第86回 : 早坂文雄展(2000年11月3日)

去る10月31日(火)〜12月3日(日)までを会期として、旧東京音楽学校奏楽堂で「早坂文雄展」が行なわれています。入館料は300円、児童・生徒は100円です。ちなみに、冒頭で書いた会期ですが、連日開催されているわけではなく、
    日曜日・火曜日・木曜日・・・全日開館(9:30〜16:30)
    11月の金曜日・・・・・・・・・・午前のみ開館(9:30〜11:30)[12月1日は休館]
    月曜日と土曜日・・・・・・・・・休館
    水曜日はまちまちで、15日は午前のみ開館(9:30〜11:30)、22日は全日開館(9:30〜16:30)、
       それ以外の水曜日は休館
という具合です。ちょっと複雑ではありますね。

この特別展示は、早坂文雄の自筆譜(スケッチを含む)、プログラム、ポスター、手帳、手紙やハガキ、新聞雑誌記事、映画台本など約100点が展示されています。展示室は3つあって、第1室「早坂文雄の音楽」、第2室「早坂文雄と映画」、第3室「著書 エッセイ 趣味の俳句/早坂文雄と若き作曲家」と、それぞれがテーマをもっています。

早坂文雄は1914年北海道に生まれ、1955年に亡くなりました。「歿後45年・早坂文雄がのこしたもの」というサブタイトルをもつ展示を見てみましょう。

1934年2月26日付けの清瀬保二宛書簡が展示されていて、読んでみました。すると、音楽雑誌で清瀬を知り尊敬していること、日本を意識して作曲していること、ピアノ曲の楽譜を同封するので講評を乞いたい、という内容の手紙でした(あと、ファリャに宛ててオーケストラ曲を送る準備をしている、というのもあったと思います)。さほど大きくない封筒と、用件を記した便箋が展示されていました。私は、五線譜は厚みがあるものを想像してしまい、この封筒に同封したっていうのは本当だろうかと疑問に思ったほどでした。すると、その横にはピアノ曲「君子の庵」という件の楽譜がありました。きれいに四つに折られた形跡があります。便箋のように薄い紙の五線紙でした(同封というのが納得いきました)。清瀬保二は戦後、ある雑誌でこの作品について触れた折に、楽譜はなくしてしまった、と述べていたのですが、幸い遺品の中から発見されたそうです\(^o^)/

同年9月には、伊福部昭、三浦敦史らと「新音楽聯盟」を結成し、9月30日には早速「国際現代音楽祭 室内楽」というコンサートを開いています。この時のプログラムが第1室に展示されているのですが、ストラヴィンスキー、サティ、カセルラ、ルイ・グリュンベルク、ファリャなどの作品を、伊福部昭のヴァイオリン、早坂文雄のピアノほかで演奏しているのです。これは大きな驚きで、腰を抜かすところでした。つい、どうやって、同時代の作曲家たちの楽譜の存在を知って、入手していたのだろうかと考えてしまいました。相当、当時の現代音楽に興味をもった楽譜店か楽器店でないと、こうした楽譜を揃えていくのは容易ではないでしょう。それとも、直接、海外から楽譜を送ってもらえる知り合いでもいたのでしょうか?

早坂といえば「映画音楽」との結びつきが忘れられないという人も多いはずですね。第2室は、まさしくそうした角度から早坂を見る展示室でした。ポスターや映画台本などは、すいすいと見て歩きましたが、私は映画の「音楽構成表」なるものを初めて見ました。映画のすべてのシーンを時系列に沿って書き出し、音楽を付けるシーンの上に色を塗ってメモを記す、そんな表です(けっこう大きい)。箇所によっては「再考」などと書いてあったように記憶しています。

もう一つ興味深かったのが、黒澤明監督に宛てて書いた日時不詳の書簡です。黒澤が、病弱な早坂の体調を慮って、言いたい注文を控えていないか、もしそうすることで支障が生じているとすればすまないことだし、どうか遠慮しないで注文を言ってほしいと書いているのです。健康な人は健康なことが常態であるように、早坂は病弱であることが自分の常態なのだから、気遣ったくれるなというのです。仕事とはそういうものだ、という趣旨のことも書いていました。印象に残りました・・・。

この種の展示会は、美術の展覧会と異なり、鑑賞に適するという質のものではありません。ですから、つい文字に書かれたものも、そのまま通り過ぎてしまいがちなのですが、やはりできるだけ読んでみるものですね。理解の度合いが違ってきますから。

帰宅後、早坂文雄に関するHPを探してみました。すると、
   音楽の世界(http://www5.plala.or.jp/forests/
という、早坂の世界を紹介することを柱のひとつにしたHPを発見。なんと、1934年の早坂発清瀬宛書簡も一部省略があるものの読めますし、年譜も途中までですが詳しいものが用意されています。さきほど私が疑問に思った楽譜店のことなども、年譜の1931年の項で、早坂が「富貴堂」という楽器店の常連だったことを知ることができました。これなど、大きなヒントになりますね。さらに、「君子の庵」(くんしのいおり)は、2000年11月18日(土)午後7時から北海道立釧路芸術館アートホールで演奏されるそうです。HPにある「コンサート」に詳しい情報があります。「うーん」と感心してしまいました。

忘れてはいけないことがありました。
今回の特別展示が行なわれている
旧東京音楽学校奏楽堂では、2000年11月9日(木)の午後6時30分から、展示に連動した「レクチャー・コンサート」が行なわれます。


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