がっしゃあん
やけに派手な音が響いた。
アブドゥーグは眉を顰めてベッドから起きあがった。
まだ宵の口にもなっていないせいか、下ではのんきな連中が酒盛りを行っている。
それだけなら彼も眠る気になれただろう。しかし、やけに大きな声で大暴れしているらしい。眠れる物も眠れないだろう。
─―ちっ、明日は試合があるんだぜ
折角寝入っていたというのに。彼は舌打ちして部屋を出た。
「俺は女だ。次男なんて言ってみやがえ、ぶっこほしてやる」
またあの聞き覚えのある声だ。ふと階下を覗いて叫んでいる本人を探す。
地面に這い蹲って、ここからでは良く聞こえない声で何事か呟く男、そしてその前には群青の濃く流れる髪が見えた。
――キールだな。全く、暇そうにして…
呆れた表情を浮かべたアブドゥーグだが、相手の男を見て気になる物に気がついた。
「うるへー。やるこたぁやぁってやらあ。くだんね心配なんは、してんじゃなぁっての」
キールはすっかり酔った調子で言う。相手の男は立ち上がって服を整えると睨むようにキールを見てから背を向けた。
彼の首には金属製の剣の紋章をかたどった首飾りが見えた。開会式に出た時に見た紋章と同じ形をしている。
――機甲会の…連中だったな
気にはなったが、取りあえず再びくだを巻くキールを取りあえず始末する事にした。
階下に降りて、背中を見せるキールに近づく。
「静かにしてくれ。暴れるならどこかよそへ行ってくれないか」
くるっとアブドゥーグの方を向いた顔はとろんとした目付きと半開きの口に真っ赤な頬、もう完全にできあがっていた。
「ああ、そんなかてへ事いふなほ、なあ」
彼女は立ち上がるとばんばんと思いっきりアブドゥーグの肩を叩く。
「…騒いで欲しくないと言っているんだ。俺は明日試合なんだ」
キールはにこにこと笑って肩を組みにくる。そして立ち上がるとアブドゥーグを引きずるようにして歩き始める。
「だったら俺が部屋に連れてってやるよ」
言いながら完全に体重を預けてくる。自分で立つこともできないぐらい酔っているようだ。
―─ちっ、世話の焼ける…
「暇そうだな、毎日酒を飲めるなんざ」
くっと肩をひいて持ち上げてやると恥ずかしそうに笑う。
「…そっち」
彼女―─いや、彼はアブドゥーグの部屋と正反対の方向を指さした。
ずるずる引きずられて自分の部屋に運んでもらいながら、沈黙に耐え兼ねたように呟く。
「…そんなに、試合が大事?」
奇妙な質問だ。酔っぱらってるせいだろうか?前後の脈絡が分からない。
「じゃあ聞くが、お前は何のために闘っている?」
キールは顔を背けてうつむく。
「試合は、俺にとって大事なんだ」
「…仕合はあまり好きじゃない…だから大事には思えない」
彼女の口調は静かだが、いつもの元気はない。
酔っているせいでもないだろう。昨晩一緒に――というか、一方的に呑まされたのだが――呑んだ時は終始いつもと変わらない様子だった。
「だったら、何故闘ってるんだ。仕方なしにか?」
いや、まて。
アブドゥーグは質問をしながら自分で答えられない事に気がついた。
今自分が闘っているのは確固たる目的のためだ。
決してそれが楽しいからのはずではない。
しかし、闘っている最中に『仕方なしに』事務的にこなしているような事があっただろうか。
血が騒ぐと表現するしかない昂ぶりがなかったと言い切れるだろうか。
「好きじゃない。喧嘩に勝ったって嬉ひくない。確かにさ、仕合は金がかかってんあ、日銭稼ぎするより儲へる。
…だからって好きで闘えるはずないじゃん」
どうやらかなり飲んだせいで理性のたがが外れているらしい。
「おりゃ、ひほを殺してはねを取ってんだほ…」
何があったのか分からないが、先刻の騒動と関係があるのかもしれない。
が、これ以上立ち入るのは自分の仕事ではない。
