第102回 : 箸のように軽い百科事典(2001年3月19日)

平凡社や小学館の膨大な百科事典。私は図書館員になってから、こうした事典を手に取る機会が増えたように思います。ただ、子どもの頃から百科事典に親しんでいたわけではありません。冊数が膨大で、高価で、重くて、置き場所を食いますから、縁がありませんでした。仮に所持していたとしても、なまぐさな私は、きっと使いこなせなかったろうと確信しています。

なぜなら、百科事典で一つのことがらを知ろうと思うと、ある項目だけ読めば済むとは限りません。関連する他の項目を、時によっては複数読まなければいけないわけですからね。あんな重いものを何冊も身の回りに広げて、ページを繰っていくなんて、買った当初こそなんとか役立たせなきゃと考えて一所懸命(ヘタをすると無目的に・・・)に読むでしょうが、どうせ面倒くさくなって長続きはしないだろうからです。自分自身でこう考えるのですから、かなり確かなことだと思います。

平凡社の百科事典が初めてCD-ROM化された時、その製品は、図書と同一価格だったと記憶します(批判が新聞の投書に掲載されたことすらあった筈です)。高いなと思った私は、購入を控えました。以後、ずーっと買い控えていたのですが、昨年の9月2日(憶えていますか? 昨年、東京が最高に暑かった一日です)、新宿の某書店に出向いて、平凡社のCD−ROM世界大百科事典第2版ベーシック版スペシャルがハードディスクに常駐できることを確認した私は、暑さにもうろうとし、高いか安いか熟慮する余裕もなく店員さんに「これ、ください!」と言ったのでした。

これが正解でした(笑)。まず価格ですが、全35巻の図書で買い揃えると27万円ですが、CD-ROM版は2万円(私は、この2万円が高いか安いかをめぐって、売場でさんざん迷うのではないかと予想していたのです)。帰宅してから私のPCのハードディスクの空き容量を考え、その都度ディスクをセットしてもいいや、と判断しました。生来の怠け者には、ちょっと面倒ですが、それでも軽いですからね、まあ何とかその都度引っ張り出しては、項目を検索して読んでいます。先日、ディスクと箸の重さを量りで比べてみたら、ほとんど同じではないですか! 百科事典の常識は変りつつあるのですね。コンパクトで、情報量に比して安価で、軽くて、当然のことですが置き場所を食わない(その代わり、なくさないようにしないと・・・)。

さて、どんな時に良く使うようになったかというと、展覧会など見に行った後などよく読みますね。これも当然といえますが、見るときは感覚にだけ頼るというのも一つですが、観てきた画家の特徴などをちょっと読んでおくと、また今度、というときにもっと興味が湧こうというものです。画面で、項目を読むだけのときもありますが、こんなことをする時もあります。つまり項目全体や、項目中の必要な箇所を選んで、そこをコピーしてワープロ・ソフトに貼り付けます。ついでに、関連記事も同様にします。もっと細かいことを言うと、活字の大きさなどを自分の好みに合わせ、さらに2段組にするなどして、最小の枚数にこれらの情報をまとめ、プリントアウトします。それを適当な場所で読みます。時には、プリントアウトした用紙に、別の資料で読んだことをメモしたりもします。百科事典の利用が、その時の自分に合うようにカスタマイズできるのですから、こたえられません(さいきん実感することです)。

ちなみに、山根一眞氏の『スーパー書斎の仕事術』(文春文庫 1989)の中に、昔、月に1度、1週間は旅をしなければならない連載を抱えていた時に、百科事典の必要となりそうな項目をカミソリで切り取って持ち歩き、帰宅してから再度ていねいに糊で貼り付けたことがあると書いてありました。この箇所、妙に印象に残ったものです。今ならコンビニでコピーという手もあるでしょうが、山根氏いわく、旅に出る前は徹夜同然の忙しさでコピーが必要と気付くのは、おおよそ丑三つ時なんだそうです。CD-ROM版なら、そんな心配は無用ですね。

ただ残念なことに、現在、平凡社の『世界大百科事典』は図書のみ販売されていて、CD-ROM版、さらにはDVD-ROM版は、いずれも品切中だ、と同社のHPに出てきます。今の時期に品切れなんて、ちょっと信じられませんでしたけれど、致し方ありません。代わりにと言っては変ですが、小学館の百科事典は、出回っていますね。

CD-ROM版の百科事典とは別に、たとえばBritannica.comのように、インターネット上に存在する百科事典もありますが、これについては、別の機会があれば改めて書いてみようと思います。


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