第210回: ラムネ☆天色堂「受付の女たち」公演(中野 劇場MOMO)

少し前の話になります。去る3月9日(金)、標記の公演を見に行ってきました。初めて見る劇団ですし、もちろん新作ですからくわしい内容もわかりません。感想は見てのお楽しみ、という気楽さで出向いたのですが、かなり楽しめました。まずはスタッフとキャストのご紹介からはじめましょう。

スタッフ
 ●作 中野俊成(ハラホロシャングリラ)
 ●演出 伊東由美子(劇団離風霊船)
 ●舞台監督 飯塚幸之介 小松由理子
 ●音響 松本昭(音スタ)
 ●照明 山浦恵美

キャスト
 日沖和嘉子(古川) 渡辺順子(新山) 神之田里香(真嶋) 
 林竜三(吉田)  松本たけひろ(寺田)
 酒井和哉(沢村) 亀田真二郎(飯島) 浅井伸治(藤堂)
 江藤亜耶(金井) 辻良江(黒川) 
 多賀友紀(鶴岡) 磯見麦子(大平) 鍋谷ナナオ(嶋中)
 橋本直樹(谷課長船)  江頭一晃(島崎) 
 渡辺由美(掃除婦)  伊東由美子(中山部長) 

幕が開くと、そこはある会社の受付ロビーです。受付嬢が二人、朝の会話をしています。やがてそのうちの一人が、みんな受付嬢をなんだとおもっているんだろう、今日は電話を取らない、ため口をきくといった反逆をしようと言い出すのです。

この受付嬢に限らず、この芝居では、会社の何人かの人たちがあることを体験して、ささやかな「反逆」をしようと思い立ち実行してきたのでした。その「反逆」の連鎖を、現在から古い方へ逆に並べて見せ、さいごにまた現在(いま)へ戻ってくるという仕組をこしらえて、私たちの前に提示していました。

「反逆」の数々を大雑把にいうと、次のようなものでした。

受付嬢新山が反逆を思いついたのは1週間(2週間だったかな?)ほど前のこと、落としたコンタクトレンズを見つけた同僚吉田がすぐに差し出さずに、ちょっと新山を困らせました。抗議する新山に向かって、吉田は2週間(1週間だったかな)ほど前のあるできごとが引き金になって、反逆をしようと思いついたというのです。その反逆がたまたま新山を困らせる結果となったのです。

吉田の場合は、思いを寄せている真嶋に自分の写真をプレゼントした(!)のですが、受け入れられませんでした。これが吉田にとっての引き金でした。真嶋は、社内の男性社員にモテまくっていますが、「みんなお友達〜」などととぼけたことを言います。さいごには真嶋に好意をもっていた男性社員が愛想をつかして去っていくのですが、これは真嶋の反逆。引き金は約1ヵ月ほど前のこと。

新山の前の仕事を知る真嶋は、古川にせがまれて、誰にも言わない約束で「テレビ体操のお姉さん」と教えましたが、古川は黙っていられませんでした。新山に好意をもつ男性社員に、あろうことか「AV女優」と嘘を教えてしまいます。これは古川の反逆(ここまでするか、と思いつつも芝居の誇張ですからね。やっぱり、ありなのでしょう)でした。引き金は1週間(2週間だったかな)ほど前。

ロビーに異臭が漂っています。プロの受付嬢古山にして我慢ができないほどです。何人かの社員が通りがかり、この臭さの真犯人はだれかと探り始めます。古川も疑われたと思い、その疑惑を消し去ることに一生懸命になりました。原因はロビーのソファーの裏側に置かれた腐った卵と判明。真犯人は掃除婦のおばさんでした。社員がごみの分別に非協力的なことに腹を立てて、一度懲らしめてやろうと思ったと言うのです。その引き金になったのは2週間(1週間だったかな)ほど前のこと。

午後の仕事に大平(だったと思う)が遅刻し、同期の女性社員ともども(!?)中山部長からしぼられます。ロビーでやや会話があったのち、帰宅しようとした大平は昼休みに買った大量のたまご(「半額」だったという!)を忘れ、オフィスに取りに戻りロビーに現れます。そこで再度部長と鉢合わせし、午後の会議に遅れたホントの理由がわかって、またしてもてんやわんや。そのやりとりを聞いていた掃除婦のおばさんが「半額」を「反逆」と聴き間違え、よしやるぞ、と決心したのでした。日頃から、先ほど触れた不満をもっていましたから。

さあ、こうした「反逆」の連鎖が提示されて、ふたたび現在に舞台は戻ってきました。二人の受付嬢は、反逆の必要性をみとめ、社員が出勤してくるこれからの時刻に会社のシャッターを降ろし、電話のコードを抜く、といったことまで申し合わせるのでした。

さて、ホントにできたと思いますか??

受付嬢の3人をはじめ、登場人物たちの反逆には、実社会ではちょっと想定しづらいものも含まれていました。たとえば、新山の前の仕事が「テレビ体操のお姉さん」なのに、それを「AV女優」に変えて教えてしまうような例がそれです。腐ったたまごをロビーのソファにしかけて異臭をはなつような“復讐”めいた反逆も同様ではないでしょうか。ただ、多少デフォルメされているにせよ、すごくもてる人に嫉妬したり、非協力的な社員の態度に業を煮やし実力行使に出るなどの心理としてはわかります。

こうした反逆を実行したあと、社員ひとりひとりの中で何かが変わったようなのですが、舞台を通じてそれが伝わってきたかというと、少なくても私にはわかりづらかったです。それだけ、その都度の反逆が面白く描かれていた証拠でもあるのですが。

この芝居では、受付嬢がもちろん重要な役なのですが、もう一人、谷課長がある時はセクハラ上司として、またある時は若手社員の先輩として入り組んだ男女関係の調整役として、あちこちの場面に登場してくるのですが、軽さを明るさをともなった力演に、知らず知らずのうちに引き込まれていきました。もし今回の公演で印象に残る役者さんを一人上げろと言われたら、私は迷わず谷課長に1票を投じます。受付嬢の3人は、容姿も性格もみなさんそれぞれで、役のうえでも違いが設定されているのですが、みなさん、とても役にはまっていたように思います。

将来、再演なんてことがあってもよいかなと思いました。
【2007年3月18日】



トップページへ
コーヒーブレイクへ
前のページへ
次のページへ