2001年 Photo&Poem特集 No.4 8月号













 風をうけて
                    銀色


少し小高い場所から見渡して、
行く風を眺めている。
緑の絨毯をなびかせて、
行く風は目に見える。

普段何気なく眺めているものが、
ものすごくいとおしいものだと、
今ごろになって気がついた。
その頃には既に私はその場所に居なく、
町で風の流れさえ読めずに生活をしている。

息苦しいよ。
ぽつりと呟いた私の声を誰が聞きとめるだろう。
大地を渡る少し湿り気を帯びた風は、
私の心をも湿らしながら、
また何処ともなく吹きすぎて行く。

変わり行くことを嘆くだけでは、
何もしないこととかわりなく、
涙で潤んだ目を風に乾かしながら、
両手を広げて風を感じてみる。

変化を求めることが人間だとは思うけれど、
その変化は良いものであるのかは、
私にはわからない。
長い年月を経て、やっとわかるものなのだろう。

都市化してゆく緑を眺めながら、
風の行方を考えてみる。
その風の行き着く場所に、安住の地があることを願い、
手にした草を風に飛ばす。







  作者のHP http://www.rinku.zaq.ne.jp/bkacc704/index.html






夏の風
                夜行星



おそらく
次もまたきみは
すぐに行ってしまうのだろう
饒舌すぎた夏の野原に
思わせぶりな
いたずら書きを残して

鎌を止め
見上げる
何もない空は
こんなにも涼しげに
ただ青く抜けていて
走り去る
背中の余韻を隠す

刈り残した草に輪を結べば
きみのくるぶしが
引っかかるだろうか
なんて
垂れ落ちてくる
他愛も無い空想を
袖口で拭えば

麦わら帽子を取り合い
シオカラと遊ぶ
きみの笑い声が見えた








 作者のHP  http://homepage1.nifty.com/yakousei/index.html

  

冷麦獅子唐
                 
榎本 初




暑いね

硝子の器に盛られて

冷麦

炙られて獅子唐
膨れ面だったり
剥れ面だったり

小皿の硝子

四畳半

麦茶の
氷の均衡が崩れ



団扇一つ

獅子唐 辛っ

冷麦

鰹の薫りを纏い
紫蘇の香と戯れ
太陽の眩暈忘れ

氷の雫が流れていきます

ギョーサンニワデトレテネェ

お袋の獅子唐

今年も届きました
冷麦と
                           作者のHP http://www1.gateway.ne.jp/~well/





どこまで走れば
                 銀色



どこまで走れば見えるのだろう。
息が上がるほど駆けても、
その答えは見つからなかった。
小さな頃、一生懸命走った。
友達を追いかけるため、
目の前の友達を追い越すため。
夢を現実にするため。
そしてなにより、
見たい景色を手にするため。
けれど今はそんなに走れるところも無く、
何が見たいのかもわからず、
それでも走ってみる。
息が上がる。
苦しくなる。
もう歩きたくなる。
けれどここで休んでしまえば走らないのと変らない。
あの丘まで。
あの電柱まで。
あの家まで。
小さな目標を決め、
必死に足を前に出す。
小さな喜びに気がつかないうちは、
私は走りつづけることしか出来ない。
立ち止まれば堕ちることだとむやみに恐れているから。
「本当に不幸なのは自分の幸せに気がつかないひとさ。」
自分で言っておきながら、
高望みをして、分をわきまえず、
望んで、求めて、渇望して。
そして、遥か高みにある目的地を望み、
歯を食いしばり走りつづける。
いつ終るともしれない、自分との戦い。






       作者のHP http://www.rinku.zaq.ne.jp/bkacc704/index.html











 2B弾
               青野3吉


2B弾はポケットに入る炸裂弾だ
 
 たばこ一本ほどの大きさの先にマッチと同じ赤リン
 のような物が付いているこれを擦ると火が付いて
 中の火薬に着火したら黄茶色の煙が出て数秒後に
 “バン”と炸裂する

こんな物をポケットに潜ませている日には
ワクワク・ドキドキ胸がふくらんでいたんだ
 
今だったらそうだね“原子爆弾”を一個
ポケットに入れていたようなモンかな気分はね

今日はこれを使って何しておもしろく
遊ぼうかと考えていたんだ

違うのは本物の“原子爆弾”のように
人を困らせないということだった


今の僕のポケットには何が入っている

十万kmを越えた車のキーとローンの残った家のキー
仕事の用ばかりでふくれた携帯電話とくたびれた財布
財布にはおっと大事なものが入っていたヘビの抜け殻だ
 
 うちの子どもにもらったんだお金持ちになるという
 ちょっと嬉しくなった


久しぶりに2B弾でも買おうかと思って
昔よく行った田舎の百貨店(実は駄菓子屋)を訪ねたら

“この家売ります”の看板が出ていた

何でも売っている店だったが
最後は自分を売りに出してしまったようだ





作者のHP http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/4507/




























  残 照
          青野3吉


 日がしずんでなお 
 ひかり輝くもの
 長波長の光を受けて
 はるかな高さより
 地上を照らす高層の積乱雲
 
 じっと目を凝らして見ると
 決して同じ姿ではなく
 少しずつ形を変える
 姿形を変え
 陰影を深めながら
 高く高く伸び上がろうとしている
 そうして地上を照らす
 日の送る
 最後の一条まで漏らすまいと
 懸命に伸び上がる
 その存在を主張する
 
 ああ もう残りわずかよ
 すそ野は暮れている
 
 だが最後の一滴までくみ取ろうとしている
 
 “おどろいたな もう日没から
   四十分もたっているんだぜ”
 
 ああ また微色が灯った








              作者のHP http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/4507/













 
夕 立
          
織部夕紀


水のような影に触れると
夕立の気配がした

夜はそこまで来ているのに
山の色は朝のように透明で
雲の隙間から降りてくる光が
若い人たちを照らしている
長くのびた影を
不安げに揺らして

空だけが
何世紀も前の絵画のように
動かないでいる

もうすぐ

どこかで雷が鳴る
光は時を止めるように瞬きをして
写真を撮る
今の私たち
ここにあるすべての光景を
絵画の代わりに

雷光が残り
若い人たちの声は消えて













作者のHP http://www.asahi-net.or.jp/~nk3y-tnb/



























 
かげふみ
              nonya


赤いサンダルと
傷だらけの膝小僧
くくくっと
笑いをこらえた君の影が
僕の靴をはらりとかわした

日曜日の太陽はすぐに傾き
それぞれの背中に
ぼんやりとした淋しさを背負って
それでもころころと
はしゃぎ回っていた

長くのびた影は
やがて闇に届いて
記憶のいちばん深いところに
静かに沈んでいった

ずいぶん長い間
たくさんの影を踏んづけたり
自分の影を何度も踏み躙られたりして
僕は今でも
この オニだらけの街で
なんとか生きのびているよ

そして
夏が来るたび想い出すんだ
ひとつひとつの影が
もっと鮮明だった
緑と風の平野を

ところで
僕はずっと
オニのままだったんだっけ
本当は何を追いかけていたのか
とっくに忘れてしまったけれど












作者のHP http://www.interq.or.jp/rock/nonya/