第97回 : オークラロをこの眼で見た日(2001年2月6日)

オークラロという楽器があります。いや、正確に言うと、あることは知っていました。しかし私は、その姿を実際に見たことはありませんでしたし、まして音を聴いたこともありませんでした。さらに、不思議なことに<オークラウロ>という呼称もあって、音楽辞典にまで載っています。では<オークラロ>という呼び方が間違いかというと、そうは言えない証拠(と言ってよいでしょう)を見たことがありました。たとえば戦前の雑誌『音楽世界』の記事で”オークラロ楽団”という呼び方を目にしたことがあります(1939年から1940年当時)。もう一つ加えて言うと、生前の小倉朗先生から、自分は若い頃オークラロ楽団の指揮者をしていて、オークラロ楽団のオグラロウと(語呂合わせで)言われた、というお話を伺ったこともありました。私にとっては「幻の楽器」であると同時に、気になる楽器でもあったのです。

2001年2月4日に行なわれた洋楽文化史研究会で、「幻の楽器オークラロにみる日本の洋楽と邦楽」という発表がありました(発表者: 小宮多美江、藤岡由記)。 実は、研究会でのオークラロの話の内容と写真は、すでに「新・閑古鳥の部屋」の”嗚呼、閑古鳥”にある<過ぎ行く日々に>(2001年2月5日)にあり、私のこの文章は二番煎じということになります。しかし、私が長年もっていた疑問も解けたばかりか、さらにいろいろ知ることのできた発表でしたので、あえて屋上屋を架することを承知で、以下に少し書かせていただきます。

オークラロは、実業家・大倉喜七郎による尺八改良意見を採り入れた結果生まれたもので、尺八の歌口を生かし、キーの部分はベーム式フルートのそれを応用した、いわば和洋折衷の楽器です。1935年に<オークラウロ>として世に発表され、1937年途中から<オークラロ>という呼び方に変わりました。大倉喜七郎が創設した大和楽で使われると同時に、新たに組織されたオークラロ楽団では、モーツァルトやバッハの編曲モノも取り上げた記録があるのですね。ピッコロ、ソプラニーノ、ソプラノ、アルト、バスの5種類があるということでした。

当日は、ソプラニーノのF管の楽器(個人蔵)を発表者が借りてくださり、じっくり見せていただきました。その時の写真をご覧に入れようと思います(これも二番煎じ)。

オークラロ(1)
← まずケースから(笑)。「何の意味もないじゃん!!」などと仰らないでください。もうちょっと顔を近づけて、あ、無理か・・・

じゃ、こうしましょう。次をご覧ください。





オークラロ(2)
← よーく見てください。

左側には
「Baron
K. Okura」
という文字があるのですが、おわかりですか?

右側は・・・、ボケちゃいましたけど
「KOK」
と記されていましたね。



オークラロ(3)
← ケースを開けたところ。
一番下の右に見えるのが歌口の部分で
その上の段がキーの付いた胴部です。胴部の左側に歌口を差し込みます。

そして尺八のように縦にもって吹くわけです。

ケースから推察すると、この楽器、ロンドンの会社で作られたもののようですが、
肝心の社名を記録しそびれました。


オークラロ(4)
← これが楽器全体を写したところ。下の白いものに何か文字のようなものが透けて見えるですって? ハイ、当日の資料です(笑)。









では唐突ながら、今回はこの辺で。さようなら・・・
えっ、楽器を目の前にして写真をとるだけだったのかと仰るのですか? うーん、バレちゃいましたか。実は、私も含めて何人か吹こうと試みたのですが、ダメだったのですよ(トホホ)。ただ、この楽器の名誉(?)のために言っておくと、現在の所有者の方は、簡単に音を出していらしたそうです。ということは、楽器が悪いわけではない・・・。うん、難しい楽器なんじゃないでしょうか、きっと(汗)。

では、今度こそ、今回はこの辺で・・・。


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