第193回:花粉症2005〜その2(2005年4月15日)

さいきん、飲み屋さんで交わす会話が「もう少しの我慢ですね。がんばりましょう」といった内容に変わってきました(笑)。ほんとうに、もう少しの我慢であってくれればいいと切に願う今日この頃です。

さて、気象情報とか天気予報がマス・メディアで提供されますが、花粉症に関してはこの時期、きわめて大ざっぱに花粉の飛散ランクが予測されるにとどまっています。飛散ランクとは、たとえば「やや多い」とか「非常に多い」とかいう表現で表されますが、それは1日につき1平方cmにいくつ花粉が見出せるかによるわけで、次のとおりです。

0〜10個  少ない
11〜29個 やや多い
30〜49個 多い
50個以上  非常に多い

観測地は全国各地にわたっていますが、その数値を提供している多くは花粉観測組織のボランティアの方々(もちろん専門家ですが)。たとえばNPOである花粉情報協会のサイト「花粉いんふぉ」を見ると、そのように書いてあります。ついつい気象庁だと思ってしまうかもしれませんが、そうではなかったのですね。さらに気になる文章があるではないですか! それは、16年間このボランティア組織が花粉情報を出してきたのですが、ボランティアでは花粉予報の精度向上は望めず花粉予報自身もいつなくなるか分からない状態になりました、と書いてあるのです。資金的にも厳しい状況がうかがえます・・・。

マス・メディアが伝える花粉情報って、どこか大ざっぱで工夫が足りないと思っていましたが、ボランティア組織に頼った観測結果を上のランク分けに当てはめて伝えるだけだとしたら、それも頷けます。たとえばシーズンの最盛期を迎えると頻繁に聞かれるようになる「非常に多い」と、それに対する対策などマス・メディアでは無為無策といっても過言ではないと私は考えています。「非常に多い」というのは、上記のランク分けに従えば、51個でも100個でも500個でも1000個でも、その上限に関係なく「非常に多い」とくくられてしまいます。51個のときと500個のときでは、少なくとも医学的に望まれる対策は異なってくるはずなのです。

私がよくチェックするサイトに「慈恵医大耳鼻科の花粉症のページ」と東京都福祉保健局が作っている「東京都のスギ・ヒノキ花粉情報」の2つがありますが、後者によれば、今年3月に東京都11ヵ所の観測ポイントで数えられた花粉のうち、多摩地区では「1914.3」(3月18〜21日)、「1597.2」(3月29日)、「1516.5」(3月18〜21日)といった例が挙げられますし、都内に目を移して杉並区をみると「1166.7」(4月7日)、「488.6」(3月30日)、「421.9」(3月9日)、「408.6」(3月17日)などといった例が見出せるのです。一方、前者には「2005年花粉飛散の傾向と対策」というコンテンツがあり、その「1」の中に“十分な対策を講じていても、花粉飛散最盛期には症状の悪化が起こり得ます。その際には多剤の併用や、より花粉回避の徹底が必要です。特に500個/cm2/日を超えるような飛散日には、有休を取って室内にこもっていることが勧められます”とあるほどです。「非常に多い」という表現でくくられるなかには、薬を飲んだりマスクを携帯したりしてなんとか凌げる程度から、医学的見地からいえば有給休暇をとってでも家にじっとしていたほうが健康のためという程度までさまざまなわけですから、マス・メディアはこのあたりをもっと真摯に受け止めて、伝え方を工夫すべきではないでしょうか。

しかし、正直な感想を言ってしまえば、マス・メディアにはそう多くを期待するのは無理なのではないか、と思ってしまうときがあるのです。もちろん、特集番組を組んだり、番組の中で特集コーナーを組んだりすることもあり、それなりに役立つときもあるのですが、反対に今シーズンは朝の通勤途上ポケットラジオで聞いていた番組で、こんなやりとりがあってがっかりさせられました。

