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魔王の世界征服日記
第110話 Logical Clock Mythology


 何が本当で何が嘘。

「しかし」
「ああ、確かに問題だろう。だがあの腕は確かだ。我々の邪魔をされると困るところだが」
「……後々禍根となろうぞ」
「それは承知のことであろう。だがもし、我々に賛同できるようであればいかがか?」
「その通り。我々はそもそもあの長きに渡る大戦を終了せしめた訳であり、実質的には世界を救ったのだ」
「あの女はそれを承知すると思うか」
「だが承知せざるをえまい?そもそも……青臭い理想論をここに持ち込んだ張本人であるが」
「技師としての腕も確かだ。我々の構想は彼女無しには達成しなかった」
「だが世界を創造せしめるのも我々、所詮小間使いの女はそれで用済みだ」
「そう言う考え方もあるか。デバッグ=モードは準備しているのか」
「既に。勿論256×256モードで秘匿済みで導入している。リアルモードでの起動を前提にしているがな」
「誰かが拾ったら?」
「安心しろ、秘匿を解く以前に彼らに理解などできるものか。我々『神の意志』を」
「神話は昔からそう言う風に造られているとでも?思い上がりではないか?」
「確かに。黙示録にしても儀典にしても、そして有名な諸世紀にしてもそのような記述はある」
「人間とは偉大なり。――無論、我々が偉大でない訳がないが、その点は注意した方が良い」
「しかしならば聞こうか。彼らは新たな肉体という器の中で固定された設定を保つために動くが、それを破ろうとするだろうか」
「確率は星の数の逆数に等しい。疑いを抱くには完成度が高い」
「念のため準備した方が良かろう?我々のavatarにも寿命が設定されているのであろう」
「それは既にデバッグ済みだ。23版のパッチコードをラインで走らせれば自在だ」
「エディタは用意されていないのか?」
「貴様、また女性にでもなるつもりか?いい加減変身願望は棄て賜え」
 失笑。
「余計なデバッガは不必要だ。むしろリアルでそれを走らないようにプログラムされるべきだ」
「ああ、我々以外に神は不必要だ」
「それで幾つも失敗した例がある。そう言うわけで諦めてくれ」
「では今後作業を進める上で注意すべき事項を纏めておこう。まだ世界は未完成だが、既に人々の移住は開始すべきだからな」
「ああ、この世界で原始に戻って貰っても構わないが、『睡眠学習プログラム』自体、既に完成しているのだから」
「女が進言してきた。我々の住む場所以外には緑の多い世界を用意したいと」
「好きにしたら良いだろう?我々は、我々が住む場所は我々の希望を通すが」
「好きこのんで荒れ果てた地に住むというのか?」
「好きにしろと言ったばかりだろう。だが、今更私は他の住む場所などないのだがな」
「なら私は森の中に大きな湖を湛えた場所に家を構えよう」
「聞いたか、おい。今度から彼は『湖の騎士』と呼ぼうではないか」
「ランスロットか、成る程、お似合いだな」
「ではなにか?我々の愛称は総てアーサー王から取るつもりか?」
「まさか、勘違いされては困る。そも13人などという半端な数字になってからというもの……」
「その通り、歴史的に名のりを上げるには綺麗な数字ではないだろう。特に基督教徒どもが幅を利かせた歴史ではな」」
「今の言葉、少し問題がないか」
「大丈夫だ、基督教は愚か、世界中の宗教が精霊信仰のレベルにまで落ち込んでいるのだから」
「無論だろう、何故歴史を繰り返す必要性がある」
「その通り、特に宗教などというものが存在することにより、無益な戦いが生まれたこともあるのだ」
「宗教は省くべきだ」
「本当の神である我々の存在が、宗教を否定するとは……なかなかの皮肉よ」
「そなたの言うとおり。我々があればこそ、宗教は否定ができる。――哲学として生活習慣に馴染ませておけばよい」
「ではプログラムに組む理由はないと」
「そうだ。本物がいるのに偽物をわざわざ崇めさせる理由は無かろう」
「うむ。通常の生活習慣や彼ら自身の役割を別々に与える事も重要であるな」
「戦争の無い世界、か」
「そのためには、やはり近現代ではなく、中世以前の世界文明レベルがいいのではないか」
「まて、そのレベルで宗教を省くのか?宗教で成り立っていた時代ではないか」
「確かに、古代まで戻れば精霊信仰・神降ろしが祀りと呼ばれ、政治だった時代がある」
「だがしかし考えてみ賜え、世界の争いは基督教の蔓延と腐敗が原因だ」
「中世の『十字軍』のことか」
「それは確かにゆゆしき。小競り合い位は赦すべきであろうが、あのクラスの戦争になると問題だな」
「その辺もしっかりプログラムすべきか?」
「まて、争いのない世界は確かに有効だろうが、我々が造っているのは世界であり天国ではないのだぞ。そもそも……そんな話は女に毒されていると見るべきだ」
「彼女は本気で造るつもりだろうな」
「勝手にしておけばよい。だが、いざ、ここを出た後を考えてみれば」
「……経験と言う意味ではここで積ませるべきか」
「女が納得しないであろう。プログラム根幹を完成させるためにも」
「そうだな。言い訳は何でも構わない。――エディタを用意しておこう、メインは造らせて置け」
「内容は」
「簡単だ。敵役を用意してやれば良いんだろう?――魔物だよ」
「魔物とそれを統括する魔王、これを世界に君臨させるんだよ」