深入りして抜けられなくなるのはよくある事だ、それがどれだけ無情な態度だとしてもここはふっ切った方がよい。
アブドゥーグは酔っ払いの言葉だと自分に言い聞かせるとため息をついて背中をさすってやる。
「おいおい、全然舌がまわってないぜ。ちゃんと喋れなくなる程飲んでるじゃないか」
「ほんな事ないもん」
ぷっと頬を膨らませる。
部屋の扉を開けて、彼女をベッドに座らせる。だがキールをベッドに寝かせようとしても肩に回した腕が逆らう。
「おい、離せよ。もうお前の部屋だぜ」
人の話を聞いていない。キールは睨むような三白眼でアブドゥーグを見つめている。
「お前、ひいのか?ひほを殺してもひいと思ってんあろ!…仕合なんか、どうでもいいじゃ…そもそも試合は勝たなきゃだめだへど…
おでは機甲会のいう『神聖はひしき』なんかひ解できない」
ぎゅっと首もとを握りしめる手。
顔つきが、ふと女性に見えた。
「あんなの…嘘だ」
そして最後の一言は非常に醒めた目で、突き刺さるようにアブドゥーグを捉えた。
─―嘘?…『神聖な儀式』が嘘…か…
彼女は、そこでまるで力尽きたかのように腕を落とした。
アブドゥーグは自分の部屋に帰ってからもなかなか寝付けなかった。
陰鬱とした雲のような闇がいつまでも取り巻いているような気がした。
『第六試合』
その日は、朝から憂鬱だった。
『アブドゥーグ=カルマ対クレイル=ヴィシュナ』
放送が入っても全く闘う気力が沸かなかった。勝てる気がしなかった。
「どうしました、試合の前から」
クレイルが唐突に微笑みかけてきた。もう舞台の上だというのに。
「何か悩みがあるのですか?…それで本気で仕掛けてこれますか?」
柔和な顔をした男はとてもこれから闘いを行う戦士のようには見えない。
布を巻いたような帽子ときらびやかな服装はむしろ吟遊詩人としか言いようのない姿だ。
「心配するな。お前が生まれて初めて覚える恐怖を俺が連れて来てやるよ」
ぎゅっと右の革手を鳴らして彼は微笑んだ。
どん
すう、と奴の姿が揺らめく。そう、丁度陽炎のように。
こめかみに走る鋭利な痛み
爆発するような凄まじい吐息
一瞬奴の姿を見失った彼は瞬時に態勢を整えようとして術を行使した。
「やりますね…」
アブドゥーグは油断できない奴だ、と感じた。
まだ危機は感じない。恐ろしいとも楽しいとも思えない。ただ自分がどう動くべきなのか、それだけが非常に気にかかる。
奴は自分の視界に間合いの外でまるで見世物でも見るようにゆらりと立っている。まさに陽炎そのものだ。
だが奴の攻撃は鋭い刃物よりも堅く、尖っている。
「言っただろう、俺がお前に初めての恐怖と言うものを与えてやると」
何か満足感がある。充足される感覚に少しのめまいを覚える。
「いいでしょう。…どうやらその言葉に嘘はなさそうです」
だが奴は構えを取らない。間合いの外でただ突っ立っているだけだ。
先程と同じように。
―─行くぞ
今度は自分で地面を蹴る。
一気に加速して襲い掛かる。
歪む姿
「障」
ぎいん
眉間の直前で止まる
針
空を切る
「破」
拳
手ごたえがあった。一瞬見失いかけた奴を盾の呪文『障』により受け止め、カウンター気味に反撃を加えたのだ。
だが、まだ直撃を与えた気はしない。
鋭い
一瞬に間合いをとる。
「…どうやら」
ぼそ、とこぼした言葉が聞こえた。
真後ろだ
その時、真に驚愕したのはあろうことかアブドゥーグだった。
間合いをとったつもりだったのに逆に真後ろを取られていたのだ。
それも、何の意味もない呟きでそれに気がついたのだ。一切の攻撃を受けずに理解してしまったのだ。
力量にかなりの格差がある。
こういった格闘戦闘では、残念ながら通常考えているように格差は見当たらない。どんな人間も同じ程度にしか見えない。
では達人との差はなんなのか。
失敗が少ない事である。だから、あまりにも格差が広すぎる場合、まるで相手にならないぐらい掌の上でもてあそばれる。
