執筆記事
メディアに執筆した原稿を再掲します。
2世帯住宅が注目される その理由とは?(「近代セールス」2012.10.01号)

2世帯住宅がここにきて、俄かに注目を集めています。嫁姑の難しさなどもあって、双方ともに「近居はしたいが、同居は好まない」というのが定説だった親子2世帯の関係性が、変わりつつあります。どういった環境変化があったからなのか、どんな住宅が開発されているのかについてまとめてみます。

2世帯同居のメリットは 相互の助け合いと万一の安心
パナホーム(株)が首都圏で2世帯住宅に住む親世帯と子世帯の夫婦を対象(総数1,000人)に『2世帯住宅に関する生活者調査』を行いました。
その結果、「2世帯同居のメリット」を親世帯に聞いたところ、「生活面で相互に助け合える」、「孫の成長を間近に見る楽しみ」、「万が一の時の安心」が上位に挙がりました。一方子世帯では、「親の健康状態をすぐに把握できる」、「自分や家族の体調不良時のサポート」、「万が一の時に安心」といった万一の安心をメリットに挙げるとともに、「家事の日常的サポート」、「育児の日常的サポート」、「日常の生活費を少なくできる」といった親世帯からのサポートや経済的な支援もメリットに挙げています。親世帯・子世帯ともに、相互の助け合いや万が一の場合の安心をメリットに感じているようです。

子世帯の所得の低迷が2世帯需要を生む
さて、2世帯住宅が注目される第一の理由は、子世帯の所得の伸び悩みにあります。子世帯の家計が厳しさを増すなかで、「贈与税の非課税制度」を利用して、親から資金援助を受けて住宅を購入する例が増えています。こうした親子二人三脚で住宅を購入するなど、親子2世帯の家計の連結が進むことで、2世帯住宅が注目を集めているわけです。通勤可能な場所に親世帯の家があるなら、それを活用すれば経済合理性が高いということです。
また、男性の所得の伸び悩みや女性の社会進出により、出産後も共働きをする子世帯が増えていることが第二の理由です。特に、3.11の大震災では、母親(子世帯の妻の立場)が帰宅難民となり、保育園のお迎えに行けないといった深刻な事態も起こりました。そばに祖父母がいれば、育児や家事などのサポートが得やすいというメリットを強く感じるようになったのです。

2.5世帯同居にも 注目が集まる
今年の8月に旭化成ホームズ(株)がヘーベルハウス「2.5世帯住宅」を発売しました。2.5世帯同居とは、親世帯に単身の娘や息子などが加わること、つまり子世帯にとっての兄弟姉妹いずれかとも同居することを指しています。
国勢調査によると、近年の晩婚化・非婚化・離婚率の上昇などから、60代世帯主の家族では、これまで最多であった夫婦のみの世帯に代わり「親と単身の子」で暮らす世帯が最も多くなっています。この事実を踏まえ、同社の「くらしノベーション研究所」が自社で供給した2世帯住宅における世帯類型を調査したところ、親世帯に単身の子が同居しているケースが2割近く存在することが分かりました。
そこで、同研究所では「親世帯の将来の居住形態が不確定なために2世帯住宅建設の具体化は比較的難しいという認識があった」ものの、2.5世帯同居における暮らしの満足度の高さや単身の子が仕事を持つワーキングシングルであることなどから、「2.5世帯同居のスタイルが増加することを予測し、新たな商品を開発した」ということです。
同研究所の『都市型親族集住 2.5世帯同居の実態』調査報告によると、息子世帯+親世帯+女性単身(息子の姉妹)という組み合わせが最も多くなっています。親世帯と暮らす単身女性の場合、84%がフルタイム、6%がパートタイムと9割が就業しており、75%が実家に生活費を入れています。さらに新居の建設にも貢献し、建設費を出したのは36%、住宅ローンを借りたのは14%という結果でした。
また、2世帯同居に比べ2.5世帯同居のほうが、親世帯の資金援助の額も増加するため、子世帯のローンだけでなく、親世帯やワーキングシングルからの資金が加わることで、資金力が増える点が2.5世帯同居の特徴です。

2世帯住宅で リフォームや大型化の動きも
従来は、2世帯住宅にするには、親の一戸建てを建て替えたり、増築したりと大掛かりな工事を必要とするのが一般的でした。ところが、子世帯の所得が低迷し、住宅購入力が低下する状況から、低コストでも2世帯住宅ができるように、旭化成ホームズ(株)が自社の顧客を対象に、リフォームによる2世帯住宅の商品を開発しました。
一方、容積率の問題もありますが、建物を4階建てなどにして、賃貸できる部屋を併設する2世帯住宅の建て替え需要もあると聞きます。これは、建築コストがかかっても家賃による収入の安定化を期待してのことと思われます。
このように、子世帯の所得の低迷を大きな要因とし、共働きの増加、非婚化や離婚率の上昇などから、家族における相互の助け合いが重視されるようになり、大家族同居が見直されています。ただし、資金力の高低から、建て替えやリフォームなど様々なバリエーションも求められています。

また、先のパナホーム(株)の調査によると、「2世帯同居に対する満足度」を同居スタイル別に聞いたところ、親世帯は子世帯よりも総じて満足度が高い結果となり、特に息子世帯と同居・娘世帯と同居の場合ともに、母親の満足度が高くなっています。一方、子世帯においては、息子の妻の満足度が目立って低くなっています。こうした、世帯間のストレスを軽減する間取りや設備のバリエーションも求められており、住宅業界では2世帯住宅に熱い視線を注いでいるというわけです。