連れ込むなんて」
落ち着いた話し方が今井にそっくりで、すぐにわかった。その人が今井のお父さんなんだってこと。
今井はお父さんを見ると、なぜか小さくあとずさって。
「とうさん……」
って呼んだけど、今井のお父さんは今井のほうを見なかった。
俺も慌てて「おじゃましてますっ」ってあいさつしたけど、今井のお父さんは
「ゆっくりしていきたまえ」
って言っただけで、テーブルに封筒を投げ捨てて(ホントに投げて行ったんだ)出て行っちゃって。
ドアが閉まるときには、それまで楽しそうだった今井の顔がみるみる青ざめていた。
なんて声をかけたらいいのかわからなくて俺が黙ったままでいると、今井が突然俺に「ごめん」って謝ってきた。
「せっかく遊びに来てくれたのに、不愉快な思いさせて……」
そんなの別に今井が謝ることじゃないし、俺は不愉快になんてなってなかったから、「気にするなよ」って言ってやった。
でも今井は俯いたまま、小さく肩を震わせるだけで(もしかしたら泣いてたのかもしれない)。

「父さんは僕のことが嫌いなんだ……」
寂しそうな顔でそんなことを言うあいつが切なくて、かわいそうで……気づいたら俺、今井のことを抱きしめてた。
今井は「やめろ」とも「離せ」とも言わなくて、俺は長い時間今井のことを抱いたままでいた。

「頼むから、誰にも言わないで」
って小さな声で呟いたあいつの言葉が、ずっと耳から離れない。
もちろん誰にも言わない。
言わないけど。

あの人には一言言ってやらないと気がすまない!!!!





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