【第17話】

「俺の、どこが良かったんだ?」
 一目惚れされる要素なんてどこにもないのに、こいつは俺のどこにそんなポイントを見つけたというんだ? ドキドキしながら聞いてみると、龍太の返事はなんとも気が抜けるものだった。
「どこがって……フツーなとこ?」
「……は?」
「最初亨を見たとき、間違ってハッテン場に入っちまったノンケのサラリーマンだと思ったんだ。あの頃はリーマンと話す機会なんてなかったから、どんなツラしてるのか興味湧いて声かけたんだ。
 正面から見たらすぐにお仲間だってわかったし、色っぽい目にやられたんだけどな」
「い、色っぽいっ!?」
「セックス相手を探してる欲情した目だったからなー。……怒るなよ、俺にはそう見えたってだけだし、それにその目にヤラれたんだぜ?」
「〜〜〜〜!」
 返す言葉が浮かばない。ただ無性に恥ずかしい。
(ギャップって、単に『欲求不満です』ってバレてたってことだろ!?)
 龍太と出会ったときそういう状態だったことは否定しないが、人に指摘されるとこんなにもいたたまれないものなのか……。
「だから、そんな顔するなって。俺はお前のそういうとこに惚れたんだからな、変に気にして直そうとか考えるなよ」
「……直せるもんなら直したいって」
「自分でムリだってわかってんならいいや」
「うっ……」
 ギリギリの状況で自分の欲望を抑えつけることができるとは思えずそう言うと、龍太はどこか満足げに笑う。くそ、簡単に忍耐強い人間になれるならなってみせるのに……!
 静かに落ち込んでいる俺に気づいているんだろうけど、龍太は意に介した様子もなく話を進める。
「遊びに行くのに誘わなかったのは、俺の好みに付き合わせるのは悪いよなって勝手に思ってたからで、別に一緒に行きたくなかったからとかじゃないんだ。俺の仲間は騒がしいヤツが多いし、よく行く店もうるさいトコが多いし……遊びに行って不機嫌にさせることもねーかって。
 映画とか買い物とか、それだけのために出かけるってテもあったんだよな」
「そうだな」
「……これからは誘っていいか?」
「え?」
 何を言っているのか咄嗟にはわからず、まともに見られなくなっていた龍太の顔を見てしまう。すると向こうも俺を見ていて──今日初めて俺の顔をじっと見つめてくる真剣な眼差しに一瞬息が止まる。
「行きたくなかったら断ってくれていいし、つまらなかったら途中で帰ってもいい。亨が行きたいところにも、誘ってくれれば付き合うから」
「龍……」
「だからまた、俺と付き合ってくれないか?」
「っ!」
 テーブルに置いていた俺の手に大きな手を載せ、周囲の騒音に掻き消えない声で言ってくれた龍太。その手が震えているように感じるのは……俺の気のせいか?
「俺は亨とやり直したい。もう一度、やり直してくれないか?」
「────ああ」
 真摯な言葉。こんなにはっきりした言葉を龍太からもらうのは初めてで──俺は込み上げてくるものを堪えながら頷いた。
 本当は俺も別れたくなんかなかったんだ。胸につかえていたわだかまりが解消された今、龍太の想いを素直に受け入れるのはいけないことじゃないよな。
「安っぽいこと言うなって怒られちまうかもしれねぇけど、幸せにするから。今まで不安にさせてた分も、苦しめてた分も、必ず幸せにする」
「…………うん」
「──おい、泣くなよ」
「お前が、泣かせるようなこと言うからだろっ」
 必死に我慢していた涙が零れてしまったのを目ざとく見ていた龍太に憎まれ口で返すと、わざとらしくおどけた調子で「それもそーか」と言い子供のような満面の笑みで笑う。けど、つられて吹き出した俺と一緒に笑っていたのは数秒だけで。
「あ……」
 涙を拭ってくれた手を俺の頬にあてたままゆっくり顔を近づけてくる龍太に、俺は目を閉じて応えようとした。
 ──が、もう少しで唇が重なる……というとき、大きな咳払いと呆れたような声がした。


 ■ 16 ■ BACK ■ 18 ■