黒龍群地方の広大な森の中を二人の少女が北へと向かい歩いていた。

「おい、本当にこっちであっているのか!!」

後ろに纏めた漆黒の髪、整った顔をしかめて、怒声を発したのは、「聖王姫」旋璃亜。
勇者でありながら、魔王の姫として畏怖される象徴である手甲は、さすがに普段は装着しておらず、白銀の軽鎧のみの、一見すれば冒険者としか思えない装備をしている。

「まぁ、俺に任せろって、ちゃあんと目的地にはたどり着くからよ」

癖毛もない金の美しいストレート、黙して立てば絶世の美女にしか見えない戦乙女、ルシア。
旋璃亜とは対照的に、黒いインナー、紅のドレス、その背には神々しくも美しい白銀の翼という、どこから見ても一般人や冒険者には見えない格好……むしろこちらがお姫様ではないかと見間違えそうな格好をしている。
しかし、いたずらっぽく笑った顔も、言葉遣いも、その姿とは反して庶民的。

「いつだ……なら、いつたどり着く! お前は、先程から道が分かれるたびに木の棒を倒して、行く先を決めているではないか! 精霊使いでもあるから、信じてきたが……さすがに疑わしくなってきたぞ」

勇者の中でも生真面目は随一の旋璃亜にとって、軽いノリを持つルシアはソリがあわない相手の一人だ。

「はっは〜ん、気にくわないなら今から分かれたっていいんだぜ?
別にお前を案内する義務もないし、迷って野垂れ死んでもオレは全然かまわないからな。でも、ま、あと少しだし、お前の運が良ければたどり着くと思うぜ?」


再び意地悪く笑うルシア。
続けて怒りをぶつけようとした旋璃亜だが、口調から、態度から、彼女は確信を持って居るとしか思えない。
態度や性格は気に入らないが、こういう時は信頼して良い。
短い付き合いながらも何度も死地を共にした仲間。時に反発しあうがお互いを理解していた。

「取り乱してすまない。……私が悪かった」

形が無くても、しっかりとした態度をとれば、旋璃亜が納得することも。

「ま、解ればいいんだよ、解れば! ほら、砦が見えてきたぜっ!」

ルシアの指し示す方に視線を合わせる旋璃亜。そこには小さな村ほどもある建造物。

「な、着いたろ?」

子供が「してやったり」と笑うように口の端を上げるルシア。
小さなため息混じりに肩をすくめる旋璃亜。

それも束の間、二人はどこからともなく武器を取り出し、より建造物へと近い物陰へと身を潜めた。

二人の勇者の前に、魔の巣窟たる建造物は不気味な静寂を保っていた……。

(勇者屋キャラ辞典:「聖王姫」旋璃亜「爆裂戦乙女」ルシア・シンクレア
文:若菜綺目羅
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