大河原で初個展
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一九八三年初夏、仙台から柴田へ引越して半年、大河原町中央公民館で初個展を開いた。このときを取材した新聞記事には、「河北美術展に過去四回入選で、さらに上位の賞を狙う新進で・・」と評されていた。 そのころは風景中心で、青いぼやけた色調を巧みに使った「雪の日の風景」や点描に近い「妻の夏」を発表した。展覧会で評判が良かったのは「妻の夏」で、浜辺の舟にもたれて立つ姿が自然な雰囲気の人物画で黄色いサンドレスの彩やかさが夏を感じさせたからだろう。妻の笑いもしない表情が何とも山家らしい。 妻の夏を描く少し前、山家は青木繁やスーラ、シャガールを研究しており「わだつみのいろこの宮」の人物描写とストーリー性に感じ入っていた。 また、ボナールの雪どけのようなぼんやりしたタッチは「雪の日の風景」に表われている。 まさに山家は、いかにオリジナルな絵にしようかと表現技術を磨きに磨いていたのである。作風はいろいろ試され、変化し続けた。 大河原での個展は、山家の原石ばかりがぞろぞろと並んでいるようだった。 この年の二紀に出品した「鮎川港風景」は傑作である。捕鯨で栄えた港の一角に、細々と暮らす家族。古びた宿舎から、弁当の包みを持った父親が加工場へ歩いてゆく。父の後ろ姿を見送る幼い少年。貧しいながらも生きることの強さを描いた作品だった。 長いこと倉庫に眠っていたが、数年前、格安でせり落ちた。(作品を手にした人は、こんな襖に描かれた背景を知ったことではないが・・) とにかく絵なんかは見た人が決めるもの。どんなドラマをその人は、この鮎川港風景に見たんだろう。 |