夏 の 宵
夜行星
木立を揺らすほどの
せみ時雨の暑いシャワーが止むと
泣いたようにやけただれた
縁側に水が打たれる
心地よいゆるみが縁側のまどろみを揺らし
風鈴に音色が戻る
日暮れを待って
君は
汗ばんだ髪にも水を打ち直す
風に梳かれる毛先に
おどるいくつかのしずく
昼間のまばゆさを
ふっときらめかせ
櫛間にとけていく
遅れ毛の余韻
思い出したように
遠くでお囃子が聞こえる
縁側で
忘れもののように
黙り込んでいる背中
そっと
浴衣の袖越しに
こぼれてきたもの
艶の香る指先から
淡い吐息ごと
揺れて落ちる
線香花火の
夏の宵
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作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/
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初
恋
nonya
次々と夜空を焦がす華
色とりどりの歓声
かき氷が溶けるのも忘れ
君は見とれていた
まといつくような闇
点滅する君の横顔
うちわを動かすのも忘れ
僕は盗み見ていた
むせかえるような蚊取線香の靄に
甘い汗の匂いが混ざり合って
君は急に大人びて見えた
僕は幼すぎる言葉を飲み込んだ
闇をゆるがす大音響は
やがて僕の鼓動と共鳴し
息苦しいような感覚だけが
胸の裏側で燃え残る
どこかで
思い出したように
風鈴が鳴った
風は火照った背中を
素早くすり抜けて
薄荷のような痛みを
胸の奥でそよがせた
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作者のHP http://www.interq.or.jp/rock/nonya/
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千切れても
くた
犀川の河原
しゃがみ込んだらあ
対岸の
浴衣色が滲んでるげん
うちの気持ち
いっくら解いても
解いても
頑固に
縺れていくじい
いじっかしい
こんな
うちの気持ち
この大北国花火大会の
六尺玉に乗ってえ
千にも万にも
散ってゆかんかなあ
千切れてこそ見える
花もあるげん
千切れてこそ見せる
花もあるげん
作者のHP http://laguz.gaiax.com/home/kuta
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硬質な夢
銀色
金魚鉢に眠る尾ひれの綺麗な金魚。
夜の帳を縫うようにして飛ぶ鳥。
決して涼しくは無いのに夕涼みと称して軒に集まる人々。
それらの一瞬の隙に流れ込んだ誰かの思惑。
まるで氷の上を歩くかのような危うさを残して。
砂時計が時間を計る間に、
辺りの木々が石英に変わりはじめる。
張り詰めた空気がまるでゼリイのような感触になり、
足元にある石が自然に光を宿し始めた。
それはそれは幻想的な風景。
眠る金魚の身体は小さな人魚姫に代わり、
何も考えていない目で世界を眺めている。
ベランダから身体を乗り出して、
飛べるかも知れないと鉄柵を乗り越える。
落下はしないけれど、お世辞にも飛ぶことは叶わず、
ただ浮遊して風に流されてゆく。
銀色の月がその張り詰めた体を変化させて、
か細いか細い三日月に変わり、
見ている人間の心を締め付ける。
うっとりと両手を伸ばし自分の身体が透けていることを発見し、
ぼんやりと覚醒を始める。
気がつけば軒の下。
空を眺めて笹の音を聞いていた。
それはそれは
硬質な夢
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作者のHP http://www.rinku.zaq.ne.jp/bkacc704/index.html
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