第177回 : ラッパ屋『裸でスキップ』公演(2004年1月4日)

今年の拙ホームページは、観劇の感想から始めることにします。新宿のシアタートップスで幕を開けた、ラッパ屋『裸でスキップ』(作・演出:鈴木聡)の公演初日(3日)に行ってきました。見に行った理由は簡単なことです。タイトルが刺激的で面白そうだったからです。内容がどんなものかは、見てみないことには全然わからなかったのですが、いつも有名なを選んで、あらかじめ内容をチェックしていけるものばかりではつまらないですからね。

さて、本題に入る前にお断りがあります。会場で配られたチラシ類に混じって、作・演出の鈴木聡さんのエッセイを綴ったペーパーがありました。その裏面にはキャストなどが載っていたような気がするのですが、残念なことにそれを落としてきてしまいました(大粒の涙)。というわけで、主なキャストについて俳優さんの名前はお知らせできるのですが、なんと役名と一致させることができないのです。スミマセン m(__)m

私は1年に2〜3回くらいしか芝居を見に行くことはありません。さいきん、もっと多く見られたらいいなと思うようにはなりましたが、「思う」ことと「実行する」こととは別物・・・。で、ラッパ屋という演劇集団の芝居を見たのも、5年半ほど前に同じ会場で行なわれた『阿呆浪士』に続いて2回めです。もっとも、これはラッパ屋さんの方にも多少の責任はあって、今回の公演は実に2年半ぶりとなるらしいのですね。

全1幕で4つの場に区切られていますが、約2時間ぶっ通しで演じられます。ときは現在、所は東京の下町(江東区のどこか)にある木工家具の製作所の社員寮にある談話室です。4つの場は、春夏秋冬に対応し、5月・8月・11月・2月ころに対応していました。主人公は2人。一人はこの木工家具製作所につとめ、オリジナリティあふれる椅子の製作に心を砕き常に他人と違っている豊かな個性をアピールしたい若い女性(三鴨絵里子)。もう一人は江東区役所で婚姻届や離婚届を受け付けている平凡な男性(木村靖司)。ワキを固める俳優さんは何人もいるのですが、勤続35年で、公民館に収める型の同じ椅子をずーーっと作り続けている職人(おかやまはじめ)と製作所の事務を担当している若手の女性(岩嶋道子)の二人を挙げておきましょう。

春、二人の主人公は知り合います。しかし女主人公は酔っ払って男と知り合ったときの肝心な部分の記憶がありません。そうと知ってがっかりする男・・・。次の場は8月。この二人は何と結婚し、今日まさに新婚旅行先のニューヨークから帰国します。でも、製作所にはたいへんなできごとがもちあがっていました。初めての不渡りを出すかもしれないピンチを迎え、社員一同金策に懸命だったのです。意外な人物が間一髪、その危機を救いました。3つめの場は晩秋。二人の性格の不一致はいかんともしがたいらしく、はやくも別居しています。とはいえ男主人公は女主人公のハードな仕事ぶりや身体を心配し、夜食をつくりにやってきます(けなげです)。平凡を絵に描き、それを大切な人生訓として生きている男の面目躍如といったところでしょうか(見る人によって見解がわかれるとは思いますが)。ここで女主人公が酔っ払って寮に戻ってきます。なんと気障な感じの若い男連れです。当然、一悶着。さいごの場は2月(だと思います)。窓の外は小雪がちらついています。なんと製作所の看板が取り外されます。イマ風のインテリア・ショップを経営するちょっと気障な若手実業家に乗っ取られたのです。この時期、例の男女はすでに離婚してますが、女主人公は製作所を乗っ取った実業家を彼氏としています。しかし、あることを契機に、その二人の価値観にも溝が生まれるのでした。そして、さいごに起こるできごとによって「裸でスキップ」というタイトルの”謎”も解き明かされます。

春夏秋冬と、ある男女の仲の移り変りが相伴って変化し、同時に、昔からある街の小さな製作所が時代の荒波にもまれて、より資本をもったスマートな企業に吸収されていく様が大きな流れとしてはあるのですが、そう単純に処理されていないところがいいです。たとえば、若手実業家の価値観は「勝ち負け」がすべて。女主人公の方は「勝ち負け」以外の価値を見出そうとしているといった違いが、いきいきした言葉のやりとりで客席にとどけられてきます。
約2時間、軽い笑いの連続で過せて楽しかったですよ。

俳優についていえば、特に三鴨絵里子が強烈に印象に残りました。別の俳優とのやりとりの際に、ふと差し挟む台詞、たとえば「今のところ、ちょっと面白い!」とか「あ、なんかいい話になりそうだ」といった台詞を相手に返すのですが、これがとても自然なのですね。まるで、台本に相手の台詞の出だしと終わりの一部が書いてあるだけで、あとはその場で聞いてアドリブで合いの手を入れなさいと指示されているかのごとき自然な受けこたえなのですよ。こういう感じをもったのは初めてで、新鮮な体験をさせてもらいました。ついでに書いちゃいますけど、この俳優の声はえらく強い感じで存在感があります(美声ではないですよ、念のため)。また、ラ行は軽い巻き舌で終始発音して(好感もちましたけど)いたのも、どういうわけか耳に残りました。ちなみに前回見た『阿呆浪士』の時分は渡辺絵里子と名乗っていたのですが、何年か前、芸名を改めたんだそうです。木村靖司は、平凡な人間を好演していました。端正な面持ちの人なのですが、芝居となるとどこかとぼけた味が加わります。おかやまはじめも、相変わらず存在感たっぷりでした。この人も芸名を岡山はじめ改めおかやまはじめとしたのですね。岩嶋道子は、たぶん初めて見た人です。美人系ですね。これからも活躍の場を広げていってほしいものです(そしたら、またどこかで見られるでしょうから・・・)。

公演日時などについては、シアタートップス( http://theatertops.at.infoseek.co.jp/ )のHPで確認してください。また、ラッパ屋( http://homepage3.nifty.com/rappaya/ )のHPでもチケットの「残席情報・直前予約のお知らせ」がありますから、参考にしてください。私自身はといえば、ともかく出かけていっちゃいました。で、ゲットできた席は丸椅子(つまり補助席)だったのですが、そのうち数件のキャンセルが出たとかで(ふつうプレイガイドで買うとキャンセルはできないので、どういうシステムかはわかりませんけれど)、500円足して4500円支払い、そちらの席で見ることができました。いつもこういうことがあるとは限りませんけれどね・・・。あと、会場は、通常155席という小劇場。「*−1」などという席をお持ちの方は、直前に行くと自分の席に着くだけでも、えらく苦労します。少し余裕を持ってでかけるとよいでしょう。スタッフの皆さんがてきぱきと応対している姿も好感が持てました。


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