Sou's Diary… 5月前半

←4月後半 5月後半→

一番下が新しい書き込みです。上から順に読んでください。


5月1日(木)
クスリを身体に入れてないと不安で仕方ない
自分が自分でわからなくなるような感じ
だから やりすぎるのはよくないってわかってるんだけど
どうしても堪えられなくなって 何度も何度も使ってしまう

今日は何本吸ったんだろう……






5月2日(金)
あまり体調がよくなくて
トイレに入ろうとしたときに中から出てきた奴と肩がぶつかって
衝撃は軽かったはずなのによろけて転びそうになってしまった
だけどそのぶつかった相手が助けてくれて汚い床に転がらずに済んだ

どうやら下級生だったらしくて(僕より身体は大きかったけど)
「今井先輩、大丈夫でしたか?」
って申し訳なさそうに何度も謝りながら心配してくれて
目眩が止まるまで数十秒間支えていてもらったけど
がっしりした腕がたくましくてちょっと嬉しかった

顔もカッコいい子だったからそのままキスしちゃおうかなんて思ったものの
『こんなところでそんなことしちゃだめだ!』ってしっかり理性が働いて
「ありがとう」って言うにとどまった

…………惜しいことしたな(笑)






5月3日(土)
夢を見た

真っ暗闇の中に 僕が 立ち尽くしている夢

僕だけが 存在している夢

何も見えず
何も聞こえず
ただじっと息を凝らしている僕の夢


僕は みんなと同じ場所に立つ資格すらないってこと?






5月4日(日)
突然思い立って父さんの実家に行ってみた。
「今度遊びに行くよ」
と言いながらもう長いこと行っていなかったから……たまには顔を見せて、孫は元気にしているんだと安心してもらおうと思って。

でも。
連絡もなく行ったりしたのがまずかった。

おじいさんとおばあさんの家に行くと、父さんの弟さんのご家族がいらしていて。
子供の頃に一度だけ会ったことのある子供らしき男の子と、僕が見たことのない子供が2人もいた。
もう何年も会っていなかったから向こうも僕のことを見て驚いていたみたいだ。
「えっと……………………奏、くん?」
僕の名前をすぐに思い出せないくらいに。

おじいさんとおばあさんは僕が訪ねて行ったことに喜んでくれたみたいだけど、なんだかひどく気まずくて、
「ごめんなさい、これから友達と会う約束してるから」
なんて言い訳をして、一時間と経たずに帰ってきてしまった。

僕がおじいさんとおばあさんの家に行ったこと、父さんに連絡してしまうだろうか。
そんなことをされたら、きっと父さんは僕をさらに嫌いになるだろう。
あまり仲の良くない(らしい)弟さんと僕が会ったと知ったら、絶対に嫌な顔をするはずだ。
僕は父さんの「恥」なんだから。


馬鹿なマネ、しなきゃよかった。






5月5日(月)
今日は子供の日だった
昨日父さんの弟さんがおじいさんとおばあさんの家にいたのはそのせいだったのか
だったら僕は水を注してしまったんじゃないだろうか
気の利かない奴でホントに自分が嫌になる

子供の日なんてあってもなくても同じ
昔から僕には関係ない1日だ
生まれてこのかたこの日にお祝いをしてもらったことなんて
ただの一度もないもの

愛されている子供たちのための1日

そんなもの   なくていいのに






5月7日(水)
皆が僕をちらちらと見ている。……昨日から。
自分で思うより、ずっと顔色が悪くなっているのかもしれない。
クスリのやりすぎだろうか。100%そうだろうけど。
少し量を減らさなきゃ。

……寝る前に、あとちょっとだけ使って今日はやめておこう。






5月9日(金)
朝からずっと携帯が鳴ってるような気がして、そのたびに画面を確認したけど、実際には鳴ってないみたいで着信履歴はなかった。

これってもしかして携帯依存症ってやつ? そんなものになるほど使ってないんだけどな。

俺のところに電話してくるのなんて、最近また親しくなった橋本かあの人くらいだし……僕からかけるのは父さんの秘書だけだし。

こんなもの、もう持つのやめようかな。






5月10日(土)
父さんの声が頭の中で鳴り響いてる

『お前の顔を見るとイライラする』
『お前ほど憎らしい奴は見たことがない』
『お前が生き残って、なぜ彼女が死んだんだ』
『お前なんかいらなかったんだ』
『お前なんていらない』

父さんが怒ってる
父さんが睨んでる
父さんが消えてしまう


も う  や    だ






5月11日(日)



  だ れ か


         た す け て








5月12日(月)
昨日のこと。

玄関のチャイムが鳴っているのが聞こえて、のろのろと起き上がると最近よく聞いている声が僕を呼んでいた。
身体が重くて思うように動けなくて、でもなんとかインターフォンには出ることができて、僕が出た瞬間橋本は大きな溜め息みたいなのをついた。
何かあったのかと思って家に入ってもらうと、どうやら橋本は僕のことを心配して来てくれたらしい。
「死にそうな声で電話してきたから、何かあったのかと思って心配したんだぜ」
今にも泣き出すんじゃないかって顔で言われて驚いた。橋本に電話した覚えなんて全然なかったから。
でも、確かに2つ折りの携帯が開いた状態で床に転がっていて、自分がさっきまでそこで横になっていたんだってことを思い出したら、「そんなことしてない」とは言えなくなって。

クスリのせいでだと思うけどちょっとフラフラしてて、それを見た橋本がまた心配してくれて。
結局ベッドに寝かされて、おかゆを作って食べさせてくれて家に帰っていった。

部屋にも居間にも使いかけのクスリが散らかったままになってて、もしかしたら橋本はそれがなんなのか気づかないでくれるかなと期待したんだけど……それは無理だったみたいだ。
帰る直前になって、ベッドに寝たままの僕に
「おせっかいかもしれないけど……クスリ、やめろよな」
って言い残していったんだ、全部バレたに違いない。

橋本に知られたのは、ちょっと……けっこうショックかも。






5月13日(火)
おとといのこともあって、クスリをやめようと思ったのに
久しぶりに街に遊びに行ったら、好みの男に誘われて
そいつに勧められて結局使ってしまった

だって、クスリをやってると嫌なことを考えなくて済むんだ
父さんのこととか母さんのこととか
いろいろいろいろいろいろいろいろ
考えなくていいやーって思えるんだ

なんでクスリやめなきゃいけないの?
だってこれをやってるとすごくいい気分になれるのに
やめたら苦しいものばっかりが押し寄せてくるだけだ

やめる必要なんてどこにもないじゃないか

やめなくていいや
やめないほうがいいんだ
やめたら自分が壊れるだけだ
そうだ そうに決まってる






5月15日(木)
しつこいくらいに橋本からでんわがくる

うるさいなぁ
そんなにならされたって出てやらないよ

だってお前はぼくに余計なことを言おうとしてるんだもん
ぼくにはわかるんだもん
どうせまた「クスリやめろ」とか言うんでしょ

やめたくないんだもん
だからやめなくたっていいんだもん

おせっかいくんからのでんわなんか出てやらないんだ

よけいなことを言うはし本はきらい
いつもいい奴のあいつはきらい
ぼくのよごれた部分を全部見すかすような目をしたあいつはだいきらい

いいやつだってわかってるけどさ





<BACK>