黒揚羽 |
nonya
今にも
垂れ下がってきそうな
低い雲を
物憂げな上目遣いで
見上げた時
気づいた
ビルの屋上から投げ捨てられた
黒い紙片と
見紛うばかりの儚さの
黒揚羽
極彩色の
看板をはらりとかわしながら
空蝉達の
這いずり回る路上の彼方を
舞っていた
季節が
温度計と湿度計でしか表せない
この街で
迷っていることすら忘れて
生きている
愚かにも
自分の影と重ね合わせようとして
もう一度
目を凝らしたら消え失せていた
黒揚羽
現実なのか
幻想なのか
気にもせず
歩き出す
また
いらない記憶をひとつ
刻んでしまった
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2000.8.19 |
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作者のHPアドレス http://www.interq.or.jp/rock/nonya/
Mailアドレス nonya@rock.interq.or.jp
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夏の宵
夜行星 |
木立を揺らすほどの
せみ時雨の暑いシャワーが止むと
泣いたようにやけただれた
縁側に水が打たれる
心地よいゆるみが縁側のまどろみを揺らし
風鈴に音色が戻る
日暮れを待って
君は
汗ばんだ髪にも水を打ち直す
風に梳かれる毛先に
おどるいくつかのしずく
昼間のまばゆさを
ふっときらめかせ
櫛間にとけていく
遅れ毛の余韻
思い出したように
遠くでお囃子が聞こえる
縁側で
忘れもののように
黙り込んでいる背中
そっと
浴衣の袖越しに
こぼれてきたもの
艶の香る指先から
淡い吐息ごと
揺れて落ちる
線香花火の
夏の宵
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2000.8.15
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作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/
Mail fwhn1974@mb.infoweb.ne.jp |
すべからく
セイミ−
すべからく人の口から出ていくものは
神から遠くはなれ おののき ふるえている
たとえば別れ際に落とした吐息
土の上に小さくうずくまったネズミの顔
すべからく人の口から出ていくものは
宇宙を閉ざしうそぶいている
たとえば屍をつつむ嗚咽
果てしなく渦巻くように見えて瞬く間に収束する影
ぼくを確かめるのに必要なしぐさは
このように顎を低くして
黄色い傘の光線の下に隠れることかもしれない
震える肩に聞いてみろ
右のてのひら深く握りしめられたペンは
ペンである前にぼくを宿した実存なんだ
・・・・「朝日の街にソネットを」より
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2000.8.6 |
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いちにち
夜行星
くずかごに
はいりそこねたまま
埃のように放置される
書き損じた
いちにちのかたまり
ひとつつまんで
引き伸ばしたのは
君が
ふともらした答えが
急に
正解に思えて
仕方なくなったからだ
無造作に
なぐりつけられた文字が
痛々しく折れ曲がった茂み
掻き分けていくと
はらりと開けた
スタンドの灯りに照り返された
しわ深い紙くずの上
いちにちのまっさらな破片が
いくつも散らばっている
忙しさという仮面をして
端折り過ぎた時間を放り投げていた
僕はいったい幾つの未消化ないちにちを
置き捨ててきたのだろうか
取り戻せない放物線を
今
逆にたどろう
君がふと
拾いなおしたという
昨日を
少し |
2000.8.7
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作者のHP http://homepage1.nifty.com/yakousei/
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熱 風 -Sirocco-
ひろゆき
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空き缶に
耳を当てる
轟々と
風の音
それはたぶん砂漠の
埋もれかけた石柱の
横を通り過ぎていく熱風(シロッコ)
青をぐしゃりと握り潰し
ぼくはまた
雑踏へと紛れ込む
熱中症気味の
現実っていう幻を
目撃するために
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2000.8.6 |
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鏡 |
nonya
6本目の指が
映っていないじゃないか
いつもその指で
現実と幻想の結び目を
引き寄せているのに
鎖骨のあたりの鰓が
映っていないじゃないか
いつもその鰓で
言葉にならないガラクタを
呼吸しているのに
いい気になっているんじゃないのか
おまえの映すものは
いつも
あまりにも綺麗に
歪みすぎている
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2000.8.2 |
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作者のHPアドレス http://www.interq.or.jp/rock/nonya/
Mailアドレス nonya@rock.interq.or.jp
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雲
彰
雲は大空を自由に渡る
ゆっくりと風に乗り
雄大な雲の澪(みを)をつくる
