なぜ牛は狂ったのか

マクシム・シュワルツ
(山内一也 監修、南條郁子・山田浩之 訳、紀伊國屋書店、2002)

 

牛海綿状脳症(BSE)、いわゆる「狂牛病」について、現時点(2000年)で科学的に明らかになっていることを、一般向けに紹介した本です。著者はパスツール研究所の教授で、同研究所の元所長。

この病気は、すでに18世紀前半に「スクレイピー」という羊や山羊の病気として知られ、20世紀初めには人間の遺伝病(クロイツフェルト・ヤコブ病)として発見され、また同じ世紀の半ばにはニューギニアの食人族の特異な病気「クールー」として報告されていました。驚くべきことに、これら3つは実は同じ病気だったのです。しかし、その病原体の正体がほぼ突き止められたのは、1980年代半ばでした。ところが、ちょうどそのとき、まるで科学の勝利をあざ笑うかのように、あの忌まわしい「狂牛病」が・・・

感染症であると同時に遺伝性疾患でもある。病原体はDNAを持たない。感染してからの潜伏期間は数週間から数十年。微生物学と医学の常識に真っ向から挑戦する、この謎の病気の研究史をたどった本書は、同時に、粘り強い調査と仮説-実験を繰り返して理論を構築していく、科学・医学の方法の特徴をよく伝えています。内容は科学的に信頼でき、しかもミステリー風で読み物としても楽しめます。

ところで、狂牛病は今後どうなるのかって? 人間への感染は? 本書によれば、幸いにもそれほど悲観する必要はないが、しかし当分は予断を許さない、というところでしょうか。

 

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