第29回 : 牡丹燈籠(1999年8月16日)

しばらくぶりで芝居を見に行きました。
お目当てはロシア国立ドラマ劇場スタリー・ドム来日公演です。スタリー・ドムは、ロシアはシベリア最大の都市、人口約150万のノボシビルスク市の劇場です。8月12日(木)〜15日(日)まで公演があったのですが、あいにく天候に恵まれませんでしたね。出し物は、なんと『怪談 牡丹灯籠』(原作:三遊亭圓朝 作:アナトーリィ・キム 演出:セミョン・ヴェルフラグラツキー)。
これまでに私が接したことのある『牡丹灯籠』は、数年前の夏に歌舞伎座で行なわれた公演、昨年の春に春風亭小朝独演会で聞いた落語の2回で、落語の方はCDになりました。いずれも、当然日本語です。ところが今回はロシア語!! どんなことになるのだろうかと、期待と不安が半々で出かけたのですが、その会場が上野の東京文化会館小ホールです。チラシを見たときには、少々驚いたのですが、このホールで演劇を見ることじたい私にとっては初めてのことでした。
結果は「上々のでき」といって良いと思います(私は8月14日(土)夜の部を見ました)。

全体は2幕仕立てにし、16人の俳優が(そのうち数人は二役をこなして)比較的簡素なセットで、舞台を展開していきました。
見ていて面白かった箇所から挙げると、
その1。お露と新三郎の愛のダンス。二人とも、自分で帯をゆっくりと外し、やがて濡場のシーンへ。よく見ると、新三郎はブリーフの上にふんどしといういでたちですが、まあそれは細かいことです。歌舞伎や落語では、ここまで具体的な演技を望むのは無理というもの。よくぞここまでやってくれたものだと感心しました。
その2。新三郎の世話をして細々と暮らしを立てている伴蔵に、お露と侍女のお米が実は幽霊だということを明らかにするときに使ったのが、大きな人形で、舞台空間を黒子が勢いよく飛び回ります。これが効果を上げて実に良かったです。怖いはずのシーンなのですが、幽霊が愛嬌をもった表情で作られていて、ホラー気分とまではいきませんでしたが、いい工夫です。
食い足りない面も挙げておきましょう。
幽霊になったお露とお米が牡丹灯籠をもって、(幽霊なのに)カランコロンカランコロンと下駄の音を響かせて歩いてくる音が聞き取りにくかったことです。私の席から見ると(J列27席)、二人とも下駄ではなく草履を履いているように見えましたけど、私の間違いかな??

全体を通して、場面の区切り区切りでアナトーリー・ウズジェンスキー扮する三遊亭圓朝が登場し、狂言廻しの役をよくつとめていました。これによって、芝居の進行、登場人物の心理、複雑な筋の過去と現在のつながりなどが、要領よくのみこめる寸法になっていました。
医者・山本志丈のいいかげんさ、伴蔵・お峰夫婦の強欲とぬけめなさ、飯島平左衛門の厳格さなど、登場人物の性格を俳優が、それぞれとてもうまく演じていたのも、見ていて気持ちがよかったです。

それにしても、なぜロシアで圓朝の『牡丹灯籠』なのでしょうか? 演出者のことばを読んでも、日本が多くのロシア人にとってあこがれの国の一つで、北斎の浮世絵や黒沢映画を通して日本文化に触れてきたそうです。ここまでは、それなりにわかります。でも、『牡丹灯籠』がロシアで舞台化されたのは偶然ではないと説明されても、やはりうまく理解できませんでした。
今年は圓朝没後百年にあたる年だそうで、いい記念行事になったにはちがいありませんけれどね。

では、私も退席することにしましょう。
カランコロンカランコロンカランコロン


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