第160回 : 春風亭小朝独演会2002(2002年12月23日)

12月21日(土)の東京は冷たい雨が降っていました。何も予定がなければ家でごろごろしていたいような日でしたが、私は笑いを求めて、有楽町朝日ホール(有楽町マリオン11階)で行なわれる標記独演会の昼の部、すなわち午後1時からの部を聞きに出かけました。

今回は、演目も小朝さん以外の出演者も、すべて当日発表のお楽しみということで、誰が出てくるのだろうと思ってみていると、トップバッターは神田茜さん。以下、当日は次のような演者と演目が並びました。
神田 茜 (講談)赤穂義士伝「スキスキ金右衛門様」
春風亭 小朝 新聞記事
春風亭 小朝 親子酒
柳家 小せん あくび指南
春風亭 小朝 火焔太鼓
しょっぱなの講談は、「忠臣蔵」に取材して神田茜流にアレンジした話。仇討ちを果たそうとする赤穂義士にとって吉良家の見取り図は、喉から手が出るくらい欲しい代物ですね。それを果たそうと酒屋に扮した金右衛門、大工の棟梁の娘「おてか」に甘言をもちいて、その持ち出しに成功します。この大工の娘は、通常、美人が扮することが多いそうですが、世の中美人ばかりではあるまいしと、ここでは不美人の娘を主人公にしたてて、組み立てなおしてありました。

さて、いよいよ小朝さんの登場です。さいしょの噺が終わって拍手が鳴り止むと、小朝さんは間髪入れずに二番目の噺を喋りはじめました。このやり方、不自然さは感じませんでした。

「新聞記事」ですが、朝刊を読んでいないという男が、近所の天ぷら屋が泥棒に入られて殺されてしまったが、入ったところが天ぷら屋だけに犯人は間もなくアゲラレタという作り話でかつがれます。かついだ人間の言い分は、新聞を読んでいればすぐに嘘だとわかるというわけです(ちょっと強引な気もする)。かつがれたのは悔しいけれど、話は面白いので真似しようと考えたこの男、当の本人(天ぷら屋)を相手にこの話をしゃべり始めて怒られ、次にカモと思ってでむいた知り合いのところで一くさりブツのですが、先方のほうが一枚上手。オチの部分を先回りして言われてしまいます。悔しがる男に、実はこの話、もっと先があるのだよと言って殺された男の妻は出家したといいます。天ぷら屋のかみさんだけあって、衣をつけたというわけです。とまあ、他愛ない話といえばそれまでですが、まずは楽しませてもらいました。

続く噺はこうです。酒好きの親子が禁酒しますが、我慢しきれなくなります。父親が家で飲んでへべれけになったところへ、息子が出先で飲まされたといって帰ってきます。両者、かなり酔っ払っていて、父親が息子に顔が5ツにも6ツにもダブって見える、そんな化け物に財産を譲れるかと言えば、息子も黙っていません。こんなグルグル回る家なんぞいらない、と言って終わる、あまりにも有名な「親子酒」。酔うほどに喋り方が変化してくるところや、酔っ払い同士のやりとりなどは、しゃべくりだけではなく、身振りや顔の表情なども含んで面白みが伝わってくるところです。噺の後半、思いっきり笑いまくりました。

さて、休憩を挟んで登場したのは柳家小せんさんでした。40年以上前の日曜日のテレビで、大切りをやる番組があったのですが、小せんさんは、そこのレギュラーでした。いま放映されている日本テレビの「笑点」は、面白い・つまらないを座布団の加除であらわしていますが、当時の番組では、つまらなければ顔に墨でマルとかバツとかを書かれてしまうのです。いま何歳くらいになるのだろう? と思いながら聞いたのが「あくび指南」。退屈したときにするあくびを習いにいくという、すこぶるのんびりした噺ですから、こちらも、どことなくゆったりと聞いて、ちょっと退屈し始めたかなと思ったところで終わりました。あとで、小朝さんが紹介してくれましたが、小せんさん、御歳79におなりだそうです・・・。

ラストは「火焔太鼓」。商売が下手でいつもかみさんから馬鹿にされている道具屋が、市で古ぼけた太鼓を買ってきます。その太鼓を掃除していると、面白い鳴り方がします。それを偶然聞きつけた武家の人間が、太鼓をもって屋敷まで来るよう言って帰ります。なんと、それが火焔太鼓というこの世に2つとない珍品で、300両で売れ、道具屋は、これからは鳴り物を仕入れて儲けよう、次は半鐘にしようと言って、かみさんに止められます。半鐘は「おじゃんになる」からというのがサゲです。気弱でどじな道具屋に対し、勝気で時に残酷なことを平気で言えるかみさんのやりとりが絶品です。たとえば道具屋が太鼓をもって屋敷に出かける前のシーンはこうでした。かみさんは、道具屋が粗悪なものを持ってきてと怒りを買い、ぐるぐる巻きにされて庭の松の木に縛り付けられたところへ鷹が飛んでくる、やがて道具屋の頭の上に止まり、これはなんだ? と鷹が道具屋の顔を覗き込む、眼と眼が合って、道具屋は鷹に喰われるというのです。どうですか、けっこう凄いでしょう。まあ、こういう内容を笑いに変えてしまうのも落語の魅力。武士と道具屋のやりとりなども、すっとんきょうな味があって面白かったこと。熱のこもった噺で、腹を抱えて笑ってしまいました。

さいきんはノーベル賞の日本人ダブル受賞といった明るい話題もありましたが、一年を通してみれば、暗くて悪い内容の話題ばかりが脳裡にこびりついていますから、年の終わりにこうして落語を聴いて、ちょっとした垢落としをするのはいいモンですよ。


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