『インドの事−その2−』

「インドの事−その1−」 「インドの事−その2−」 「インドの事−その3−」
「冨村さん、今日はカレー食べに行きましょう」
渋谷のオフィスには食堂が無いため昼休みは外に食事に行く。何時も一緒に昼食を食べに行くのはインド人のKさん。
「カレーですか、良いですね。真夏に熱くて辛いものを食べるのは良いものです。毎日は勘弁ですが」
「毎日はダメですか?」
「日本人は毎日はダメです。」
(実はこの日、以前同じ職場に居た人から電話があり一緒に夕食を食べることになった。私は生憎都合が付かず同行できなかったのだが、彼は夕食もカレーを食べに行ったそうだ。)

 Kさんは2000年に転職してきた。最近は日本語が上手になり、もっぱら日本語でのコミュニケーション。
最初、会社に来たときは奥さんの手弁当だったが、最近は外食。何でも日本での食事が楽しみだそうである。
Kさんはインドはマドラス(南の方)というタミル語を話す地方の出身で、肌の色は浅黒く立派な髭を鼻の下に蓄えている、中々の男前である。
丁度、その頃の私は一足早い夏休みをハワイで過ごしたばかりだったのでこちらも負けずに黒い。(私は陽に焼けると真っ黒になってしまう習性がある)二人して街を歩いていると、遠目には色の黒い外国人が2人並んで歩いているようにも見えるかも知れない。

 彼とは、毎日色んな店に行って食事をする。和食の時もあれば、洋食、中華、焼き肉なんでも食べる。
インド人と聞くと、一概に肉は食べてはいけないと思いがちだが、単に肉を食べてはいけないというほど単純なものでは無いらしい。日によって食べて良い日とそうでない日があったり、複雑に宗教の概念などが絡んでいるらい。
いちいち説明を聞く気にもならないぐらい色々と複雑なようである。
Kさんは何でも食べるが、Kさんの奥さん(やはりインド人)は肉は一切食べないそうである。
彼の話によると、普段野菜しか食べない人は、その人が肉を食べる人かどうかが、体臭で分かってしまうとか。
何時も昼食の時は食文化の話しで盛り上がる。焼肉屋でそんな話しをしながら。。。
「へー、じゃぁ、今日は肉を食べても良い日なんだ」
「本当はね、今日はいけないんです。神様は怒ってるかも知れない。」

 渋谷には『サムラート』という有名なインド料理の店があり、昼食時にはランチのカレーを出している。
¥1,000ぐらいだったろうか、まぁ良い値段なのだが。。。
小さいスープ皿に2種類のカレーが選べ、それにスリッパぐらいの大きさの『ナン』というパンを付けながら食べる。当に『インド』と言う感じの店でシタールの音楽や、店で働いている人も殆んどがインドである。

 店に入るとウエィターが、水を運んで来る。
よく見ると、Kさんの水にだけ氷が入っていない。しかも大き目のグラスは明らかに周りのお客さんたちとは違う。
一緒に店に入り同時に座席に着いた。その間に特に氷を入れないように頼んだ様子も無い。
「Kさんの水には氷がありませんね」
「氷、入れないんですね。」
カレーが運ばれてくると、彼は起用に片方の手の指先で『ナン』を切って食べる。
こっちは不浄とされる手も使い、両手でちぎりながら頂く。
『ナン』は御代わりが自由なので、無くなればいくらでも頼める。
日本人は『ナン』が無くなるとご飯をもらってカレーライスで締めくくる人が多い。私は既に1つ目の『ナン』でカレーがなくなってしまったのでおしまい。

 お金を払って店を出る時、レジの人がKさんに何か話しかけていた。
「何、話してたの?」
「何処の出身か聞いてました?」
「彼もタミル語話すの?」
「いえ、ヒンディー語でした。私はヒンディー語はあまり出来ないんですね」
そういいながらも、充分にコミュニケーションは成立していたようだから大した物である。

 オフィスに戻り、隣の席の女性に昼食の時の出来事を話して聞かせていた。
「インドの人にはね、氷の入らない水が黙っていても運ばれて来るんだ、氷入りの水は飲まないんだって。」
「冨村さんの水には氷は入っていましたか?」


(2005.11.1):本当は、『インドの事−その1−』があるのだけど、未だ出来ていない。『インドの事−その1−』を書いているうちにいろんなことが湧き出てきたので分けて書くことにした。だから、『インドの事−その1−』はこの後出てくる予定。そこではこのKさんの紹介も入れなくては。。。 (2005.12.16):私が日に焼けて色が黒い部分が途中に出てくるが、それが最後のオチに結びついている。その部分が少し弱そうなので補強。