第64回 : 図書館の片隅で 〜 春の移動作業(2000年3月5日)

人気沸騰のTVドラマ『ビューティフル・ライフ』で、主人公の一人・常磐貴子さんが図書館司書を演じ、「しがない図書館司書」などといった台詞をさりげなく言っています。脚本家が、世の中に山ほどある職業のそれぞれを尊重しているのかなと思える瞬間です。ところでドラマでは、図書館のカウンターで貸出しや返却手続きを担当する、常盤さんと水野美紀さんのお二人しか司書は登場しません。開架制といって利用者が自分で書架のあいだを歩きまわれる図書館ですから、それでいいのかもしれません。しかし、私の職場は閉架制といって、ほとんどの資料を書庫に収めています。書庫は何階かに分かれていて、大雑把に言って図書、楽譜、雑誌など同じ種類の資料を各書庫に収めるようにしてきました。でも、一定の収蔵スペースなわけですから、資料の数が増えれば、そのままでは済まなくなります。つい最近、けっこう大掛かりな移動作業をしました。

移動した資料は全集叢書楽譜という資料群です。図書や雑誌、それに通常の楽譜と比べて、どちらかとういと 「重い」「厚い」「大きい」という特徴があるのです。苦労の多い作業は、4人の学生アルバイトが担当してくれました。ご紹介しましょう。
4人の学生





















左から車田君、徳永君、太田君、小谷君(ヘルメットで男前の顔が隠れてしまった??)。4人とも声楽科。

2月25日(金)。朝、移動先の書架の段をきちんと整えることから作業を始めました(この箇所は昨年のアルバイト学生がかなりやってくれていましたので助かりました)。次に、移動元の書庫に2人、移動先の書庫に2人と分かれ、移動すべき資料をリフトに乗せて動かします。
28日(月)も初日後半の作業を続けました。
29日(火)。午前は他の書庫の応援。午後、請求記号順に正しく並んでいるかチェック。
3月1日(水)。朝早いうちに、チェック完了。

ここまで読んで「な〜んだ、単純じゃないか」と思った方、いらっしゃることでしょうね。実は、この先があるのですよ。過去、全集叢書楽譜は、たとえばバッハの新全集で一つの請求記号を与える方式をとっていたことがありました。ところがこれでは、少しずつ刊行される楽譜に対してどれだけ空きスペースを用意しておけばよいか計算できないのです。そこで方式を変えて、何の全集楽譜であるかは問わず、受け入れた順番に請求記号を付けていくことに変更した時期がありました。ところが、実際の書架は昔想定していたスペースを詰める作業をする機会がないままだったのです。このままでいくと、あと5年もすると新しい置き場所も一杯になってしまうでしょう。

そこで・・・
私は4人に、無駄になるスペースを詰めるように言いました。一度移動が済んだものを、また動かすわけですから、私も少し気がひけましたが、いつかやらなければダメなのです。
驚いたことに、この作業に進んでからの彼らの仕事振りには目を見張るものがありました。
ともかく、よくしゃべる!(この前の仕事までは、さほどでもなかったんです・・・)
少しばかり、イメージ的に再現してみましょう。


A君「おーい、お前、しっかり運べよ!」
B君「うるさいよ、お前こそ人のことばかり言ってないで、しっかりやれよ」
A君「なーに言ってんだよ、しっかりやってるゾ


C君「(A君に)笑わせないでくれよ」
B君「そうだよ、気が散るじゃないか!!」
A君「笑わせてないだろ(笑)


B君とC君「(A君に)お前、ここ間違って詰めてるじゃないか」
A君「えっ! でも、そこ俺やってないぞ」
C君「さっき、ペチャペチャ喋りながら仕事してたろ? その時、間違えてこっちを取っちゃったんだよ」
A君「うーん。いや、濡れ衣だぁ、俺はやってない、やってない、無実だぞぉ」

D君が出てきませんけど、一人だけ2年生で、あとの3人が3年生。学年が違ったせいか、D君は寡黙でした。よく喋った3人でしたが、特に、この中の一人が場を盛り上げるのが好きといおうか、よく仕掛けてましたね。私は、できるだけ黙って聞きながら、さらに次にやってもらおうと思っている仕事の下準備を、彼らの仕事と同時進行で用意していきました。ノート型PCを書庫に持ち込めるようになったからこそできる技です。この辛い作業は、3月3日(金)の最終日の朝まで続きました。最終日は、最後の仕上げで細かい仕事を依頼したり、他の書庫を手伝ってもらったりしました。
不思議だったのは、このお喋りが仕事の進行状況を知ったり、彼らの疲れ具合を掴むうえで参考になったことです。

4人に感謝の意を込めて、私が担当した今回の作業のご紹介をさせていただきました。


トップページへ
コーヒーブレイクへ
前のページへ
次のページへ