第184回:森美術館の感想(2004年7月22日)

去る7月10日、私は初めて森美術館へ行きました。同館は昨年の春にオープンした六本木ヒルズの52階と53階に位置し、今年の春に開館したのです。外国人の館長を擁し、開館時間も火曜日だけ10:00〜17:00で、月・水・木・日が10:00〜22:00、金・土と祝日の前日ともなると10:00〜24:00までオープンしていることでも注目を集めています。もう少し言うと、六本木は、ここ数年のうちにサントリー美術館が移設してきますし、防衛庁の跡地に新しい国立の美術館が建設される予定もあり、一大美術館エリアとなる日も近いのです。

さて私が同館を訪れたのは、夕方のことでした。大江戸線の六本木駅で下車して件のビルに向かって歩き始めたところ雨が降り出し、すぐにどしゃ降りになりました。はじめていくビルでしたから、きょろきょろしながらやっとたどり着き、人の流れに沿って(少なくとも本人はそのつもりでした)ビルの中に入りました。今回の話は、ここから始まります。

■1■六本木ヒルズでは、まめにスタッフに質問しよう
私は、まず52階と53階に行くエレベーターを探しました。でも、みつからなかったんです。スタッフをみつけて行き方を尋ね、ようやくそのビルから少し離れた入口にたどりつきました。おっと、いま入口と書きましたが、実は美術館への入口はそこから階段をひとつ上がった階にあったのです。雨宿りしている人たちが大勢いて、そこでエレベーターを待てばいいのか思ったら違いました。それも、ちょっとヘンだなと勘が働いて、そばにいたスタッフに尋ねて事なきを得たのです。私は普段、百貨店や公共の施設などでは、できるだけ案内用のプレートをみつけて目的地へ行くように心がけているのですが、六本木ヒルズでは、よほどインターネットなどで予習していかない限り、それも難しいと感じました。けっこう時間の無駄を余儀なくされますので、疑問はスタッフを探してすぐに質問といきましょう!!

■2■手荷物検査がありました
階段を上がったところは3階でした。私は前売券を買っていたわけではないので、ここで入場券を買いました。展望台などの入場券もここです。美術館にしても複数の展覧会を同時開催できるようになっている(事実、そうしていました)ため、どの展覧会を見るか、展望台と組み合わせるか否かを告げるのです。大きな荷物や長い傘をもっている人たちは、この階にあるロッカールームに預けるように言われているようでした。私は折りたたみ傘だったのですが、一番短くたたむよう指示を受けました。もちろん、理由のあることです。さて、エレベーターに乗るにはゲートを通過しなければなりません。なんとそこで手荷物検査を受けました。2001年の秋(ニューヨークで9・11テロがあった年)、ある展覧会で手荷物検査を受けたことがありましたが、そのときは事件が起こってからさほど時間が経っていませんでしたから、それなりに納得しました。まあ、いまでもたしかにテロなどの犯罪の危険を考慮しておく必要があるとの判断なのでしょう。これから行かれる皆さん、一応知っておいたほうが嫌な気分にならずに済むでしょう。

■3■目的の展覧会はどちらの階か?
できれば事前に押さえて行きたいところです。他の美術館では1階から入り2階に上がるところだってありますからね、この美術館に初めて行った私は、「モダンってなに? MoMA展」を52階と53階のどちらでやっているのか、ぜんぜん自覚なしにでかけたのです。そして、52階でエレベーターを降りた私は、視界に入る会場の入口に一目散に歩いていったのです。美術館スタッフから奥の方を指し示されたのです。おそらく、その上の階ということまで言ったのかもしれませんが、語尾まではよく聞こえず、振り返った方向にあった別の入口へ行き、入場券を示したのでした。ここでやっと、私が見たい企画展がこの階ではなく、53階でやっていることがハッキリわかりました。やれやれ。もっとわかるように表示ができないものでしょうか?

■4■傘袋も用意していないなんて、あまりにケチだ!!
53階へはエスカレーターを使いました。その折、スタッフから折りたたみ傘を「できればバッグの中に入れてください」と言われて、さすがにカチンときました。傘を美術館の会場にもちこむなという意味は、よくわかります。そして、そのスタッフはひょっとすると外が雨だと知らずに、私がもっていたのは乾いた傘だと勘違いした可能性もあります。しかし、実際には表はどしゃ降りで塗れた傘を手にしていたわけですから、こう言われたときには「それを言うなら傘袋かなにかないのか」と聞き返しました。スタッフは「それでしたらクロークに預けてください」と階上を指さしたのです。池袋の某百貨店では、雨が降り出すと店内に《雨に歌えば》のオルゴールを流します。雨が降ってきたぞ、という符帳にしているのです。そして店員さんは、商品を紙袋に入れるだけでは塗れてしまうので、その上からビニール袋をかけることを怠りません。ゲートのある3階では雨が降っているかどうか、すぐわかるわけですから、本来ならばそこで傘袋でも手渡してくれればいいのではないでしょうか。しかし、この美術館では、無神経な言葉を来館者に投げつけることを平気でします。

