第121回 : ロシア国立ポクロフスカ劇場公演《検察官》(アートスフィア)

実は今回の公演については、9月半ばにある方からいただいたメールで知りました。その後、ちらほら新聞などでも紹介されていきましたからご存知の方も多いことでしょう。本拠地モスクワの劇場では、60余席という少ない席数でチケットを入手するのがきわめて難しいそうです。そんなことを知ってしまうと、ますます魅力を感じてついに出かけることとしました。

今回の公演は『10th東京オピニオンズフェスティバル』および『東京都・モスクワ市友好都市提携10周年記念』行事として行なわれました。もってきた演目はチェーホフの《三人姉妹》、ゴーゴリの《結婚》、それにゴーゴリの《検察官》の3つでした。チェーホフも見たかったのですが、私は14日(千秋楽)の《検察官》を選びました。この日だけ、終演後にアーティストのトークという楽しみな、そして得した気分になれる催しもプラスされていました\(^o^)/

では、まず主なキャストからご紹介。
   アントン・アントーノヴィチ(市長)        セルゲイ・アルツィバーシェフ
   アンナ(その妻)                   ワレンチーナ・スヴェトローワ
   マーリヤ(その娘)                 タチヤーナ・ヤコヴェンコ
   フレスタコフ(ペテルブルクから来た官吏)   エヴゲーニイ・ブルダーコフ
そして演出は、市長役で登場するセルゲイ・アルツィバーシェフです。

舞台は19世紀ロシアの地方都市・・・のはず、とプログラムには記載されています。都のペテルブルクからお忍びで検察官がやってくるらしいという知らせに、市長をはじめ土地の有力者たち数人が困惑しています。やがて町の宿屋に泊まっていた役人が検察官と間違われるのですが、その役人、町の有力者たちから借りられるだけ金を借りまくります。すねに傷持つ有力者たちは、いいなり。やがてその役人はドロンします。

全体を通して観ているうちに、異国で昔起こった物語とは思えなくなってきます。なぜって、袖の下を包んで仕事を取ろうとしたり不祥事を隠そうとしたりする事件って、現代の日本でも聞く話ですから、作品と今の時代とがオーバーラップしてきます。町の有力者と役人の駆け引きや、袖の下のやりとりなど、こっけいな演技を見て、うんと簡単に言ってしまえば「悪」や「不正」を笑い飛ばしていたのでしょうね。さいごの方で市長が「あんな青二才に騙されるなんて」と悔やむくだりは、客席をシンとさせるほどの演技でした。でも、それは一連のできごとのはかなさを象徴しているようでもあり、見終わった後は一種爽やかな感じが残りました。それは、俳優たちがよく声を出して台詞をしゃべり(フレスタコフのテンションの高い喋りには、少々参りましたけれど)、所作を自然に付けていることにも原因を求めることができるのかもしれません。

終演後に行なわれたトークは、山之内重美さんを通訳兼進行役に立て、主なキャストでご紹介した4人が再登場して、会場と一問一答形式で対話がなされました。演出に女性蔑視を感じた箇所があったとか、翻訳で読んできた原作とストーリーが違うなど(多少カットはしたが筋や台詞は変えていないと返事がありました)率直な意見が出され、こちらも有意義な会でした。

また来て欲しい劇団です。
【2001年10月15日】


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