深い森の、薄暗い闇の中、常人では歩くのも困難な獣道を、龍刹は走っていた。

「魔王妃」マリエスタの死……暗殺。そして、遺された幼い妹。
大人達の中で一人、母だけを信じてきた妹は、行き場を失い、生を見失っているかもしれない。

それを支える幼なじみも、今は傍に無く、独りで泣いているに違いない。
傍に居てやれない事が歯がゆかった。すぐに抱き留めてやれないことが辛かった。

大切な、大切な私たちの末妹。
あの子はまだ、「魔王の姫の力」に目覚めていない。これをきっかけに、覚醒するかもしれない。
「魔王の姫の力」は絶対的であるが故に、必ず不幸がつきまとう。
小さな妹には大きすぎる力だったら……それを不幸としか、受け止められないようになってしまうかもしれない。

早く傍に行って、抱きしめたい。そして、支えて上げたい。
はやる気持ちを抑えつつ、龍刹は森の奧にある、小さな村で待つ幼い妹の元へと走った。


……


「あ、姉様、いらっしゃい」

意外にも、不安に駆られた龍刹を迎えたのは、満面の笑みの妹だった。

「今日はどんなお話を聞かせてくれますか? あっ、それともまた木登りを……」

いつも通りの会話……でも、不自然に笑っている。普段、自分から喋る方ではない子が、必死に話している。
胸を締め付けられるような思いに、その笑みは見ているのも辛かった。いてもたってもいられず、龍刹は妹、旋璃亜を抱きしめた。

「旋璃亜、ゆっくりで良い。無理はしないで。私はずっと、貴方と一緒に居るから」

手をほどき、旋璃亜と向き合い、懐から取り出した紫水晶を、彼女の手にそっと託す。
旋璃亜の手の中で、紫水晶は形を変え、牙のような指を持つ、ゴツゴツとした手甲の姿となった。

「その「手」がある限り、私は貴女の傍にいる。そして、貴女を護る」

小さい旋璃亜には、解らないかもしれない。その意味を。今は自分自身の自己満足かもしれないけれど、いつか、この子なら解る時が来る……。

「有り難う姉様。これがあれば、いつも、どこでも、優しい姉様と一緒だね」

手甲を抱きかかえ、微笑む旋璃亜。

「あ、うん、そうよ。これからは旋璃亜と私は何処でも一緒」

彼女の物わかりの良さに少し驚く龍刹。

「うん! あ、忘れちゃう所だった、姉様に新しい友達を紹介するね!」

今まで隠れていたのか、おずおずと旋璃亜の影から出てくる、小さな、小さなポニーテールの女の子。
なるほど、そう言う事ね。心の中で納得。
嬉しそうに話す旋璃亜を見て、先程の自分の思いに気恥ずかしさを感じながら、妹の踏み出した新しい一歩をそっと祝福する龍刹だった。



(勇者屋キャラ辞典:「漆黒の麗姫」旋璃亜、陽光の闘姫」龍刹
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