和波隆嬉 邦人バイオリン作品集
CD 1
(1)三善晃 : バイオリン・ソナタ
(2)入野義朗 : バイオリンとピアノの音楽
(3)武満徹 : バイオリンとピアノのためのHIKA
(4)小倉朗 : バイオリンとピアノのためのソナチネ
(5)中村太郎 : バイオリンとピアノのためのバラード第3番「無明」
CD 2
(6)團伊玖麿 : バイオリンとピアノのためのファンタジア
(7)原博 : バイオリン・ソナタ
(8)石井真木 : 4つのバガテル
(9)別宮貞雄 : バイオリン・ソナタ第1番
演奏
  和波隆嬉(バイオリン) 北川暁子(ピアノ) 
 [CD]  Art Union    ARND 2017-18[2CD]   \3800(込)                  
CDショップでこの2枚組を見つけたときには、以前、その存在を気にしながらも買いそびれたLPの復刻だと思い、買い求めました。いま言った「以前」というのが曲者で、はて何年前のことだろうと自問しても、すぐには答えが出てきませんでした。手にとって、じっくり見ているうちに「昭和53年度文化庁芸術祭参加」とあり、24年も前に出たLPだったんだと改めて驚いてしまいました。

このCDには、1950年代に作曲された2曲(三善晃と入野義朗)と1960年代に作曲された7曲が収録されています。各曲とも個性的で、この2枚組は、ときどき引っ張り出しては聴く、そんなCDになりそうです。

三善晃の《ヴァイオリン・ソナタ》は、高校生だった私がチャイコフスキーの交響曲のLPを買おうと思って店に行き、そこでたまたま見つけた「三善晃、林光」のヴァイオリン作品を収めたLPが妙に気になりだし(今みたいに日本人作曲家の作品を機会をみつけては聴こうなどという姿勢は持ち合わせていなかった時期だと思います)、長時間迷った挙句、究極の選択をしたという経緯があります。黒沼ユリ子と作曲者による録音(ビクター)で、何度も聴いたものでしたが、このCDで聴きなおしてみると、いかに大雑把に聴いていたかがわかりました。改めてあちこちに発見があり新鮮な思いで聴けました。このソナタは人気が高いのか、CDでも数種類の録音がありますね。

武満の《HIKA》は、私が最初に聴いたのはAMラジオでした。やはり高校時代で「新日鉄コンサート」(ひょっとすると、まだ「八幡製鉄コンサート」と言っていたかもしれないのですが、記憶がごっちゃになってしまい、どちらが正確なのかわかりません m(__)m )という番組で江藤俊哉のヴァイオリンでオンエアされたのです。その後実演にも接しましたし、自分の歴史と重ね合わせてみたときに、やはりどこか懐かしい小品です。

いま書いた2曲は、私にとって別格にしてとっておきたい気すらするのですが、このCDに収められた他の作品が、それぞれ素晴らしいです。

12音技法で書かれた入野の作品は、ヴァイオリンとピアノの緊密なアンサンブルと豊かな表情がいいですね。快活に始まる第1楽章、情緒たっぷりの民謡がきこえる第2楽章などをもつ小倉朗の《バイオリンとピアノのためのソナチネ》も聴き応えがありました。中村作品は放送、録音、実演を問わず初めて接しましたが、この曲はデモーニッシュな感じを強く与えてくれます。タイトルに《バイオリンとピアノのためのバラード第3番》と付いているわけですから、ほかにもまだあるということ。聴いてみたくなります。團の作品は、以前別の演奏者で実演に接したことがあるのですが、聴いているうちに、いつでも取り出して聴ける記録になって手元に残せることが嬉しくなりました。原の作品では、じっくりと弾きこんだ演奏に惹かれていきました(なかなか、こうは弾けないのではないかと思いつつ聴きました)。石井の《4つのバガテル》も、入野作品と同様に12音技法によっていますが、密度の濃い、短い曲の集まりになっています。別宮作品は、がっしりと構えた演奏に聴こえます。

いずれもヴァイオリンとピアノのアンサンブルが緻密なうえに、各曲の個性をなんと見事にひきだしていることか。2枚組を企画した、当時のトリオ・レコードと復刻を果たしたArt Unionにも拍手したい気持ちです。
【2002年5月18日】


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