「……龍太、ちょっといいか?」
「んー?」
「話、あんだけど」
「あー? なんだよ?」
俺の声に応えつつ、視線はいつまでもテレビから離れない。別に意識して俺のほうを見ないってことじゃないだろうけど、ここまですげない態度を取られればムカつくに決まってる。
「――俺たち、別れようぜ」
箸で唐揚げをつまみながら吐き捨てるように言い、一口で食べるにはきつい大きさの塊を一気に口に放り込む。
「………………は?」
龍太が反応したのは、俺が言葉を発してから一分以上経ってからのことで。しかもその声ときたら緊張感のかけらもない、思いっきり間の抜けたものだった。
それでも言葉の意味は理解したらしく、テレビに釘付けだった視線がようやく俺のほうに向けられた。咀嚼することも忘れてるのか、口の中に入ったままのメシが見えるのが滑稽すぎる。
たっぷり時間をかけて唐揚げを食ったけど、その間龍太はじっとこっちを見たままだった。こんなに長時間目が合う状態ってのも久しぶりで照れ臭かったものの、ここで視線を逸らしてしまえば気持ち的に負けたような気がして、睨むような目つきでテーブルの向こうの顔を見る。
「亨、今なんつった?」
ただ口を動かし続ける俺に痺れを切らしたのか、龍太がイラついた調子で聞いてくる。その姿に多少溜飲が下がったような心地になり、頭の中で考え続けたことを一つ一つ確認しながら話した。
「別れようって言ったんだ」
「なんだよ急に──」
「昨日お前も言ってたけど、今の俺たちの状態ってただの同居人って感じだよな」
「……え?」
「お前がこの家に転がり込んできたときは、もう少し恋人らしい関係だったと思う。でも今は一緒に遊びに行くこともないし、旅行も行かないよな。
お前は遊び仲間が多いし、それは最初から知ってたことだから気にしてなかったよ。けど、買い物とか映画くらい俺を誘ってくれてもよかっただろ?」
「それは、」
「たまにお前の気が向いたときにセックスするだけで、それ以外はただ一緒に暮らしてるだけ。そんなので恋人って言えるか?」
「――――」
「俺はそうは思わない。お前にとって俺は体のいい家政婦みたいなもんかもしれないけど、俺はそんなものになる気はないんだ。……だから、別れようぜ」
「………………」
俺の言葉に思い当たることがあったのか。何か言いたげだったものの言葉が見つからなかったのか、無言のまま視線がテーブルに落ちる。こいつのことだから別れ話にショックを受けてるんじゃなく、俺が急にこんなことを言い出したから単純に驚いてるんだろう。
少しでもダメージを与えられた気がして胸がすっとしたがこれで終わりじゃない。むしろ大事なのはこれからだ。
「俺、ここ出るから」
「……え?」
「今日アパート契約してきた。すぐに引っ越していいっていうから、明日から出勤前にちょっとずつ荷物持ってくな」
「な、なんだよそれっ?」
「大きいものは来週の週末にレンタカーで運ぶけど、冷蔵庫と洗濯機は新しく買うから置いてくな」
「ちょ、待てよ! どこに引っ越すんだよっ?」
「テーブルに書類置いておいただろ? 見なかったか?」
「しょっ……!?」
箸先でリビングのテーブルを指すと龍太は勢いよく振り返り、そこに置かれたままになっていた紙の束を確認したらしい。唐突に立ち上がってリビングに行き、乱暴に取り上げた書類を貪るように読み始めた。
「お前もどこかに引っ越すならここは解約するから。家賃のこともあるし、早めにどうするか決めてくれよ」
「――――」
飯を食い続けながら世間話をするような感じでそれなりに大きな選択を迫る。当然だろうが龍太からすぐに返事を聞くことはできなかったものの、言いたいことを言えて気持ちが軽くなったこともありそれ以上は何も言わず、黙々と夕飯を食い続けた。
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