彼は今それを直感した。
だが絶望ではなかった。それは希望、いやむしろもっと彼に勝利への執着のような感情を与えるだけだった。
それが不思議なのだ。いま考えているように気を抜ける相手ではないのは分かっている。
だが、自分の感情はまるで他人の視点から見ているようにそう思えた。
再び現実の舞台の方へ戻す。
アブドゥーグは一気に間合いを開いて構え直す。
「…どうやら恐怖を与えてくれそうですよ」
奴の表情は分からない。あのにこにこした仮面を張り付けたままだ。いや、時々いる普段表情の分かりにくい微笑みを持った男なのだろうか。
その笑顔に冷や汗が流れている。緊張した面持ちには笑顔の印象は少ない。
―─やはり、多少相手の能力に驚いているのだろう。
そして、次の攻撃からは二人の本当の実力、必死になった時の過剰分込みの攻撃が始まる。これからが本番だ。
奴の姿が間合いの外から陽炎のように歪んで見えた。
そう。先刻までのように近距離で見失うような感じではない。
恐ろしいまでの速さだ。
『躍』
だが、同時にアブドゥーグの姿まで、一瞬で舞台から姿を消した。
「なっ」
思わず彼は動きをやめた。それが命取りだった。
どん
地鳴りと共にきた衝撃は、彼を地面に叩きつけた。
めり込んだ身体は引きはがす事もできず、ただ勝ちを伝える放送が聞こえてくるだけだった。
多分、観客の方からはアブドゥーグがどこに消えたのか一目瞭然だっただろう。
真上、数レヴンの所へ一瞬で跳躍したのだ。
アブドゥーグは引きはがすように彼を地面から助け上げた。
「よお、せっかくの美形が台なしだな」
彼は額と鼻を折って血まみれになっていた、が、死んでいる訳ではなかった。
丈夫なものだ。
「そのとおりですよ。全く、私のいいひとが貴方のせいで半分に減っちゃうじゃないですか」
アブドゥーグはその言い草に思いっきり笑って見せる。
「じゃ、その半分は俺がもらうか」
クレイルは痛々しい顔に苦笑を浮かべる。
「…参りましたよ、貴方には。…次も頑張ってください、私に勝ったんですからね」
アブドゥーグは笑みで答え、彼を治療師に預けた。
「じゃあな」
彼は舞台に背を向けながら、奴に勝った快哉と寂しさにも似た感慨に自分の感情と行動原理との矛盾に気がついた。
多分、昨日のキールの言葉のせいで敏感になっているのだろうが、
意識したせいか闘っている最中に事務的にこなしているという感覚が途中で消えたのがはっきりと分かっていた。
二人が本気にならざるを得なくなったあの時、嬉しかった。
嬉しいはずがない。目的の達成にとって邪魔になるだけのはずなのに、余計に目的が遠のくのに、そんな感覚はなかった。
好きで闘いをするはずがないという意識が思いっきり否定されたのだ。
めまいがするようだった。
ある宿場町。宿場と宿場をつなぐ交通手段には幾つかあるが、最もよく使われているのは馬車だろう。
宿場には必ずと言って良い程馬車の駅がある。
ぶるる、と馬が震える。
「…?あ、これは旦那」
御者が気配に気づいて顔を上げると、すっぽりとマントを被り、顔に布を巻いた男が立っていた。
「久しぶりだな。すまんが、また貸してくれないか」
「へい、もちろんでやす。旦那なら世界の果てでさえ案内しますぜ」
男は鋭い眼光をその深遠な瞳の中に隠したまま呟いた。
「…リグスタニアへ」
─―だから…だから俺は嫌いなんだ…
キールはアブドゥーグの背中を見送りながら、唇を噛んだ。
宿の窓にひじをかけてゆっくり街の日が暮れようとするのを見つめる少年。正確には少年ではなく、彼女だ。
─―だから嫌いなんだ…
窓から体を引きはがすようにしてベッドに転がり込む。
昨夜の記憶は酒のせいで曖昧だが、少なくともアブドゥーグに連れて来てもらったのは確かだ。