何処まで続いているのだろう
何を見てきたのだろう
雲は
ときに
陽の光を浴びて輝き
ときに
憂鬱そうに その姿を
灰色に変え
涙を流す
そして ときに
幼子に夢を与える
雲間に見せる
眩しい青空は 人の世の
一瞬のやすらぎに似て
1つひとつの雲は
それぞれに 個性を宿し
生まれ 輝き 消えていく
まるで人の生涯のようだ
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ひとり
彰
途切れた 言葉を
胸の奥で 繋げた
震える 寂しさに
指で辿る あなたの鼓動
風の音が消した
小さな ジェラシー
隠すことも できずに
投げた 言葉が
愛を 壊した
愚かな 過ちを
思う たびに
泣きだす心
ひとりすがる
愛の まぼろし
あのときの
華やかな 恋物語
あなたがいた……
碧い炎
吹き消すように
投げた 言葉が
愛を 壊した
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海
彰
懐かしいね
どうしてだろう
今、僕は波の音を聞いている
・・・・・・
あたり一面に満たされている
波の音に包まれている
という感じだろうか
打ち寄せる白い波と
白金の砂たちは
一期一会を繰り返しながら
何を語り合っているのだろう
この地球(ほし)の未来のこと
遠い海のこと
海は いつも僕らを
あたたかく迎え
癒し
エネルギーを与えてくれる
そこにあるのは
無限の愛
与えつづける愛
そして
深く輝く 母なる愛
海は僕らに
何を伝えようとしているのだろう
僕は、この海のために
何ができるだろう
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Beautiful Harmony
彰
この地球(ほし)を彩るいくつもの愛の歌
それは 遠く大和の時代から
横笛の音が 愛を伝え
笙の音色は 心の傷を癒し
竹林(たけばやし)の木漏れ日は
行く手を阻まれ 涙にくれる人の心に
一条の光をおろす
立ち並ぶ摩天楼
隙間から差し込む陽の光
いにしえ人も愛した大空に
寄り添うように
飛行機雲が弧を描き
時間(とき)を繋げていく
美しきハーモニーを奏でながら・・・
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海の記憶
秋乃 陽
昔々、海には全てがありました。全てが海で、生きていました。
それはとても幸せで、穏やかな太古の記憶。
人は海を愛しました。海も人々を愛しました。
そして全ての生物が、自らの母を愛しました。
それはとても愛しく、確かな遥か太古の記憶。
やがて子供達は巣立ち、永い年月をかけて陸へと上がり自らの
足で旅立ちました。
それはとても長い旅、気の遠くなるような時間のなかで。
そして人は姿を変え、他の生き物も姿を変え、今、海から離れて
生きています。
寄せては返す水音に、時折母を想いつつ…
海は生き物です。すべての母です。
けれどもいつしか忘れられ、打ち捨てられた女です。
汚す莫れ、乱す莫れ、嘆かせ給うな、我らが母を。
時に厳しく、時に優しい、我らが母を。我らが母を。
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たすく
新芽が吹いた枝を
兄は切る事ができる
乾いたら薪にすると言う
それが兄のやさしさの形
私にはとても真似できないから
せめてもと
僅かな枝だけ拾い集め
水切りして 水揚げした
芽が開いた今朝
兄は
愚鈍な私を笑ってくれた
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冷えた風が予告なく止み
温もりが留まる
不意に訪れた穏かさに
雲雀が飛び立ち
琴線が切れた
内側から緩み出し
全てが捲れ出る
奥の奥までが晒される
前髪から果てを仰ぐと
つい涙
澄んだ空のせいじゃないのに
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傷
彰
・・・傷ついて
傷つきすぎて
もう これ以上 傷つきたくなくて
僕は 自分の心に
壁をつくった
そして
人を愛することに
臆病になった
心を見せることも
できなくなった
でもね
心の傷は
だんだん 癒されていく
「時間」という名の
Angelが
心に 魔法をかけるんだ
魔法が解けそうになると
心は
がんばるんだ
必死にもがくんだ
闘うんだ
どうにかしよう、、、って
生きていくのがきついからね
苦しいと、、、
すごいね
君の力は
でもね
傷跡は消えないんだ
傷ついたことが
無駄にならないように、、、、
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高速道路
秋乃 陽
走り抜け 追いつ追われつ
やがて
淀む河
視線の先 続くテールランプ
どこまでも ただ記憶を追って
眠ったまま通りすぎていた
あの日
停滞の夜
今は この夜が白む迄
ステレオの流れに 耳傾けて
あの時の 「ごめん」の意味だとか
哀しげな笑顔の心細さだとか
震えていたその指先の記憶も
全部 この流れの中に乗せて
今はただ
走り出す永遠を片手に
思いの果てへ
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自転車
下社裕基
ゆっくりと
夕方が下りてくる
わたしたちの一日に
わたしたちの家に
だれも
あらそったりしてはいけない
生徒も 先生も
ただ まな板の音がして
ルウの溶ける匂いがして
道も
あらそってはいけない
刈りこんだ草や
高慢な人と
坂道をころがる
自転車も
ただしずかに
下りてこなきゃいけない
わたしたちのまわりに
詩が
このように
下りてきてくれたら・・・・
湖をたたえた
わたしたちの日々の瞳のうえにも
毎日が しずかに
暮れていきますように
わたしたちが子どもだった日の
ながい夕方のように
ゆっくりと
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