2001年 Photo&Poem特集 No.4 8月号


























 夏 の 宵
               
夜行星




木立を揺らすほどの

せみ時雨の暑いシャワーが止むと

泣いたようにやけただれた

縁側に水が打たれる

心地よいゆるみが縁側のまどろみを揺らし

風鈴に音色が戻る



日暮れを待って

君は

汗ばんだ髪にも水を打ち直す

風に梳かれる毛先に

おどるいくつかのしずく

昼間のまばゆさを

ふっときらめかせ

櫛間にとけていく

遅れ毛の余韻



思い出したように 

遠くでお囃子が聞こえる

縁側で

忘れもののように

黙り込んでいる背中



そっと

浴衣の袖越しに

こぼれてきたもの

艶の香る指先から

淡い吐息ごと

揺れて落ちる



線香花火の

夏の宵













                                      作者のHP  http://homepage1.nifty.com/yakousei/





















  初 恋

                   nonya




次々と夜空を焦がす華

色とりどりの歓声

かき氷が溶けるのも忘れ

君は見とれていた



まといつくような闇

点滅する君の横顔

うちわを動かすのも忘れ

僕は盗み見ていた



むせかえるような蚊取線香の靄に

甘い汗の匂いが混ざり合って

君は急に大人びて見えた

僕は幼すぎる言葉を飲み込んだ



闇をゆるがす大音響は

やがて僕の鼓動と共鳴し

息苦しいような感覚だけが

胸の裏側で燃え残る



どこかで

思い出したように

風鈴が鳴った



風は火照った背中を

素早くすり抜けて

薄荷のような痛みを

胸の奥でそよがせた













                                             作者のHP  http://www.interq.or.jp/rock/nonya/













千切れても
               
くた




犀川の河原

しゃがみ込んだらあ

対岸の

浴衣色が滲んでるげん



うちの気持ち

いっくら解いても

解いても

頑固に

縺れていくじい



いじっかしい



こんな

うちの気持ち

この大北国花火大会の

六尺玉に乗ってえ

千にも万にも

散ってゆかんかなあ



千切れてこそ見える

花もあるげん



千切れてこそ見せる

花もあるげん















作者のHP http://laguz.gaiax.com/home/kuta















 


 硬質な夢
               
銀色




金魚鉢に眠る尾ひれの綺麗な金魚。

夜の帳を縫うようにして飛ぶ鳥。

決して涼しくは無いのに夕涼みと称して軒に集まる人々。



それらの一瞬の隙に流れ込んだ誰かの思惑。

まるで氷の上を歩くかのような危うさを残して。

砂時計が時間を計る間に、

辺りの木々が石英に変わりはじめる。

張り詰めた空気がまるでゼリイのような感触になり、

足元にある石が自然に光を宿し始めた。

それはそれは幻想的な風景。



眠る金魚の身体は小さな人魚姫に代わり、

何も考えていない目で世界を眺めている。



ベランダから身体を乗り出して、

飛べるかも知れないと鉄柵を乗り越える。

落下はしないけれど、お世辞にも飛ぶことは叶わず、

ただ浮遊して風に流されてゆく。



銀色の月がその張り詰めた体を変化させて、

か細いか細い三日月に変わり、

見ている人間の心を締め付ける。

うっとりと両手を伸ばし自分の身体が透けていることを発見し、

ぼんやりと覚醒を始める。



気がつけば軒の下。

空を眺めて笹の音を聞いていた。




それはそれは

硬質な夢

















                                              作者のHP http://www.rinku.zaq.ne.jp/bkacc704/index.html