episode 4「火の山探訪記」湯布院〜阿蘇山 
さらば別府温泉、祭りのあと。
前日、ホテルに帰り着いたのが11時45分。なんとか午前様にならずに済んだ。朝食の時、仲居さんの話。他のお客さんが帰ってきたのは午前2時過ぎだったそうだ。ホテルには一目でサッカーサポーターとわかる集団とは別に、屈強な男たちの集団がいて、どこのご一行だろうと思っていた。出発しようとホテルの駐車場に行くと、警察車両がいっぱい。W杯の警備に他府県からかり出された警察官のみなさんだったようだ。ちなみに、この車両は京都ナンバーだった。
美しい由布岳を眺めながら。
この日は、阿蘇山へ向かうことにする。別府の町を出て、クルマは湯布院へ。由布岳の美しい山容と緑が眩しい。早くも娘はクルマの中で寝ている。せっかくの景色なのに。山のカタチが本州とは違う。北海道とも違う。なんだろう、大らかなわがままさを感じる。「ワシは、ワシでゴワス」(方言が変?)という感じかな。
旅情、湯布院。
湯布院駅前のメインストリート。由布岳を望む気持ちのいい街である。平日の早朝のため、混み合ってはいないが、休日には多くの観光客でにぎわうようだ。湯布院というと静かな山間の温泉地のイメージが強いが、昨今は人気も高まり、清里や軽井沢のようにミーハーな店も建ち並んでいる。俗化したと嘆く人も多いと聞く。我々は、駅前のおみやげ物屋を覗いただけで、早々に立ち去る。
快適にクルマは走る。
阿蘇くじゅう国立公園の中を走る「やまなみハイウェイ」。起伏に富んだルートで風景も素晴らしい。約20年前、高校の修学旅行でこの道を観光バスで阿蘇へと向かった。バスの中では友人と騒いだりふざけたりしていたため、あまり風景に見覚えがない。前方に噴煙が上る硫黄岳。ここは標高1,000mの高原、長者原。九州の屋根と言われる九重連山を見ながらクルマは快適に進む。ただし、車内では娘が“モーニング娘。”のCDをかけろと大騒ぎ。この風景に似合わないBGMだろうが。
小さな夢が叶いますように。
今回の阿蘇行きの最大目的のひとつ。それが、ここ阿蘇の草千里ヶ浜。標高1,100m余りの火口跡にできた盆地状の草原である。高校の修学旅行で行ったことがあり、その時の記憶が「アルプスの少女ハイジ」みたいだったこともあり、今回、娘と手をつないでいっしょに草原を走りたいという夢があったのだ。が、夢と現実は違う。ここ草千里ヶ浜では乗馬が行われていることもあり、馬の糞臭い。あちこちに転がっている。おまけに、娘は言うこと聞かずに勝手に走っていってしまう。こらこら、馬の糞を触るんじゃないって!
ロープウェイで火口まで。
いよいよ、噴煙を上げる阿蘇の中岳火口へ。山麓からロープウェイに乗り込むのだ。片道5分余りだが、ガイドのお姉さんが案内をしてくれる。草木の生えない山肌を見ながらロープウェイは進む。阿蘇は火山なのだ。山頂駅に到着。平日で観光客も少なく快適。しかし、帰路、この平和なロープウェイで大騒動が持ち上がろうとは、神ならぬ身の我々には知るよしもなかった。
これが大地の鼓動なのだ。
ロープウェイを降りると、そこはもう火口。阿蘇名物、絵はがき売りのおじいさんがいた。20年前に訪れた時もいた。その時の人は、きっと鬼籍に入られているだろう。ご存じない方のために説明すると、阿蘇の絵はがき売りのおじいさんとは、火口の様子などを説明してくれるガイドなのだが、最終的には阿蘇山の絵はがきを売りつける商売である。その絵はがきも、写真に彩色した妙な代物で、仲間が火口まで降りていって決死の覚悟で撮影したとか、怪しげな口上で売っている。この日は、客もまばらな上、ガイド説明が終わると潮が引くようにみんないなくなり、絵はがきは1セットも売れず。伝統的な口上売りの技がまたひとつ消えてゆく運命にあるのか。
落ちたら死ぬぞ。
いやーすごいわ。阿蘇の火口。緑色の池がグツグツ沸騰している。煙もモクモクで、地球は生きている大地なのだ。娘や息子は余り面白くないようだ。安全のために、火口には近づけないように柵があるのだが、1組の親子連れ(親父、お袋50代後半ぐらい、娘20代後半ぐらい)が柵を乗り越えて火口をバックに写真撮影をしている。まったく、お馬鹿はどこにでもいるものだ。子供が真似をしたらどうするんだ。

写真は登りのロープウェイ内
弥次喜多怒りのロープウェイ。
再びロープウェイで麓へ。山頂駅で出発を待っていると、先ほどのお馬鹿親子がやって来た。この日はW杯の日本ーチュニジア戦があり、時刻はまさにキックオフタイム。お馬鹿親父は、携帯の液晶テレビを取り出すと日本-チュニジア戦を見始めた。ボリュームがかなり大きい。わざわざ阿蘇まで来て、テレビを見ることもないだろう。そんなに見たきゃ家で見てろと思ったが、とりあえず無視。ロープウェイが到着。乗り込む。件の家族はまだデカイ音声でテレビを見ている。ガイドのお姉さんの説明もあるだろうに…。ここで、オイラ、キレました。
つかつかとお馬鹿家族に歩み寄ると、携帯テレビをいきなり取り上げ、「公共の場でのマナーってもんがあるやろ!音ぐらい消せ、ボケ!」と怒鳴る。お馬鹿家族はあわてて、オイラが返したテレビをカバンの中に片付ける。音だけ消せば良かったのに。テレビを見ることまで文句言ってないんだけど…。ふと気づくと、そのお馬鹿家族とオイラたち家族とガイドのお姉さんだけのロープウェイ内に妙な緊張感。ガイドさんは、説明しながら声が震えてる。お馬鹿家族は背筋を伸ばして前を見て身動きひとつしない。娘と並んで座る義母は他人の振り。妻に抱かれた息子が、何も知らずに「ウウッ…」と声を出すと、妻が小さな声で「静かにしなさい」。こら、キミは身内だろうが。異様な緊張を乗せたままロープウェイは山麓駅へ。
Visited 02.6.14 (C)YAJIKITA NET
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