第194回 : 北九州芸術劇場《ルル》公演(世田谷パブリックシアター)


アルバン・ベルクのオペラで有名なこの作品が、演劇で見られることを知ったのは2〜3ヵ月前のこと。わくわくしながら4月16日(土)の昼公演に行ってきましたが、その期待にたがわないステージを見せてもらえました。

主なスタッフ
  原作:フランク・ヴェデキント(ルル二部作『地霊』『パンドラの箱』)
  構成・演出:白井晃
  脚本:能祖将夫
  音楽・映像=nido[古谷建志、上杉俊祐、吉川寛、武田真治]
  美術:松井るみ

キャスト
  秋山奈津子(ルル)
  古谷一行(シェーン/ジャック)
  根岸季衣(ゲシュヴィッツ)
  浅野和之(ジゴルヒ)
  増沢望(アルヴァ)
  みのすけ(シュヴァルツ/看守/マゲローニ/ヒルティ博士(ルルの客))
  石橋祐(ロドリーゴ/クング・ボディ(ルルの客))
  岸博之(エスツェルニー/看守/カスティ・ピアーニ)
  小田豊(ゴル/フェルディナント/プントシュー/フニダイ氏(ルルの客))
  まるの保(フーゲンベルク/舞台監督/ボーイ)

全2幕からなるステージは、第1幕はプロローグと4つの場それに各場のあいだには3つのイメージという場面が、第2幕は3つの場と3つのイメージ、それにエピローグという構成になっていました。イメージというネーミングのステージを挟むことによって、芝居の流れがとぎれることなく、見ている側の緊張も切れることがなかったように思います。

ステージを見ていると、ルルは自分の環境のごく自然な流れに身を置いているだけなのに、いろいろなことが起こってしまうことがわかります。たとえばゴルの心臓発作やシュヴァルツの自死、さらにはシェーンを撃ち殺してしまうことやその後の逃避行などです。これまでに見たオペラでも、たしかに大筋は同じなのですが、見る側がルルに対して抱ける共感の度合いは、今回の演劇の方がはるかに勝っていました。

ルルを演じた秋山奈津子は、すらりとした美人で、顔もアップの写真で見るかぎり、きりっとした印象を受けます。でも若くてチャーミングな声の持ち主で、ルルを演じるには適役の方でした。古谷一行、根岸季衣といったTVでもお馴染みのお二人も重要な役でした。シェーンと切り裂きジャックの二役はお定まりのかたちなのでしょうが、ステージのラストで演じてみせた切り裂きジャックの演技には魅了されました。ここは、ジャックがルルを一刺しして殺したのちに、女性の性器の箇所を何度もめった刺しにして、そこを切り取り、さいごに「ひと仕事だった」とつぶやく場面です。ちなみにオペラでも3幕版にはこのシーンがあるのですが、ここまで丁寧には演じられません。ルルが迎えた残虐な死に様も、考えてみるとルルに対する共感を増すようにできていると思われるのですがいかがでしょうか。それから、先日新国立劇場で上演されたベルクのオペラ《ルル》(2幕版)では、ルルとゲシュヴィッツがキスを交わすシーンがありましたけれど、根岸季衣のゲシュヴィッツは、ルルに対する片思いに終始していました。その切なさがよく出ている舞台で、ゲシュヴィッツにも多少の同情をもってしまいましたね。

将来、演劇で再演されるとしたら、また見たい演目。それにつけても、岩波文庫のヴェデキントによるルル二部作(『地霊』『パンドラの箱』)を復刊してくれるといいなと思うのは、きっと私ひとりではないと思うのですが、岩波さん、なんとかなりませんか?
【2005年4月21日】


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