第128回 : 春風亭小朝スペシャル独演会2001(新宿・朝日生命ホール)

今回の独演会については春々堂から送られてきたDMで日時を知りました。その書面には、会は23日(日)だけの予定で、大人数が入れる会場ではないため一般売りはない、と書かれていました。それが、電話予約初日に電話が通じた時には、すでに23日のチケットは売り切れで、24日の午後と夜に追加公演があると言われました。予約開始から、ほんの数時間でこうですから、小朝の人気のほどがわかりますね。で、私は24日の午後1時からの部を聞きに出かけてきました。

演目は、

不動坊 林家たい平
立ち切れ線香 春風亭小朝
紙きり 林家ニ楽
芝浜 春風亭小朝

というもので、売りは、もともと上方の噺だったという「立ち切れ線香」を小朝が10年ぶりに再演するということと、有名な噺である「芝浜」を初めて高座にかけるという2つでした。2席たっぷり楽しもうと思って出かけたら、今回は、はじめに林家たい平が「不動坊」を、休憩後には林家ニ楽が紙きりの芸を楽しく見せてくれました。

まず、ニ楽の紙きりから書きたいですね。私がこれまでに見てきた紙きりは、芸人が座布団の上で少し身体を揺らしながら紙を切り、それを台紙に乗せて「ハイ!」と見せる芸でした。それが、なんと休憩後の舞台は、座布団の横にOHP(オーバー・ヘッド・プロジェクター)がデンと置かれているではないですか!! 「おおー!」と驚いたのはもちろんですが、それがなんとも可笑しい光景にも見えて、思わず笑っちゃいました。私の隣には学生さんが座っていたのですが、やはり笑っていましたね。二楽が出てきて一つ作品を切って、それを見せる直前にOHPのスイッチを入れて、舞台後ろのスクリーンが明るくなった瞬間に、会場から大きなどよめきがおきました。台紙に乗せて見せられるよりも大きく投影されますから、見やすいですね。しかも、クリスマス・イヴの今日にあわせて、一つの趣向も用意されていました。最後に切った作品は「阿波踊り」。普通の大きさの紙で切ったのですが、それを見せ終わると、あらかじめ用意してあった阿波踊りの長い長い切り抜きをプロジェクターの上をずらして見せていきます。そして最後は、サンタクロースがトナカイのそりに鞭を当てている絵柄で、「メリー・クリスマス」という文字も見えます。洒落た演出に感激しました。これなど、OHPを使ったからこそできる「技」でしょうね。紙を切りながらの話の内容も面白く構成されていましたし、今後、さらに楽しみな人ですね。

さて、小朝師匠。いつ聞いても、上手いと思います。配られた<御挨拶>には、この1年の噺家としての身辺雑記が要領よくまとめられていましたが、なんでも11月から、落語協会の理事になってしまった、そして「もしかしたら、ちょっとだけ落語界が良くなるかも・・・・・。」と書いてありました。期待しましょう。

「立ち切れ線香」は、大店の道楽息子が100日の蔵住いを申し渡されるのです。思いをかけていた芸者の小糸は、毎日、道楽息子に手紙を書くのですが、なにせ道楽を直すための蔵住い。届けてもらえません。事情を知らぬ小糸は食べるものも喉を通らなくなり死んでしまいます。無罪放免となった若旦那(道楽息子)は、店のおかみから死を知らされ供養の酒を飲んでいるところに、仏壇から三味線の音が・・・。やがてその音が鳴り止み、おかみは「小糸は、もう三味線を弾きません」。「どうして?」と尋ねる若旦那に「線香が立ち切れました」。芸者の花代を線香で数えた時代の名残りだそうで、なんともやるせない噺。それを重くなりすぎず、かといって軽すぎず、若旦那の声も若い青年を思わせるような声の出し方で聞かせてくれました。

一方「芝浜」は、腕はいいが怠け者の魚屋が女房に時刻を間違えて起こされ、出かけた芝の河岸で革の財布を拾って帰ってくるのです。中には50両という大金が入っていて、仲間に振舞った翌日、女房が財布も金も知らない、それは夢だ、と言い出し、なんと魚屋もそれを信じる。そして、酒を断ちまじめに働き、店も大きくなって3年がたった大晦日、女房は3年前の財布の件を「実は・・・」と切り出します。その金を当てにして遊び暮らしては人間がダメになると心配し、大家に相談に行ったところ、「夢」だといって押し通せといわれた、いくらなんでもそんな話は通じないだろうと女房が反論すると、大家はあいつなら大丈夫と太鼓判を押し、案の定そうなった。そのあいだに大家は金を預かりお上に届け、しかし落とし主が出てこなかったので、再びこの魚屋のところへ大金が払い下げられていたのです。それはともかく、子宝にも恵まれたので祝い酒をと女房が魚屋に勧め、魚屋も口元まで猪口を持っていきますが、「よそう、また夢になるといけねえ」で幕。こちらの噺では、男の声をいくらか太く出していて、中年を思わせる声です。使い分けてるんですねえ。前半笑って、後半泣いて、さいごはめでたい内容を伴ってホッとできるのですが、少しばかり「教訓」が前面に押し出されてくる噺ではあります。

小朝が「芝浜」を初めて高座にかけたなんて、言われなければわかりませんね。手馴れた感じに聞こえてしまいます。今回は触れられませんでしたが、たい平もほぼ安定したしゃべくりを聞かせてくれて、充実した時間でした。来年の小朝師匠は、4月と9月に国立大劇場で初演の会を開くのだそうです。行けるかどうかは別として、楽しみです。
【2001年12月24日】


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