「言葉のスケッチブック」
ふと、足を止めた言葉たち
NO.2(2000.02)


「林さんは、歩き方が美しいですね」と、初対面の若い女性に言われた。こういう言い回しをされると、うれしくなる。

「Kさんが付いてくれたので、手術のときほっとした」。担当の歯科医に言ったことがある。Kさんは、若い歯科衛生士。そのあと、申し送り事項として、「林さんの担当はK」と内部カルテに記されたそうだ。僕は半年以上経ってからそれを知った。
「それまで半人前だと思っていたのに、初めて担当の患者さんが持てて、すごく嬉しかった」。
何気なく言った言葉が、誰かの力になっていた。


泣いたらおしまい、にしていた小学校までのケンカ。

「2000年10月12日に世界の人口が60億人を突破する、と国連人口基金が発表。
地球の上には、これまで何人の人が生まれてきたのだろう。以前、東大に電話を入れて訊いてみたことがある。人類学の教授は「私は正直に分からないとしか言えないなあ」。「あなたは、面白いことを考えますね」とも。

生まれるのが、ほんの百年違っただけですれ違うこともない。
人が出会うことのできる不思議。

姪の結婚式に出席して思う。子供は、親が成長するために遣わされてきたのだ。

蛹(さなぎ)になった我が子を見たら、蝶はさぞ驚くことだろう。かわいい青虫ちゃんが、硬い殻を作る反抗期。

「あなたの本に出会って創作意欲が湧いてですね・・・」。60歳で社長業を引退したあと、歩行困難になって入院中に僕の本を読んで、リハビリに励むことができたというお話。自分を救うために書いたつもりの本だったのに。

大のコンピューター嫌いが、思いついて始めてしまったホームページ作り。死闘の40日間であった。
コンピューターの情報処理の法則は@何をAどこでBどうしたいか、であることを知った。
その方面に詳しい同僚によると、以前は「どうしたいか」からの処理だったそうだ。この法則が登場したのは、マウスが開発されてから。先んじたのがマックとマイクロソフトだったそうだ。

Sunshine on my shoulder makes me happy.
食事から帰社する途中、背中がぽかぽかと暖かくで、ふとメロディーが浮かんだ。何という映画だったか、白血病で恋人を失った青年のうしろすがたを背景に流れていた曲。happyという言葉は、軽いものではない。

これまでなんとなく敬遠していた柳宗悦の著作を読み耽っている。「民芸の美」は、アンチ「明治の技巧美」であって、白樺派のお坊ちゃんたちが見つけて得意になっていたひ弱なモノサシにすぎないと思っていた。
しかし、これほど美しいモノサシがあっただろうか。そして、彼のもとに集った人々の浄らかさ。

「ざわめきの 中に たゆたい ソロでいる」
20歳以上年長のDさんが、僕をこう評した。きっと褒めてくれているのだろう。しっかし、これは、サラリーマンとしては向いてないということではないのか。

哀しいことに、自分の小さなモノサシでしか他を測れないのだ。モノサシをはみ出した人格も、またしかり。



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