第54回 : 戦前の作曲家たちを取り上げた資料集(1999年11月22日)

前回取り上げた「作曲家群像」展の後援団体の一つに国立音楽大学が入っています。なぜか?
実は国立音楽大学附属図書館で、今年『ドキュメンタリー新興作曲家聨盟 戦前の作曲家たち 1930〜1940』(国立音楽大学附属図書館・現音ドキュメント作成部グループ《染谷周子・杉岡わか子・三宅巌》編 立川 1999 423p.)を刊行しました。
「だから」です。

特定の作曲家に光を当てた展示会ならば、個人年譜やプロフィール、主要作品表といった資料がお土産として持ち帰れるならば、それ相当に参考になるのだと思います。
昨日の特別展を見終わって感じたことは、作曲家の団体に焦点を当てた企画だと、この団体に集った音楽家たちの記録をどうやったら正確に追うことができるかが、もう一つのポイントになるだろうなということでした。

そこで本書の登場となります。
資料集として編纂されたこの図書は、新興作曲家聨盟が結成された1930年から解散に至った1940年までを年代順にとらえ、誰ががいつこの団体に参加したのか、そしてどんな作品を発表したのか、それは誰の演奏によって紹介されたのか? 雑誌や新聞に予告が出たときと実際のコンサート当日ではプログラムの異動はなかったのかといったことがらを、オリジナル資料、雑誌、新聞などに掲載された資料をもとに構成しています。その他に、年表、演奏会・放送、文献・写真、連盟員などの略歴、規約等々が満載されています。

読み始めてみると、名前だけ知っていた作曲家が、いつ、どんな作品を書いたかを知ることもできて、初めて知る名前もたくさん出てきます。これだけでも収穫といえるかもしれませんが、この団体が年代を追ってどのように歩んだかが、かなり明瞭に浮かび上がってきたように思われます。
まさしく、今回の展示会と本書は相関関係にあるなと感じて帰ってきました。

本書は、これまであまり知られなかった部分に光を当てた点が評価されて、第2回ゲスナー賞(雄勝堂)をいただきました。
同僚の仕事で、ここまで書くと手前味噌になりますが、そこはご勘弁いただいてゲスナー賞のホームページを見ていただくと、第2回ゲスナー賞の授与式の模様や、講評などを読んでいただくことができます。
*ゲスナー賞ホームページ
http://www.yushodo.co.jp/gesner/index.htm

なお、この資料集は完成までに18年の歳月がかかりました。先月、初めから関わった同僚が『音楽芸術』に連載された秋山邦晴さんの「日本の作曲界の半世紀」(1974年1月〜1978年12月、全49回)がなかったら、ここまで続かなかったかもしれないという意味のことを話してくれました。私も、昭和戦中期の音楽界のできごとに興味を持ったときに、この連載に出会わなければ挫折していたに違いないと思っていましたから、同じような人がいるのだなと思いました。


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