T:各地域、同時代並行の世界史
世界史・納得のツボ(人類編)
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前3500年〜前600年:1

(5) 何をもって文明と言うのか

「文明の危機」とか「文明の誕生」とか言いますが、私たちは何をもって文明と言っているのでしょうか。

始まりの「四大文明」とは

前4000年紀に入り、エジプトとメソポタミアで都市国家が成立し、文字や青銅器を伴う古代文明が出現するところから、「世界史」の授業は始まります。四大文明と記されたタイトルが少し気にかかります。そのうち、インダス文明は1000年以上も、黄河文明は2000年も遅れて成立しているからです。これを一括して論じることができるのでしょうか。

大河の下流域と言うなら、大河は他にもアマゾン川とかミシシッピー川とか多くあります。なぜ四大文明なのでしょうか。大河でなければいけないのでしょうか。

「世界史」の冒頭の「四大文明」の共通点はどこにあるのでしょうか。

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メソポタミア・エジプト・インダス

メソポタミア、エジプト、インダスの各文明は互いに距離も近く、交流もあったことが分かっています。北回帰線の南北に沿って連なる乾燥地帯に位置し、大河の氾濫を利用した灌漑農業など、共通点も多く、これらを同じ時代の動向として扱うことは可能です。

これらの古代文明がこの時代に成立した理由も明らかになっています。気候の寒冷化に伴いこの地域がよりいっそう乾燥したことに加え、その上流では降雪量が多くなり、下流に大規模な洪水をもたらしたためと、各種データーから推測されています。

ですから、メソポタミア・エジプト・インダスの古代文明は関連づけて考えることができます。しかし、これを基本にして、他の古代文明を見ることはできるでしょういか。そこで、古代文明の新しい定義を考えてみました。

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古代文明の新しい定義

黄河文明より2000年も早く、長江流域で稲作による古代文明が成立していた、とする報告が近年、続きました。まだ、文字こそ見つかりませんが、中国の古代文明は黄河からではなく、長江から始まったとされつつあります。

詳細はこれからの発掘を待つしかありませんが、メキシコ、ペルーの都市文明や地中海のエーゲ文明はどのように位置づけることができるか、古代文明を包括的に見る視点について、いろいろ考え、古代文明の要素としてついて、次の二つの条件を設定してみました。

  1. 血縁関係にもとづかない分業と分配のシステムがあること。
  2. 鉄器が使用されていないこと。
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血縁関係にもとづかない
分業と分配のシステム

「血縁関係にもとづかない分業と分配のシステム」とは、国家を想定していますが、国家というとまた定義など難しくなりますから、このような条件にしてみました。こうすることで、青銅器であるとか、文字が使われていたとか、何年ごろ成立したのかとか、個々の条件に振り回されることなく、古代文明について考えることができます。

先史時代、家族を中心とする血縁関係にもとづく共同体が、人間社会の基本とされてきましたが、「何らかの理由」により、国家などの血縁関係を超えた分業と分配のシステムが誕生しました。

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文明の背景は危機回避

「何らかの理由」とは、従来の血縁関係にもつづく社会システムでは耐えられないような、危機的な状況が想定できます。たとえば、大規模な気候変動、災害や病虫害、感染症の流行などです。

ただし、これだけでは対象が広がりすぎますから、古代に限定するために、鉄器が使われていないことを条件にしてみました。鉄製の農具や武器が使えれば、大規模な開墾や他の地域への侵略・略奪などがかのうとなりますが、これらは後の時代には広く見られるようになる危機回避の方法です。

ですから、古代文明の条件としては、鉄器の使用は外した方がよいと考えられます。

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古代文明を柔軟に考える

井戸による灌漑だあった黄河文明でも、治水のための大規模な土木工事は行われていました。大河が存在しなエーゲ文明や、文字を使わなかったインカ帝国にも、分業システムの存在を想定できる遺物がありますし、鉄器は使用されていませんでした。

このような視点であれば、長江の文明や縄文文化が古代文明であったか客観的に論ずることができるようになります。

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ホメロスと聖書の舞台

なぜこのような議論が必要かと言いますと、現在の「世界史像」には大きなゆがみがあるからです。歴史に関心が高まりつつあった19世紀、ヨーロッパでは、「近代ヨーロッパの文明がもっともすぐれた文明だ。」とする進歩史観が支配的でした。

そうしたヨーロッパの原初の姿を求めて、ホメロスの叙事詩や聖書の記述がどこまで真実かに関心が集まるようになっていました。各国はアジア進出の一環として鉄道の建設を競い合っていましたから、考古学の発掘調査は鉄道建設の測量の絶好の口実になりました。

そのため、古代文明への関心がエジプト、メソポタミア、地中海といったホメロスや聖書の舞台に限定されがちになっていったわけです。しかし、文明のあり方が根底的に問われ始めている21世紀の私たちは、もっと包括的に人類史的な視点にたって、文明を再検討しなければなりません。

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