第182回:Into the Woods(新国立劇場中劇場)

久しぶりにミュージカルを見に行きました。けっこう話題にのぼっている作品らしく、雑誌『シアターガイド』2004年7月号でも大きく取り上げられています。あのSAYAKAさんが初舞台に挑戦するという興味も手伝って、6月12日(土)の午後、ひょこひょこ出かけていったのでした。まずは、主なスタッフとキャストからご紹介しましょう。

作曲・作詞 スティーヴン・ソンドハイム
台本    
ジェイムズ・ラパイン
演出・振付 
宮本亜門
【キャスト】

ナレーター、謎の男 
鈴木慎平
シンデレラ 
シルヴィア・グラブ
ジャック  
上山竜司
パン屋   
小堺一機
パン屋の妻 
高畑淳子
赤ずきんちゃん 
SAYAKA
魔女    
諏訪マリー
ジャックの母 
藤田弓子
シンデレラの母、巨人、おばあちゃん 
荒井洸子
シンデレラの王子、狼 
藤本隆宏
ラプンツェル 
吉岡小鼓音
ラプンツェルの王子、御者 
広田勇二
●オーケストラ/指揮 
西野淳


舞台は、客席の1列目から9列目を全部外して森の舞台にしつらえてありました。オーケストラは地下に陣取り、指揮者は客席よりの舞台中央にぽっかりとあいた四角い穴から顔が出るくらいの位置にいました。その左右に蓋が(といっても格子状の隙間があいています)かぶせられて、オーケストラの音がこもってしまわないように工夫されていました。開演直前、私は若い男性が四角い穴から顔を出しているのを認め、開演の合図をするスタッフがそこにいるかと思ったほどでした。そしたら、地下に譜面代が見えて、この人ひょっとして指揮者かな? と考え直したのでした(笑)。

こうしてオーケストラが鳴り出し第1幕がスタートしました。出演者が次々に歌い出します。「お願い」という歌詞が、何度も聴き取れます。そう、グリム童話の主人公たちは、それぞれに実現したい夢をもっているからです。城の舞踏会に行きたいシンデレラ、子どもがほしいパン屋夫婦、わけあってその夫婦に呪いをかけたという魔女、いやいやながらミルキーホワイトの牛を手放すことになったジャック、食い意地が張ってちょっとわがままだけど狼に自分の棲家を教えてしまう脇の甘さをもった赤ずきんちゃんなどが登場し、それぞれの望みをかなえようと、森の中を舞台に、それぞれ一生懸命になります。ストーリーがごちゃごちゃになるのではないかと心配する必要はありません。狂言回しのナレーターが登場して、物語をわかりやすくしてくれるからです。

テンポの良さにひきずられていきそうになりましたが、見ていくと、それぞれ実現したい夢があって、登場人物どうしが交渉し、ときには「嘘」の交じったやりとりをしながら、物語が展開していきます。まあ、どこかの国の国会議員の嘘から比べればささやかなものに違いありませんが、そうはいっても「なぜ?」という思いは残りました。1幕も終わるころになると、各自自分の欲しいものをゲット。ジャックなど、巨人の国に届く豆の木を上っていって、巨人の国からモノを盗ってくるは、豆の木を切り倒して、結果巨人を死なせてしまうは、ということまでやってのけます。しかし、第1幕全体を通してみれば、そこはハッピーエンド。気の早い人は、やれやれ、これで幸せ気分に浸って帰ろうか、と思われるかもしれません。帰っちゃダメですよー!

第2幕は欲望が満たされたはずの登場人物たちのその後と、夫を殺された巨人の妻の復習が軸になって、ストーリーがすすんでいきます。とても、テンポよくコトが運ぶという具合には行きません。ま、いろいろ起こり、登場人物の何割かは死んでしまいます。このあたりは、実際に観る方の楽しみを奪ってもいけないので、さほど詳しく書けない気がしますね。でも欲望(上品にいえば夢)の実現のさせ方について考えさせられました。まして、その過程で誰かを傷つけることがあったりすれば、思わぬしっぺ返しをくらうもの。たとえ、その相手が、価値観がことなったり、ふだん交流する機会がない縁遠い存在だったとしてもです。このあたりの感想は、観る人によって異なる場合があるでしょうけれど。

実力派の俳優が多く出演している公演ですが、SAYAKAさんの赤ずきんちゃんは面白かったです(私だけでなく、会場全体で受けていました)。これを観るだけでも、かなりの価値があると思いました。このミュージカルは6月26日(土)までやっています(ただし22日の火曜日は休演)。全2幕、休憩を含めておよそ3時間という時間が短く感じられるのではないでしょうか。
【2004年6月16日】


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