何を言ったのか気になる。どう思われたのかが気になる。それに、これでもう。
アブドゥーグが背中を見せた時の寂しいような気持ちは。
ふと体を起こす。そう言えば彼の部屋はどこだろう。
─―仕事があるんだ。…やめておこう
彼女は身支度を整えて部屋を出た。薄暗がりが街を覆う前に。
場内ではまだ十試合目が始まったが、アブドゥーグには興味のない試合だった。
─―確か次はキールの試合だな
呪紋書を片手にふと対戦表を見る。そこにはキールと対戦相手の名前が載っていた。
発券場は、時間通りに閉鎖された。
しかし、試合は時間通りには開催されなかった。
『先程の試合の賭け金はお返ししますので、各賞金受取所にてお受け取り下さい』
振動器が伝えるアナウンスは場内を落胆させた。出場者が時間通りに闘儀場にいない場合、即刻負けが確定し、選手権は剥奪される。
それは出場者全員が承知のはずだ。
――あの馬鹿、昨夜あれだけ呑むから…
開会式の当日も確か寝坊して出場していなかったのもあり、彼はため息をついた。
昨晩の騒ぎを思い出して眉を顰める。が、気になって宿の方へ向かった。どうせ同じ宿の違う部屋なのだから、手間でもない。
酔っぱらった彼女を寝かせた部屋は分かっている。彼は自分の部屋には帰らずにまっすぐキールの部屋へ向かった。
こんこん
返事がない。
もう一度ノックしても返事が返ってこないので扉に手をかけた。
かんかんかんかん
金属を叩きつけるように響きわたる靴音。
闘儀場は閑散として静かに沈黙の嵐が吹き荒れ、あちこちから闇が染み出している。それが逆にフェイを追い立てている。
―─間に合わないか
彼は唯一存在する階段で上へ向かっている。もし誰かが降りようとするならば分かる。
それでも彼は静かなこの一帯の雰囲気に飲まれていた。
ざん
最上階。
まだ間に合ったようだ。ちょうどそう思った時、彼女が飛び出して来た。
「フェイ…」
「どこへいくんだ?」
ファルは明らかに彼の存在に動揺していた。
「脱走は重罪なんだろ。…どこへ行く気だ」
彼女は返事をしない。その代わり、ゆっくり後ろへ下がるようにして構えを取る。
フェイは応えて構える。
「機甲会正拳流、ラ=ファル=スプモーニ、参る」
「闘技界舞猿流、『俊速の斧』フェアラルス=ベイ=クェイ、参る」
私闘は禁止である。もちろん、喧嘩両成敗、二人とも即刻この街を出なければならない。
だが、今ここで彼らの闘いを見る人間は一人もいない。
「いやああああっ」
多分、観客がいれば驚愕の声が聞こえただろう。フェイが残像を残しながら一息に間合いを詰めたのだ。
『斧旋脚』
『鉈刃脚』
金属と金属が打ち合ったような不協和音が響き渡る。
フェイのふくらはぎを打ち付けるような強烈なファルの臑だが、残念ながら大した打撃でもなかったようだ。
これが闘士だ。彼らの身体は鍛え上げられた強力な武器である。
二人はざっ、と間合いをあける。
「はっ」
短い気合を発する。どん、と直接耳に響かない音が聞こえる。
「…何故、私の一撃を待って構えなかったの?」
フェイは苦笑いを見せて呟く。
「そうか、そんな事すりゃ、正当防衛か」
ゆらり、とファルから間合いをあけるように体を揺す。
だがそれに反応する間もなく体を切り返して突きを繰り出す。
ファルはカウンター気味にそれを返す。
「それじゃ、デートもできないだろ」
すれ違いざま背後からの肘。
すっとしゃがみこんでかわすと真後ろへの回し蹴り。
ぱしっ
小気味良い音を立てて彼女のつま先がフェイの体に届く前に止まる。
彼女の足首にはフェイの掌が圧し当てられていた。
「…こんな超接近戦闘は俺の方が一枚上手だぜ。お前こそ自分の間合いを保ったらどうだ?」
「それじゃ、せっかく付き合ってくれているフェイに悪いじゃない 」
ふっと彼女の脚の感覚が失せたと思った途端彼女の顔が目の前を横切る。
―─!
