執筆記事
メディアに執筆した原稿を再掲します。
知っておきたいリフォームの最新事情(「近代セールス」2010.7.15号)

住宅市場は大きな転換期を迎えている。住宅政策は2006年の住生活基本法の制定以降、フローからストックへ、スクラップ・アンド・ビルドからサスティナビリティ(持続可能性)へと大きく舵が切られた。加えて、景気低迷の影響も受けて住宅の新設着工戸数は激減している。そこで注目されるのが、リフォーム・建替え市場だ。

2007年以降は団塊世代の大量退職により、リフォームや建替えの需要が増えると業界では期待している。しかし、期待されているほどには市場規模は拡大していないのが現状だ。矢野経済研究所では、2010年の住宅リフォーム市場規模を6兆3000億円と予測しているが、2006年以降5年ぶりに6兆円台に届くという。

リフォームの2つの流れ

では、リフォームの実態を見ていこう。「平成21年度住宅リフォーム実態調査」によると、戸建て・マンションともに50〜60代のリフォームが多く、全体の72.0%(戸建て73.5%・マンション63.9%)を占めている。したがって、住宅の築年も20年を超える比率が高くなる。リフォーム金額は100万円未満から1000万円超まで幅広いものの、全額を自己資金で賄っているケースが多く、ローンはあまり利用されていない。

一方、件数は少ないものの40代以下のリフォーム(戸建て19.6%、マンションで29.4%)では、中古住宅を購入したり、親から住宅を相続したりして、大規模なリフォームを行うケースも多い。したがって、ローンを利用する傾向が強く、その額も比較的多くなるといった実態がうかがえる。

そこで、第一に若年層に多い中古住宅購入時のリフォームについて、第二にシニア層に多い住宅の老朽化等に伴うリフォームについて見ていくことにしたい。

若年層に多い 中古を買ってリフォーム

新築と遜色のない築浅のものから古いけれど格安なものまで、品ぞろえが豊富な中古住宅の人気が高まっている。しかし、前居住者の生活感の残る内装を嫌ったり、経年劣化による品質低下を懸念する声も多い。このため、適切なリフォームをプラスすることで中古住宅需要が活性化することになる。その際に課題となるのが、資金計画だ。「リフォーム費用がどの程度かかるのかわからないため、資金計画の見通しが立たない」という声はもちろんのこと、住宅ローンがリフォームにも利用できることすら知らない消費者は多い。住宅ローンを使って購入することを優先させたため、リフォームを検討する段になって思った融資が受けられないことがわかったという人もいた。

ここにきて、中古物件を仲介する不動産会社が、系列のリフォーム会社と連携する動きが本格化している。大京リアルドと大京エル・デザインによる「中古マンション購入&リフォーム」サイト、東急リバブルと東急ホームズによる「中古物件購入×リフォーム」サイトが相次いでオープンした。いずれも中古住宅購入検討者に対し、検討段階からリフォームに関する相談を受けることで、ユーザーニーズに応えたいとしている。さらに、業界団体での連携の取り組みもある。大手仲介会社が加盟する不動産流通経営協会(FRK)では「FRKバリューアップモデル」として、売り主や買い主に対して耐震診断・建物検査やリフォームを提案する取り組みを開始した。建物検査・耐震診断では住宅検査保証協会と、リフォームではINAXとそれぞれ提携している。

また、あらかじめ全面リフォームを施した物件を販売する「リノベーション物件」も注目されている。(リノベーションとは、時代に合わなくなった機能や性能を向上させ価値を高める改修をいう)。リノベーションの統一基準を設けて、基準に基づく品質確保や保証を促進する「リノベーション住宅推進協議会」も2009年7月に発足した。その中心となったインテリックスでは、古い中古マンションを買い取ってリノベーションし、最長10年の「アフターサービス保証書」を付けて販売している。

50代以降に人気の定額制リフォーム

次に、住宅の老朽化等に伴うリフォームについて見ていこう。建替えには時間も費用もかかるため、住宅を全面リフォームするケースが増えている。その背景には、総額がかさみがちな全面リフォームに対して、「定額制」による予算の立てやすさがある。定額制とは、リフォーム費用が住宅の床面積で決められているもので、標準となる工事には外装・内装から建具、住宅設備まで含まれていて、追加費用は発生しない。標準に対してプラス・マイナスの工事があれば、工事ごとの定価により費用も増減する。

この定額制リフォームで先行するが住友不動産の「新築そっくりさん」だ。建替えに代わる商品というコンセプトで1996年から営業を始め、2010年6月時点で全国累計受注数が6万棟突破という実績をもつ。戸建ての場合、耐震補強も標準となっている点も特徴だ。

最近は、この定額制リフォームを手掛ける会社が増えている。三井のリフォームは従来のマンションの定価制リフォームを戸建てにも広げ、「わが家一新」の販売を開始。ミサワホーム(Marm)や住友林業ホームテック(Ma:RI)などでも、定額制マンションリフォームを扱っている。さらに、管理会社である東急コミュニティ(CORETTO)では、定額制の全面リフォームだけでなく、部分リフォームの定額制も開始している。

定額制はパック商品にしているだけで、低額ということではない。オーダーメイドのリフォームと比べると、割安な場合も割高になる場合もある。しかし、費用のわかりやすさが、消費者のニーズをとらえたといえるだろう。

今ならさまざまな助成制度がある

今、急成長しているのが「エコリフォーム」だ。社会的なエコブームによるだけでなく、住宅エコポイントやエコリフォームへの助成制度などが需要を拡大させている。住宅エコポイントとは、エコリフォームやエコ住宅の新築を対象に最大30万円相当のポイントを還元するもの。エコリフォームの適用要件として、外壁や窓などの断熱性能を向上させる改修が中心となるため、二重サッシ(内窓)や複層ガラスの注文が急増しているという。また、太陽光発電設備への国からの補助金が復活したこと、余剰電力の新しい買取制度が実施されたことから、初期の投資費用を回収しやすくなったため、太陽光発電設備への需要が高まっている。

ほかにも補助金として、耐震改修やバリアフリー改修などで、国の交付金を受けて多くの自治体が補助金を支給する制度を整えている。介護保険によるバリアフリー改修への補助もある。

一方、リフォームで利用できる減税制度も充実している。リフォームでローンを利用した場合に「住宅ローン控除」の適用が受けられることに加え、耐震改修、バリアフリー改修、省エネ改修では、ローンを利用しない場合でも所得税の減税が受けられるほか、固定資産税の減額措置もある。それぞれに期限や適用要件が定められており、重複して適用できるものもあるので、事前に情報を集め有効に活用すれば、それだけ還元額も大きくなる。

今後のリフォーム市場の拡大をにらんだ領域再編、企業間提携、新規参入が活発化している。ホームセンターや家電量販店がリフォームに参入し、業界の勢力図が大きく変わる可能性もあるだろう。