第28回 : 春風亭小朝独演会 in 国立劇場(1999年8月9日)

えー、暦の上で立秋を迎えたと申しましても、8月8日の東京は、これまでとあいも変わらず暑い夏の日差しが照りつけまして、少し歩いても汗をかくといった按配でございました。私は、かねてから楽しみにしておりました春風亭小朝さんの独演会を聞きに国立劇場に参ったのでございます。この劇場には、大劇場、小劇場、演芸場とございましてな、普段寄席を聞こうと思うと演芸場へ行くのでございますが、この日は、なんと大劇場。普段は歌舞伎などを催す劇場でございます。午後2時からの昼の部と午後6時からの夜の部が用意されておりまして(小朝師匠の演題は昼・夜とも同じで「千両みかん」と「子別れ」の二題)、私は午後2時からの部の切符を手に入れていたのでございます。はい。

劇場へ着いたのが午後1時20分ごろでしたでしょうか。まだまだ開演までは余裕があるとのんびりしておりましたら、予想以上に人の群れができておりまして、さらに劇場の正面に次から次へとタクシーが到着し、こう言っては何でございますが、ご年配の方々がおりていらっしゃいます。加えて、外国人カメラマンと女性アシスタントと思しき2人組の取材班まで見出せまして、どこかの民放かなと思いましたところ、APと書いてあるではありませんか。そう、あの世界の通信社APのようでございます。これまたビックリしたしだいでございます。

この日のもう一つの仕掛けをお話しておきましょう。
開場時間の午後1時30分を過ぎ、私も列に並んで劇場に入ったのですが、そこで手渡された記念の品が「団扇」。よく見ると「ロック三味線家元 六九家七右衛門 襲名披露記念」と書いてございます。この得体の知れない家元こそ、誰あろう、春風亭小朝師匠のもう一つの新しい芸名ということになりますな。

開演時間を迎えました。
トップバッターは(いきなり小朝師匠は出てきません)春風亭勢朝という若い噺家さん。ご機嫌伺いといった内容でございますが、勢朝さんというだけあって今後の「成長」に期待したいと思いました。
次は、紛れもなく小朝師匠の出番で「千両みかん」。冷凍技術などまともにない時代に、お店の若旦那が犯された心の病を救うために、番頭さんがあるはずもない「みかん」を探しに走り回り、奇跡的に1個みつけ、なんと千両で買いつけて若旦那の病を癒すという筋でございます。しかし、これには続きがありまして、1個だけ買えた件のみかんには10房詰まっておりました。若旦那は、7房食べて満足し、番頭に、あとの3房を両親と番頭の3人で1房ずつ食べておくれと言い渡すのでございます。さようですか、と部屋を出た番頭の脳裏をよぎったことは、暖簾わけをしてもらうときに頂く給金は、どう考えても30両から50両、この3房は換算すれば300両。勤め人の悲哀とでもいうべきか、この番頭さん、3房のみかんをもってお店から姿をくらますのでございます。
テンポの良いしゃべくりは心地よく、若旦那がみかんを食べるときの絶妙の演技に接した私たち聞き手は水を打ったように静まり返って見入り、聞き入ったものでございました。

休憩をはさんで後半の始めは、ロック三味線家元 六九家七右衛門(春風亭小朝師匠)の登場とあいなりました。言い忘れましたが、この日の小朝師匠は髪を薄茶に染めておりまして、ロック三味線の家元襲名披露を意識しているのだな、と見え見えでございました。さて、バンドのメンバー紹介と参りましょう。
《KOASA連中》
(三味線)六九家七右衛門(ロック三味線家元=春風亭小朝)
(三味線)六九家裕光(宗家。新家元 六九家七右衛門の師匠)
(パーカッション)仙波清彦
(小鼓)望月慎一
(大鼓)望月正浩
(笛)福原寛
矢沢栄吉、プレスリー、そしてハチャトリアンの「剣の舞」の3曲を演奏し、お披露目となりました。どうもピンと来ないところもあるのでございますが、このチャレンジ精神は小朝師匠のすばらしい面だと感服いたしました。
次に、春風亭昇太師匠の「ちりとてりん」(「酢豆腐」なんていう題でもいいますな)。とぼけた味が伝わってまいります。

最後は再び小朝師匠の出番で「子別れ」。3年前、一時の夫婦喧嘩がもとで今は別々に暮らしている夫婦がおります。二人には今年10歳になる子どもがおります。この元夫婦、いまだにお互いに気があるのでございます。亭主が3年ぶりに道端で遊ぶ息子にあい、息子のことや女房のことを聞き出します。内緒でこずかいを与え、翌日息子の好物の「うなぎ」を食べに行く約束をいたします。その後、息子と母親の間にちょっとあって翌日になり、うなぎやで父親と息子がうなぎを食していると気が気ではない母親が、その店の周りをうろうろします。けっきょく、店内で元夫婦はよりをもどすことになる、そんな人情噺でございます。
小朝師匠のテンポの良さは相変わらず堪能できますが、3年前の夫婦別れのくだりだけは照明を舞台中央の小朝師匠一人に当てて「〜♭あれは3年前♯〜」ということを分かりやすく際立たせる演出をとりましてございます。これは演出の妙と大いに関心いたしたました。加えて人情味も伝わってまいります。もう少し小朝師匠がお年をめすと、さらに味わい深いものになっていくのではないかと期待をもたせてくださいました。

昨年の夏は天王洲アートスフィアで二題。今年が国立劇場。さて来年はどうなるのでございましょうか?

今回はチト長くなりましたか?
お後がよろしいようで…


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