■5■音声ガイド(1)
いちいちカチンと来ながらも(怒)、やっと入場です。ここまでの段階で、他の美術館では到底味わえないイライラを体験させてもらいましたから、ここからはきっと満足のいく展覧会が楽しめるだろう、と思ったのが甘かった(まだまだ人生勉強が足りないことを痛感しました)。入場してすぐ、音声ガイドを扱っているコーナーがあることに気付きました。500円出してそれを借りて・・・と書くと、多くの美術館で用意している音声ガイドを借りる手続きとなんら変わりがないようにお考えになるかもしれませんね。それが大違いなのです。まず「音声ガイド貸出カード」なるものに、名前、電話番号、住所を書かされます。面倒でした。くわえて、それを証明するものの提示を求められました。誤解を招かぬようもう少し具体的にいうと、“ご本人と確認できる写真つきか、または名前・住所等の記載のある身分証明書を御提示ください”と件のカードの注意書きにありました。グッとこらえて文句は言いませんでしたけれど、こんなの初めてです。まだいらっしゃっていない方は、準備していった方がいいですよ。本人記入のカードは、展覧会を見終わって機器を返却するときに返してくれます。でも「ご不要ならば、当方で処理します」なんて一言もつきます。どんな処理方法をとるのか、そばについて見ているわけではありませんし、大切な個人情報を記したカードなのですから、私としては相手方からしっかり返してもらって自分で処理する方法を強くお奨めします。

■6■音声ガイド(2)
なんでこんなことをするのかというと、ここで使用する音声ガイドは他の美術館とは異なり、「iPod」なるマックの小型機器だからだと想像します。私は初めてじっくり見たのですが、これってAppleが売り出したMP3音楽プレーヤーとして名を馳せたモノですね。名刺サイズ程度で180gの小型軽量、さいきんはWindows版も市場に出回るようになり、容量40MBのものも提供されています。名刺をタテにもったと思ってください(当然、厚みはもっとありますけれど)。上半分は文字が出てくるディスプレイで、下半分にはマルが2つ。外側はクイックホイールと呼ばれるらしく、ファイルを選択するときに指先を軽く当てて動かします。そして内側の決定ボタンを押して確定します。この機器は評判が高く、美術館から持ちだされては困るという判断が加わったのはないかと想像します。しかし、このクイックホイールの操作性は、不慣れだと結構使いづらかったです。

森美術館で私が借りたiPod は、ディスプレイの文字が極端にうすく、とても読みづらいのです。あとで知人に話したら、美術館ってふつうの建物よりも暗くしているのではないか。映画館などで携帯電話を開く人がいるけれど、とてもまぶしくて周りが迷惑するという意味のことを言っていました。しかし、それも当て嵌まりません。なぜなら、会場はそんなに暗いわけではなかったからです。電池が弱くなっているのかもしれませんが、それならばきちんとチャージをするなり、ディスプレイの文字をもっと濃く表示できるように設定しておくかしてほしいものです。それと、ケースがないので手でもって回らなければならないのもいただけませんでした。前項で紹介した「音声ガイド貸出カード」には、iPod ケースの貸与の有無が項目として用意されているではないですか。私はその説明を聞いた覚えがないんですよね。もしかすると、言われた場合だけ貸しだそうという姿勢かもしれません(想像が正しいかどうかはわかりませんけれど)から、堂々とケースを貸してくれと主張しましょう。首からかけられるようにでもなれば、うんと楽です。手には、主な展示作品のリストや六本木ヒルズの各階ごとのテナントリストなどをもっていることもあり、長時間持って歩くのはやはり面倒です。だいたい、ちょっと手に力が入ったりすると、音声が出ていたファイルが止まってしまって、もう一度聞き直すしかないみたいなのですよね。ディスプレイの色のうすさ(すなわち文字の読みづらさ)といい、ケースの貸与を自動的にしてくれないことといい、来館者に対するサービスがケチくさく感じられてなりません。

そして最悪なのは、朗読です。朗読者には本当に悪いと思いますけれど、これだけぎこちない朗読の音声ガイドは聞いたことがありません。たしかに、録音してある点数は他館と比べて多いと思われます。でも、ぎこちない朗読は聞く気をそぎます。何の解説だったか忘れてしまいましたが、朗読をすすめていってちょっとつっかえてしまったと思ったら、少し前に戻って読み直しているファイルがありました。さすがにこれを聞かされたときは、笑顔は凍てつき、こういうときは録り直すものだろう!! と怒りを覚えました。

■7■作品のそばのプレート
作品が展示されている場所には、地がグレーの板の箇所がありました。そこに展示されている作品は、そのそばに作品にかんする基本情報を記したプレートの色までグレーで統一されています。担当スタッフの趣味というか考え方が反映されているのかもしれません。でも、これは美術館側の自己満足だと考えます。作品のタイトルは太い文字で白っぽく抜いた文字で印字されています。それ以外の情報は、薄いグレーなのです。つまりグレーのグラデュエーションで処理しようという姿勢なのでしょうね。読みづらかったですよ。私の個人情報の一部を公開しますが、私は裸眼で右が1.0、左が1.5です。まあ、齢50を越していますから乱視なども交じっているらしく、人並みに文字がかすんで見えることもありますが、年齢の割には比較的よく見えている方だと思います。その私が、グレーのプレートに書かれた作品の基本情報を読むには身体が前のめりになり、気がつくと、ここから入るなという線の内側に入り込んでいることもありました。たまたま私は注意を受けませんでしたが、ここはスタッフがけっこう神経質なくらい白線の内側に入り込まないか見ているわけですから、来館者に筋の通ったサービスを提供しているようには思えません。できれば、作品の情報を伝える文字は、もう少し大きくてもいいくらいでしょう。次回からはプレートの地の色は白、文字は黒で統一して欲しいものです。

以上の感想が多くの皆さんのそれと異なり、私一人のものならば実現しなくても仕方ありません。でも、そうとは思えないのですよねえ。現代美術を見られる美術館をという志をもって始めた運営らしいですから、それが本当ならば、来館者に対するサービス全体を虚心坦懐に見直してほしいと考えます。


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