9 團伊玖磨/歌劇《ひかりごけ》
原作/武田泰淳
演奏
木村俊光(船長、バリトン) 吉田伸昭(西川、テノール) 山口俊彦(八蔵、バス) 竹沢嘉明(五助、バリトン) 工藤博(裁判長、バリトン) 近藤政伸(検事T、テノール) 島村武男(検事U、バリトン) 牧川修一(弁護人、テノール) 二期会合唱団(傍聴人)/神奈川フィルハーモニー管弦楽団 現田茂夫(指揮)
<2002年1月26日 すみだトリフォニーホールにおけるライブ録音>
 [CD]  ALM Records    ALCD9035-9036[CD 2枚組]      ¥2500(税込)             
1972年にに初演され、当時話題になったものの、私はその公演を見ませんでした。さらに今年の1月に演奏会形式で聴くチャンスがあったものの、これも逃してしまいました。ところがその演奏会がCD化されたことを知り、それならば、と入手しました。

実は、このCDは「神奈川フィルハーモニー管弦楽団」の自主制作CDで、街のCDショップでは手に入りません。[← と書きましたが、この記事を読んだ知人からメールが届き、さいしょはそうだったが、自分は渋谷のタワーレコードで入手した、というお知らせをいただきました。一部の大手CDショップでは手に入るみたいです m(__)m 以下の文章は直接入手の方法の一つとしてお読みください。・・・2002年11月20日加筆]神奈川フィルの演奏会場か事務局からの郵送に販売方法が限られているのです。神奈川フィルのHPを開き、2回ほど画面を開くと「Menu」が表示されます。その一番下の方に、この件についての簡単な情報が出てくるのですが、詳しい画面へと行き着けるようになっています。私の場合は、そこからEメールで住所、氏名、電話番号、希望セット数を書いて送信し、事務局から郵便振込票を送ってもらって代金を送金、その数日後にCDが送られて来ました。

さっそくCDを聴こうという気持ちになるのはわかるのですが、ここでもう一つ、新潮文庫から出ている武田泰淳の『ひかりごけ』を買い求めることをお薦めします(文庫本の終わりの方、約40ページ分の戯曲部分が必要な箇所で、現在の販売価格は税抜き400円です)。こんなことを書く理由は、オーケストラが鳴り響くのと同時に歌手たちが歌っているわけで、いくら日本語の台本だといっても、きちんと聞き取って理解するのが意外と難しいと思われるからです。特に第1幕(お国言葉)は、多少の台詞のカットなどがあるものの、かなり忠実に言葉が再現されています。戯曲を片手に、という方法は有益です。第2幕の法廷の部(標準語)は、ともかく読んで大筋を頭に入れてしまいましょう。被告になる船長と、検事や傍聴人の声が重なる箇所もありますし(台詞はそれぞれに違うのです)、第1幕よりも台詞のカットは大幅です。こちらの方は参考にしようということになります。

さて作品についてです。第1幕。時は1944(昭和19)年冬、ところは北海道の知床、マッカウスの洞窟です。一艘の船が難破します。こんなところで難破しては、食料にもありつけず、体力のない人物から死んでいきます。そして、人肉を食するという行為が行なわれるのです。船長と若い西川が生き残りますが、さいごは船長が生き残ります。このあたりの事情は、原作を読むとわかるので、省略させていただきます(第1幕:およそ78分)。第2幕は終戦直後の裁判所が舞台です。ここで初めて傍聴人の一部に女声が加わります。裁判所で船長は、検事、裁判官、傍聴人、果ては弁護人からまで責められます。答えたくない質問に無理に答えると、さらに誤解を生みます。船長は、人肉を食した人間には「ひかりごけ」の光を発し、人肉を食していない人間には見えるはずだ、見えるかと法廷の中の人たちに尋ねますが、みな見えないというのです。よく見て欲しいと懇請する船長ですが、なんと法廷の中にいる人たちが「ひかりごけ」の光を放つようにになり、幕(第2幕:約28分)。

第1幕の長丁場は男声だけの会話。場面が場面ですから、音楽のテンポも重くゆっくりした感じです。ただ、船長と若い西川の言い合いの箇所は、多少テンポアップしている感じがしますけれど。第2幕も、基本は会話が音楽になって進んでいきます。とりあげられたテーマじたい、かなり異様な印象を受けますが、オーケストラも歌手陣も聴き応えがあって、聴きながらテーマについて考えさせられる作品だと思います。

【2002年11月11日+11月12日一部修正(修正に関しては、次の《補足》をご覧ください。)】


《補足》当初の文章では、オペラのあらすじの終幕部分を「よく見て欲しいと懇請する船長ですが、やがて法廷の中にいる人たちに「ひかりごけ」が見えるようになり幕(第2幕:約28分)」と書いてしまいました。これでは法廷の人たちが船長の「ひかりごけ」を見えるようになったという意味になってしまうので、本文を修正しました。


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