「学習プログラムは」
「大丈夫だ」

「『Daemon』の外観は天使をモチーフにしてみたがどうだ」
「良い皮肉だ。なかなかどうして、面白いではないか」
「BOTとしての能力もしかり。これではこの世界の人間では太刀打ち敵うまい」
「専用設計の魔物でも居ない限り勝てないでしょうな」

「人類の救済?本気で思っているのか?」
「違うというのですか?違うのであれば、あなた方は私を騙した事になる」
「救済は既に済んだことであろう?違う、と言うつもりか」
「しかし……」
「貴女の設計した学習プログラムにより住民はこの世界に馴染み、貴女の与えた能力でもってこの世界を切り開いている」
「そんな話をしているんじゃありません!」
「ほほう。ではなにか?私のスリープマシンを止めるとでも言うのか?本当の殺人をやってみるか?総ての元凶である私を葬るか?!」
「……」
「既に遅いのだよ。我々はこの世界を創造し、人類の一部を救済した。――もう居場所もない、帰るところもない」
「だからっ!……だから、だから……何故、あなたは……あなた方は……一体何を」
「――世界征服、を」
「陳腐な言葉や今更偽りは聞きたくないわ!じゃあなに?自分達が神になったつもりで、世界の歴史でも握るつもりなの!?」
「偽りなものかね。世界中どんな人間もこれだけはなしえなかった偉業。何故なら、所詮同じ土俵に立っていたからだ」
「な、……まさか」
「待ち賜え。そんなはずはないだろう?たまたま、滅びかけていたからできる救いの手をさしのべただけ。……その代償だよ」
「馬鹿な」
「何とでも言うが良い。何とでも罵るがいい。だが――所詮、この世界を創造せしめた貴女も同罪」
「!そんな、私は」
「ここに住まう人間達は、精一杯生きているだろう。何にも疑う事無く、な」
「だけど、そうでなければっ……もう一度人類は、歴史を……やり直す必要があるから」
「本当にそうか?戦争はなくなるのか?基督教の教典の罪人共は非常に愚かだぞ。人類というものが存在してから向こう……」
「アレは信仰を煽る為の寓話に過ぎません!」
「そうとも、寓話だ。おとぎ話だ。ファンタジーだ。この世界そのものが、な」
「う……そんな」
「たった数千年で目覚める、そんな陳腐なおとぎ話さ。『ReTerraForm』が終わる頃、再び人類が持つ叡智を地表に溢れ返させる為に」
「……あなた方は、そんな世界を自らの手中に収めようというのでしょう」
「指導者として。いわば神として。そのためのシステムはキミが用意してくれた」
「そんな事っ……」
「望んでいなかったか?隠しておいたからね。くっくっくっく……少なくとも君の望みは叶えてあげたはずだ」
「確かに私の造ったシステムですっ!でも、あなた方のような考え方では、結局今までと変わらない!」
「変えてどうするつもりだったのだ」
「――!」
「我々は変化を求めなかった。我々は我々の利を求めた。肉体的な死を取り除こうとした。戦争などという無駄が世界を滅ぼすなら、それを利用しただけに過ぎない」
「……交渉決裂、ですね。私は二度とこの世界に干渉しません」
「ありがたい事だ。だが――世界の崩壊による人類消滅は困るな」
「メンテナンスをしろと?」
「そう言うことだ。コアは我々ではメンテナンス不可能だろう?」

「アバター強制介入だとっ!」
「『消しゴム』って判るかしら」
「貴様っ……」
「コアをようやく改竄出来た。もうあなた方の古いデバッガは通用しないわ」
「そんな馬鹿な、これでは」
「そう言うこと。あなた方はもう神でも何でもない。―― 一人の人間よ」
「そんな」
「『輪廻』に叩き落としてあげる。あなた方全員。――この世に残された人間全員を更正させる」

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  ReBoot

 刻み込まれるは。
 偽物の歴史の中の、一つの想い。


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