やめておけば良かったかしら……。

クリスマス前夜、聖なる夜の星のきらめく夜天に、何かの三倍のスピードで飛びそうな色の衣装、紫の長い髪の美少女、龍刹と、妙に角張った鹿のオモチャ……シカさんの姿があった。

「さぁ、あともう少しだ。頑張ろう♪」

「まだあるの!? まったく、何が素敵な聖夜(イヴ)よ〜><」


一年に一度、もっとも活躍出来るこの日に、元気いっぱいのシカさんが独特の訛りのある口調で龍刹を励ます。
一方の龍刹は、恋人同士(まだ恋人じゃないけど)の甘いイヴを過ごす予定が、まさかサンタをやる羽目になるとは思っていなかったので、このプレゼントを配る仕事に乗り気になれない。

……

あの朝、契約完了後。

「で、アタシは何をすればいいの?」

(何をすればいいのか解らないけど、コレで先生と素敵なイヴだ〜♪)


すでにその夜のデートコース、甘いシチュエーションを想像し始める龍刹。あり得なさそうなシチュエーションが次々と浮かんでは消えていく。

「結構大変だども、ねーちゃんならきっと大丈夫だ」

急になまった口調に変わるシカさん。しかし、恋する乙女にはそんなものは関係ない。

「クリスマス・イヴ、よい子のみんなにプレゼントを配るだ」

にっこりと目を細めるシカさん。彼の頭にもプレゼントで喜ぶ子供達の顔しか浮かんでいない。

(……へ? イ ヴ の よ る に ?)

少しにやけた顔のまま、妄想がストップする龍刹。

「ちょっと! それじゃあ素敵なイヴはどうなるのよ! 先生との甘い夜はっ!?」

シカさんを正面につかみ、抗議する龍刹。しかし、シカさんはつぶらな瞳を輝かせ、

「聖なる夜に、よい子達にプレゼントを配る。サンタにしか過ごせないとっても素敵なよるだべ!?」

これ以上の幸せはない。と、力説するシカさん。

「まさか、コレが素敵じゃないというだべか!? 今の子供は鬼だべか!? ゆとり教育の弊害か!?」

うぐ……。そこまで言われては今更断れない。龍刹はしぶしぶこの契約を果たす事になった。


……

「らすとおおおおおおおお!!!」

その後、「せめて可愛い衣装を!」と、お願いしたオリジナルサンタ服を乱しながら、最後のプレゼントを配り終えた龍刹。
「お疲れ様、有り難うだべ」と、満面の笑みを浮かべたシカさんを見送ったのは昨日のこと。

任務完了の翌日、クリスマス当日。
あれだけ騒いでおいて、クリスマスはまるで夢だったかのように、新年へと模様替えを始めた街。

その寂しさに、昨日の忙しさを思い出しながら、あれも良い夜だったな。と、もの思いにふけりながら、まだ暗い道を歩く。
もう少しすれば子供達も起き出して、枕元のプレゼントに、オトナにならないと覚めない夢を見るだろう。

(イヴ、先生は誰と過ごしたのかなぁ……はぁ)

それとは正反対に夢見られなかった事にため息をつく彼女。祖父に敗北した日以上にブルー。
しかし、そんな彼女に

「冥王府……?」

後ろから、聞き覚えのあるヒトの声がした。


聖夜ではない。クリスマスの朝、よい子にはちゃんと、とっておきのプレゼントが用意されているのだ。
彼女の場合、枕元ではなかったが。

Happy Merry Christmas!!
全てのヒトが幸せな世界でありますように
(勇者屋キャラ辞典:龍刹
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