水月
村雨
鴈下
人中
稲妻
秘中
意識する暇も無く体は次々に払いと受けを続けていた。
─―以外にちゃんと鍛練してるのか
フェイは間合いを離そうと思いきり地面を蹴る。
だがファルもまるでそれをよんでいるかのように同時に蹴りこむ。
にやり。ファルはぞくっと背筋が冷たくなったのを覚えている。だが、もう。
どさ。
「甘いって。だから、俺のほうが一枚上手だって」
ファルは反応して動いたつもりだったが、それは“誘い”だった。
彼は逆に体を入れ、肩と腰を打点にする特殊な当て身をカウンターで入れたのだ。
フェイは彼女を助けるように手を差し伸べる。
だが彼女は覆いかぶさるような彼から顔を背けるだけで、手を借りようとしない。
「…何故きたの」
「旧くからの友人が間違いを犯そうとしているのを、黙って見ていられなくてさ。お節介な性格でね」
フェイはそれまできちんと笑みを浮かべていたのに、笑みの雰囲気を消し去った。
まるで、能面の笑みのような堅い、そして冷たい『笑み』だ。
つうっと彼女の頬を涙が伝う。が、フェイは一切動揺も躊躇も見せない。
「違うわよ。そんな、そんな事聞きたいんじゃない…何故私が…」
「出て行くのが分かったかって言うんだろ」
ファルは目を閉じてぐったりと力を抜く。フェイは体を起こして彼女の側に膝をついて、少し顔を近づける。
「私の所には…試合の情報と食事以外何も運ばれて来ない事だって知っているんでしょ?何故…」
「そりゃ、お前。簡単な事だろ。“仮面の剣士”が現れたって話ぐらい食事を運ぶ係に聞けば分かるだろ?」
えっ、と言った顔をフェイに向けて体を起こす。フェイはその様子を面白そうに眺めて続ける。
「おいおい、俺が気がつかなかったとでも思っていたのかよ」
ファルは唖然として目を丸くしたまま彼を見つめる。
「ま、そう言う事さ。…だがな、俺との試合を放棄しちゃくれないでくれよ。俺はお前さんと闘れるのを首を長くして待ち望んでいたんだぜ」
ぽん、と肩に手をのせる。
何を思ったのか、それに合わせて彼女は抱き着いた。
「うわあっ、こ、こ、こらっ、やめやめやめろろっ」
ごん
フェイはそのまま床に頭を打ち付けられた。
いくら闘士でも、頭は弱点である。強打すれば気を失って当然。それでなくても彼は女には非常に弱いのだ。
普段全く気にならない程ファルが女でなくても十分に効果的だったようだ。
―─…ごめんね
ファルは目をまわしている彼をそれでもいとおしそうに見つめて額に軽いキスをして立ち上がる。
後日、これがきっかけで彼は二度とファルには勝てる事はなかったというのは、余談である。