第69回 : 歌舞伎座の春風亭小朝(2000年4月30日)

4月27、28、29日の三日間、なんと歌舞伎座を会場として春風亭小朝独演会が開かれました。三日間とも小朝の演目は同一で、開口一番をつとめる若手だけが日替わりということになります。私は、ゴールデンウィーク初日の4月29日に行ってきました。何度となく春風亭小朝を聞いている私ですが、しゃべくりのテンポのよさと次々と繰り出されるギャグの多さは相変わらずで、大いに笑って、ときどきキュンとさせられます(そこがまた良い)。今回の演目は、

 開口一番                           春風亭勢朝(4月29日のみ)
 三枚起さんまいきしょう)                 春風亭小朝
 極楽稿彼岸悦楽2000ごくらくぞうしあのよのたのしみ)春風亭小朝

「三枚起請」は有名な落語で、廓噺に属します。ものの本によれば、大阪・難波での噺と紹介されていましたが、江戸落語として話す小朝は、吉原に舞台を移しました。難波も吉原もそうでしょうが、廓の大店というのは、庭の木の周りに残飯をまいておき、朝早くカラスを誘ったといいます。それは、女郎や居つづけの客を朝寝坊させないためだったというのです。さて「起請」は、熊野権現の誓紙に誓いを書き血判を押した証文で、誓いにそむけば熊野でカラスが三羽死ぬという言い伝えがあるといいます。女郎が書く起請というのは、年季が明けたら、あなたと夫婦になりますよという内容で、当然、1枚しか書かない筈です。ところが、この噺に登場する女は、なんと3枚も書いていたのですよ。立派な結婚詐欺といえます。ふとしたことから、この事実を知ったのは顔見知りの3人の男たちでした。3人ともその女性に本気で惚れていたので、怒りも倍加します。男たちは、女を呼び出し、責め立てようとでかけます。始めのうち、しらばっくれていた女性が、文句を言われるうちに急に態度と言葉使いを変えて、開き直ります。「女郎は男を騙すのが仕事さ、騙されるほうが悪いんじゃないかい!」と。このクダリ、小朝師匠は見事に演じてくれましたね!!リーダー格の男は、そんなに誓いを破るとカラスがたくさん死ぬではないか、と迫るのですが、「朝寝坊したいからさ」。廓の仕事は夜、しかも朝早くから起こされて働かされるようで、労働は厳しかったみたいで、こんな下げがついたみたいです。男も女も、どこか憎めない噺です。

今回注目したのは、後半の「極楽稿彼岸悦楽2000」でした。3年前に武道館で初演した噺を、内容にかなり手を加えたといいます。武道館のときは、入場料が高かったので、私は見ていません(今回は、3,150円という一番安い席が入手できました。それが3階正面の前から2列目の真中辺りでしたから、満足、満足\(^o^)/)。

で、噺をかいつまんで言うと、棺桶屋のタナカ・マサゴローが奥さん・お初の制止を振り切り、腐った鯖寿司をバクバク喰らって死んでしまいます(残された奥さんのお腹には赤ん坊が・・・)。マサゴロー、生前の行いは善良だったので極楽へ行くはずのところ、手違いから(!)地獄へ。いろいろあって、釈迦が極楽へ引き上げてくれるのですが、そんな資格は無いというマサゴロー。釈迦の決断は、マサゴローを輪廻転生させて、お初の赤ん坊として生まれ変わります。赤ん坊が、母親になんと言って挨拶したか、想像してみてください。それが下げでした。

小朝という噺家は、聞き手を飽きさせません。今回の「極楽〜」では、マサゴローが死んだ直後、座布団をブランコに乗せて、舞台から空中に吊り上げ、それも左右に大きく(その代わり、ゆっくりと)移動させ、小朝は、その上で喋りつづけるという仕掛けもありました。
それが済んで、あの世にいったばかりのマサゴローが親戚に出迎えを受け、娑婆で嘆き悲しんでいる奥さんに一声かけることができるぞと言われ、台詞をピタッと決めるにはBGMがあるというので、ボタンを押す(真似をする)と、何種類ものBGMが用意されているなんていうアイディアもありました。
地獄の趣向は、いろいろありましたが、月に一度、閻魔大王の前で芸をしてみせ、気に入られると、少しは罪を軽くしてもらえるという便法を設け、昨年8月に初めて披露したロック三味線(バンド編成)や、皿回し(包丁2本を柄の部分で重ね、その上の刃が皿の下に、下の刃はもう1本の包丁の刃に乗せ、都合3本の包丁を使っての皿回しには、ハラハラドキドキしましたよ)、さらに、ある噺家の形態模写などを見せ、堪能させてくれました。

この日の東京は好天気に恵まれ、劇場をあとにしたのが午後6時頃。近所の店を冷やかしているうちに、6時30分。翌日は休み。というわけで、条件はそろいました。私の足は、とあるビアホールの方向に引き寄せられていきました。高い天井と趣のある店内で、落語を反芻しながら飲む生ビールは、極上の味でありました・・・ウィ〜。


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