TBSラジオの平日朝の番組に「森本毅郎スタンバイ」という人気番組があります。そのなかで毎朝8時からは「日本全国8時です」というコーナーが用意されていて、日替わりのゲストが司会者とトークをしさまざまなトピックを提供してくれます。全国ネットになりますから、ご存じの方も多いかと思います。今シーズン、水曜日に登場する気象予報士の森田正光さんが拙HPでも触れた「花粉温度計」についてお話になったことがありました。しかし、今シーズンに限って言えば、目安となる400℃になっても一向に花粉が飛散する兆しがありませんでした。そこで、司会の森本毅郎さんは、そもそも400℃説そのものが根拠のないものではないのか、と突っ込んだのでした。森本さんは花粉症を患っていらっしゃいませんので、ついこのような発言が出てしまったのでしょう。生番組で個性豊かな森田さんという気象予報士を相手に、丁々発止とやりあわなければならないこともありますから、私はこのときは苦笑いして済ませました。もちろん、森田さんからはきちんとした理由の説明があり、森本さんも納得されていたと記憶します。ところが、それから1ヵ月ほど経過し、ふとしたことから再び「花粉温度計」の話が登場したのです。すると森本さんはまたしても、そもそも400℃説そのものが根拠のないものではないのか、と宣ったのです。今度は、聞いていた私が不愉快な思いにさせられました。花粉温度計の目安は、過去においては通用していたのですから、「そもそも」「400℃」説に根拠がないなどと疑うことはできないのです。将来、気候や気象がなんらかの変化をしたとしたら、今のまま通用するのだろうか、というのなら話としてわかるのですが、これは「そもそも」などということとは違います! 森本さんご自身は、ゲストの話をその場で聞き、そこで冷静な分析を加えたつもりだったのでしょうが、厳しい物言いになりますが、2度までも同じ過ちを公共の電波で言われたのではたまったものではありません。最早、スギ・ヒノキ花粉症は、社会的な規模の広がりをもっているのですから、たとえご本人がこの病気に無縁であったにせよ公害に準じるくらいの気持ちで、花粉症について、もう少し勉強してほしいものです。マス・メディアで流される飛散ランクをいうだけの花粉情報とひとりひとりがかかっている医師のアドヴァイス、それに先にご紹介したような信頼のおけるインターネットのサイトをうまく組み合わせて自衛策を講じることが、マス・メディアのちょっとしたコーナーでおもしろ可笑しく料理されてしまう内容を盲信してしまうよりも、よほど安心だと思えるのです。

ただ、こうした個人的な努力の積み重ねもたしかに大切なことにはちがいありませんが、32〜33年、花粉症と付き合ってきている私には、なぜスギの気を大量に切って処分してこなかったのか不思議でなりません。こんなことを言えば、たとえば防災林として役立っているとか、スギの木で生活を立てている方々もいらっしゃるのだよ、と叱られてしまいそうな気もします。しかし、そうはいっても東京都を例にとっていえば5人にひとりが罹る病気です。20%の人たちは、医師のもとに通い、グッヅを購入し、花粉情報に一喜一憂しながらこのシーズンを送ります。もちろん、はなはだしく症状が酷い場合は職場を休む場合もあるでしょう(一方、病気と無縁の皆さんは、この時期それこそ忙しい思いをしているわけですよね)。言っておきますが、花粉症に罹ったことを喜んでいる人はいないはずです。こうした現象が引き起こされている以上、公害という呼び方がふさわしいとまでは言い切れませんが、実質は公害のような働きをスギ花粉が引き起こしている現実を直視して、対応策を練ることが求められます。

というわけで、切れるところからスギの木をバッサリ切る。それも少しではなく、できるだけドカッといきたいところです。代わりの木を植えなきゃと言う声も聞こえてきそうですが、ともかく何か1種類の木に片寄るような植え方はやめたらどうなんでしょうか。こうしたことを公言するのはどこか品がないと思われるのか、あまり突っ込んだ話を聞いたことはありません。

スギで生計を立てている業界があるとすれば、それは難しいと言われるかもしれないですね。でも、かつて公害を出した企業は、やはり頬被りできなくなっていきました。いまから観念して、スギだけでなく、他の木材で商いをすることに手を付けたらいいのではないでしょうか。それに、こうした業界があるとすれば、花粉飛散情報を提供しているボランティア組織に資金的なサポートをするなど、やるべきことがあるはずです(それとも、そうした業界からはすでに多額のサポートが出ているのを私が知らないだけだとしたら、ぜひ具体的にご教示いただきたいです)。

花粉症との付き合い方は、個人的な努力の積み重ねで対処することだけでなく、スギの木じたいを減らしていく方向性を併せもっていくようにしたいものです。



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