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「イエェー!」
ある晴れた昼下がり。
青空の下を大声を上げながらビュンビュンと飛び回る、人の手ほどの大きさの小さな影。
それは背から蝙蝠にも似た翼が生えた少女だった。
少女の名は閃那。
その身の丈の半分はある髪の毛を、頭の大きさほどもあるリボンで結び、小さな顔はどこかいたずらっ子のような愛くるしい笑顔を浮かべている。
軽装で動きやすそうな服には、腰のあたりにポーチが着いており、機能性にも優れているようだ。
閃那は背の翼をぱたぱたと羽ばたかせ、上昇すると、途中でぴたりと止まり、重力にまかせて身を滑空すると、地面スレスレで翻り、再び上昇すると翼を広げて、その場で停止する。
「前の服よりもずっと動きやすいぃ!」
手足を思いっきり伸ばし、身体中で喜びを体現する。
「ふふ、閃那ちゃん。とっても嬉しそう」
その閃那を、少し離れたところでニコニコとしながら眺め、話しかけたのは彼女の妹である覇綱。
背には純白の翼と、おとなしげな雰囲気は閃那とは対照的で、閃那を見つめる瞳は、こちらが姉であるかのように落ち付いている。仕草も小さく、自信なさげで活発な閃那とは全く違う。
身を包む水色の、ドレスのような服は、短パンの閃那とはまた違い、彼女の性格に似合ったチョイスだ。
「そりゃそーだよ! お忙しい旋璃亜様が、私達のために作ってくれたんだもん!」
閃那と覇綱は、魔王と戦う勇者、旋璃亜の使い魔である。
彼女の心と、魔力の結晶から生まれた彼女たちは、一般に言われる従者としての「使い魔」とは少しだけ違っていて、彼女の家族として、彼女の側に居る。
「旋璃亜様、裁縫の趣味がみんなに知られるの嫌ってるから、あんまり作れる機会ないしね……」
「もっとみんなに教えても良いのに」と、ため息混じりに呟く覇綱。
旋璃亜の趣味は裁縫だ。
閃那や覇綱、他の使い魔の服もじつは旋璃亜が皆手作りしているのだが、彼女のこの趣味のことは使い魔達しかしらない。
「人々の先頭に立つ勇者の趣味が裁縫など、内向的なものでは士気に影響する」
と、無理なこじつけとも聞こえる理由で誰にも教えていないのだ。
単に人々の上に立つにふさわしいと、彼女が考える「強い自分」を誇示しようと必死なだけかも知れない。
「そんな旋璃亜様だからこそ、私達が支えなくちゃいけないんだよ!」
珍しくまともで心の通った言葉を紡ぐ閃那。
「うん、服も新しくなったし、改めて、旋璃亜様を支えて頑張ろう」
姉の心意気に同意する覇綱。
二人は装いも新たに決心する。
小さな姫を、愛しい主を。
命を賭して護る事を。
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