テレビ大好きっ子の龍太がこんなにあっさり手放すなんて。ずっとテレビを見ていたのも、俺の気が変わって置いていくかもしれない、なんて考えての行動だとばかり思っていた。
(何か裏があるのか? それとも、単純に俺の新しい門出を祝ってるつもりか?)
龍太の言動の意図が理解できずあれこれ考えていると、玄関のほうが騒がしくなる。何事だとドアを振り返ると──部屋に入ってきたのは思いがけない人物だった。
「あ、ど〜もぉ」
「君は…………」
「ハジメですー。先日は店まで来ていただいてありがとうございましたぁ」
「す、すみません、お邪魔します」
さっき龍太と仙道が持ち出したテレビより少し小さいテレビを持った二人がそれぞれに挨拶してくる。どちらも少し前に初めて会った……そうだ、俺が龍太と別れようと決めたあの日に会った二人だ。
「どうして君たちが……」
「龍太からちらっと話を聞いたんでー。テレビがなくなるって言うから、俺の家のいらないテレビでよければ譲るよってことになって持ってきたんですよぉ」
「そのうち取りに行くつっただろ!?」
「はぁ? 今日引越しだっつーから気ぃきかせて持ってきてやったんじゃん! 喜べよ!」
龍太と喧嘩腰のような会話をしつつ、ハジメ君は足を止めずリビングに入ってくる。テレビの片側を持たされているタロウと呼ばれた青年も当然それについてくることになり、俺と龍太以外入ったことがなかったこの部屋に仙道も含め三人が一気に来訪したことになった。
「よし、せーので下ろすよ。せーのっ」
今まで載っていたテレビをどかしたばかりでテレビボードは軽くホコリをかぶっている。だがハジメ君は全く気にせず、さっさとテレビを載せてしまった。
見た目や話し方は女性らしいような感じを受けるが、こういうところは男らしいんだな。
「よし完了〜!」
「悪かったなハジメ。タロウさんも、すんませんでした」
「いえ、こちらこそ……ご連絡もせずにすみませんでした」
「なに謝ってんだよー。別にいいじゃん、すぐテレビ見られるんだし。そうですよねー亨さん?」
その気がなくてもドキッとしてしまう綺麗な笑顔を向けられ、忘れかけていた黒い気持ちが復活する。こんな顔があいつの好みなら、俺に勝ち目なんかあるわけないじゃないか。
「──龍太」
「あ? な、なにっ?」
「荷物全部積めたからもう行くな。もし何か残ってたら、捨ててくれていいから」
「え……」
「え〜、もう行っちゃうんですか? 皆で引越しそば食べようと思ってお昼に来たんですけどー」
「悪いけど君たちだけで食べてくれ。行こう、仙道」
「──ああ」
素っ気ない態度になっているとわかっていたが改善するつもりはない。ドアの前に所在無さげに立っていた仙道に声をかけ、そのまま玄関に向かう。
「亨っ」
龍太の声は聞こえたけど一度も足を止めず、一足だけ残しておいた靴を履いて外に飛び出した。長年過ごした家を出る名残惜しさはあったが、それ以上に早くあの三人から離れたかった。 「待て、鈴木」
「なんだよ?」
「俺が運転する。お前は助手席に乗れ」
「はっ? なんで──」
「荒い運転の車には乗りたくないんでね」
「………………」
仙道は俺の苛立ちに気づいていたのか。冷静にはっきり断言され、それ以上何も言えなくなった俺は無言で車を回り込み助手席に座った。
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