episode2 : ママさん激写カメラマンに怒りの高速フック!

以下の話は、子供を持つ親なら誰しもやっているかもしれないという自戒を込めて。

うららかな春の休日、一家揃って「南知多ビーチランド」に出かけた。YAJIKITA/NETの熱心な読者なら、昨年の9月に娘と行ったことを憶えているかもしれない(その時の話題は、こちらへ)。前回、娘がとても喜んでくれたし、入場者が多くもなく少なくもなく気持ちよかったことから、息子にもイルカを見せようと出かけた。3月末日までの半額クーポン券もあったので。

さて、行ってビックリ。入場券売り場には長蛇の列、列、列! 春の行楽シーズンを甘く見ていた。園内も人、人、人。イルカショーも観客の山、山、山。それでも、イルカやペンギンをそれなりに楽しめたので文句はない。文句があるのはここから。

当日は、ペンギンのお散歩が行われていた。飼育係と一緒にペンギンが園内をひょこひょこ歩くのだ。手を伸ばせば届く距離でペンギンを見られるとあって、当園の名物イベントである。ペンギンのまわりには人だかり。まるでスターの成田空港到着のように、ペンギンを囲んだ一団が移動する。まあ、ずっとペンギンに付いていてもそう面白いことばかりするわけではないので、時々、その人だかりからすっと人がいなくなる時がある。

そんな人だかりの少ないタイミングで小さなペンギンが、うちの娘の方に向かった来た。もっとよく見せようと、妻は娘を連れてペンギンの方へ近づく。オイラはベビーカーに乗った息子と少し離れたところで待機。
娘は、しゃがみ込んでペンギンが近づいてくるのを見ていた。家でもペンギンさんポーズをするぐらいなので興味深いのだろう。愛らしい娘の後ろ姿に父親は満足の微笑みを向けた。ペンギンが娘の方にさらに近づいてくる。娘はきっと目をまん丸にしてペンギンを見つめているであろう。その時である、ペンギンと娘の間にカメラをかまえた女が割り込んだ。娘はペンギンとの最接近を邪魔され、少し後ろにのけぞった。ペンギンは不意の乱入者にオドロキ、方向転換。あさっての方へ行ってしまった。

乱入者の正体
は、小学生ぐらいのわが子とペンギンのツーショット撮影しようとした母親のようである。シャッターチャンスと見ると、まわりにお構いなしにカシャカシャやってる。肩にはカメラバッグ。額にはひも状にしたバンダナを巻いている。カメラはミノルタのαスウィート。変なチョッキも着ている。わが子とペンギンのツーショットが上手く撮れたわとばかりにふり返ったその顔は、心なしか篠山紀信、または池中玄太80kgに似ている。

てめー!この野郎! うちの娘の楽しみを奪いやがって、不逞野郎だ!
こういう親が新聞の投稿欄に「わが家の天使です」とか言いながら、そう可愛くもない子供の写真を送るに違いない。第一、おめえの息子、親に似て池中玄太80kgの子供版みたいじゃないか。パッとサイデリアの小林亜星の顔だけ子供みたいじゃねえか。
見ると妻も、エセ篠山紀信の後ろで蹴りを入れるポーズをしている。腹立たしい限りだが、奴の気持ちはわからなくはない。自分たちだってやっているかもしれないから。そう思って、オイラはようやく怒りを静めた。妻と娘は、その後、お土産ショップに入っていった。

オイラと息子のは隅の方に移動し、見るともなしにペンギンのお散歩を眺めていた。すると、エセ紀信は、ペンギンのお散歩に付いて廻りながら、まだ子供とペンギンを激写している。しかも、周囲の人を押しのけ、へしのけしながら。
ここへ来て、オイラの正義の血が騒いだ。奴に天誅を下さねばならない。
神様もその意を汲んでくれたのか、ペンギンがオイラと息子の方に向かってくる。エセ篠山紀信の息子もペンギンの後を追ってこちらに向かってくる。ベストショットを狙おうと、エセ紀信は先回りしてオイラの隣りに並んだ。ああ、神よ、あなたはオイラにチャンスを与えてくれました、感謝します。

ペンギンと並んだ息子を撮ろうと、エセ紀信はシャッターに指をかけた。指に力が入る。その時、オイラと息子のベビーカーは、ペンギンとエセ紀信を結ぶラインのど真ん中にぬうっと割り込んだ。「カシャ」。ミノルタαスウィートのシャッターが高速で落ちる音がオイラの後ろから聞こえた。 「チッ!」という舌打ちも微かに聞こえる。やったー! 勝った! エセ紀信に勝った! オイラと息子は1000分の1秒のシャッタースピードに勝った〜! やつのベストショットを邪魔してやった!

おみやげショップから戻ってきた妻は、その話を聞くと「よくやった、あんたはエライ」と褒めてくれた。しかし、その後、「あんたも、かなりイジワルな体質やなあ」と小さく言った。

Visited 02.2.21 (C)YAJIKITA NET

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